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転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第六章 転生勇者編
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転生勇者と悪夢の始まり

一分………一分遅れた………!


そして皆さん、サイドテールが大好きなんですね(にっこり)

「はあっ!」

「ぐおっ………!?」


 俺の剣が、悪魔族の戦士の胴体を貫いた。

 今俺は、人を殺した。だけど、何も感じない。それが恐ろしい。

『勇者』の力の一つである、人間以外の生物の命を奪う感覚をマヒさせる効果とはいえ、命を奪うという行為に何も感じることができない自分に、嫌悪感すら覚える。


 そう。俺は今、勇者として戦場にいる。

 戦場で、九人の仲間と一緒に、魔族を殺している。

 魔族たちも応戦はしてるけど、劣勢だ。

 というのも、


「お見事です、勇者様。またレベルが上がったのではないですかな?」

「いやー、これは僕たちが追い抜かれてしまう日も近いですかね」

「………デューゲンさん、ハサドさん」


 この二人がいるということが大きい。

 聖十二使徒序列第五位、『巨弓』のハサド。

 第四位、『金剛』のデューゲン。


『六位で区切り』とまで言われる聖十二使徒。その、桁違いの実力を持つ上位五人のうち二人。

 人類最強クラスが味方にいる。正直、負ける気がしない。

 さらに、他の七人も。


「………ふん、他愛もない」

「うっ、うっ………悲しい………!なぜ、彼らは魔族に生まれてしまったのでしょう………」

「ノインっち、泣いてると前見えなくて危ないんじゃないのー?」


 あっちで無双してる三人も、聖十二使徒。

 最近新任した序列第八位、『水連』のレノア。

 古参の序列第七位、『白剣』のイーディス。

 序列第六位、『魔哭』のノイン。


「うおおおお!?ちょ、アイちゃんあぶねえ!」

「うしろうしろ、敵いますよ!」

「え?………きゃあ!?」

「先生、伏せて!………はっ!」

「うひゃあ!?………た、助かりました………」


 ………あそこの危なっかしいのは、俺と同じ転生者組から選抜された仲間。

 神官のジード。前世は俺と仲が良かった『北嶋斗哉』。

 剣士のシグマ。前世は『萩野優馬』。昔は内気だったけど、転生してから明るい性格になった。

 魔法使いのアイ。前世は俺らの担任で、科学の先生だった『緋崎愛華』。

 格闘家のウィッカ。前世も今も堅物委員長。前世での名前は『石原怜奈』。

 全員が、聖十二使徒下位級の実力を持つ精鋭だ。………まあ、元温室育ちの地球人、戦闘慣れしてないから、俺を含めて不安はあるけど。



 ※※※



「………このあたりの魔族共は、全員撤退したようだ」


 デューゲンさんがそう言ったから、俺たちは緊張を少し解いた。

 あたりには、かなりの数の魔族の遺体が散らばっている。正直、あまり見たくない光景だが、聖十二使徒の面々は平然としている。

 こっちなんか、アイがもう三回も吐いているのに。


「そのようですね。………しかし張り合いがなさすぎる。所詮魔族か」

「イーディス、油断しちゃあ駄目だぜ。そういう油断が、先代、先々代の勇者の死を招いたんだ。魔族共の中にも、僕たちの手に負えない化け物は存在するって覚えといた方がいい」


 そう言ってイーディスさんをとがめたのは、ハサドさんだった。その後ろで、デューゲンさんも頷いている。


「………変わりましたね、ハサド様。かつてはそのようなことを言う方ではなかった」

「………………あんな地獄を経験すれば、お前も考えが変わるさ」


 この二人は、四年前、四魔神将と一度戦い、どちらも敗北している。

 ルヴェルズ様が助けに来てくださらなければ、間違いなく死んでいたと、二人は言っていた。


「サクラ・フォレスター………正直、二度と会いたくない」

「そんな弱気でどうするのです!ここにいる全員がいれば、四魔神将など恐れるに足らず!むしろ、出てくるのを待とうではありませんか!」

「お前は何もわかってない!………サクラは、あいつは………化け物だ。あいつより上が二人もいるなんて、信じられない………」

「リーン・ブラッドロードにしたってそうだ。俺の神器『金槍フール』が無くなった瞬間、俺はあの女に手も足も出なかった。あの女は頭が回る。敵に回すと、これ以上なく厄介だぞ」


 リーン・ブラッドロード。おそらくその正体は、俺の初恋の人だった、千条夜菜さん。

 魔王軍準最強、『鬼神将』の異名を持つ。魔法と徒手空拳を同時に操るその姿は、まさに鬼神のようだったと、彼女を遠目から見たものは言う。

 何故遠目からかと言えば、近くで見た人はほとんど殺されているからだ。


「………まあいいでしょう。幸いにもそのリーンという吸血鬼は、父親を殺した私を恨んでいる。我を忘れて私にとびかかってきたところを、この白剣の錆にしてやります」

「おお!イーディスさん、かっくいーぜ!」

「そうだろう、ジード」


 イーディスさんはまんざらでもなさそうな顔だが、ハサドさんとデューゲンさんはため息をついている。

 よほど恐ろしかったんだと思う。四魔神将という存在が。


「しかしハサド。こうなるとやはり気になるのは………」

「四魔神将第一席。『戦神将』ヨミとかいうやつですね」

「ああ。魔王軍最強の称号を持つにもかかわらず、その陰すら見たものがいない。噂では、四年前のミィア殺害はそのヨミによるものらしいが」

「確証ないんでしょう、その噂。………そもそも存在しない、という考えもあるみたいですね」

「名前だけのこけおどしということか?ありえなくはないが、リーンがいるというのにそれをするメリットは………」


 なんだか関係ない話になってしまった。


「み、みなさん。話はそれくらいにして、そろそろ追撃に………」


 行きましょうよ、と言おうとした瞬間。

 空に、凄まじい魔力反応を感じた。

 慌てて上を見ると、巨大な結界魔法が、瞬く間に俺たちを中心に張り巡らされていく。


「これは………転移阻害結界………!?」

「僕たちの転移を封じた………つまり、逃がさないという意思表示。………まさかとは思うけど、初日から………」


 全員であたりを警戒しながら、話に耳を傾けていた。


「………………おい、誰かこっちに来るぞ」


 ジードのその言葉に、振り向くと………確かに、誰かがいた。

 身長は百八十センチ以上ある。軍服に似た服を着た、青い肌と黒と白が逆転した目。つまり、魔人族の特徴を持つ男。


「おい、あれはまさか………」

「………………グレイ・クリスト………!」


 グレイ・クリスト。その名前を記憶から掘り返し、直後に俺の背筋は凍った。

 魔王軍四魔神将第四席、『武神将』グレイ。徒手空拳の戦闘能力は魔王軍ダントツとまで言われる、絶対に出会いたくない者の一人。


「………初めましてだ………勇者パーティ………俺は………グレイ………魔王軍の………戦士だ………」

「………初日から四魔神将投入とは、魔王軍も随分と焦っているようだな」

「………否定は………しない………『勇者の素質』を………持つものが………何故か………多く………現れすぎている………」

「ふん!それはミザリー様が、貴様ら魔族を滅ぼせと言っておられるのだ!」

「………そうかも………しれないな………だが………その男………勇者ゼノで………打ち止めだ………」

「………………なんだと?」

「………魔王様は………言っておられた………勇者は………その男で………終わりだと………」


 俺で、終わり?

 それが本当なのだとしたら、俺が死んだら、今後しばらく、勇者は現れないことになる。

 勇者は、『無限に成長できる』、唯一の職業。それがなくなったとなれば、自分でいうのもなんだけど、人類の損失は計り知れない。


「………それが事実だろうが虚言だろうが!どのみち、貴様を仕留め、勇者様をお守りすれば済むことだ!」

「そ、そうだ。一対一なら厳しいかもしれないけど、ここには僕とデューゲンさんがいる。二対一なら………!」


 そう言って、デューゲンさんとハサドさんは、持ち前の神器を構えた。


「デューゲン様、ハサド様!私も加勢を………!」

「馬鹿、お前は勇者様を連れて撤退だ!お前が参加したって足手まといになるんだよ!」

「なっ………!し、しかし!」

「イーディス、ハサドの言う通りにしろ。お前じゃ、まだこいつの相手は力不足だ」

「ぐっ………わかり、ました」

「他の者も全員撤退だ!我らがこの男を止めている間に、早くしろ!」


 その声で、俺たちは一斉に退却した。

 イーディスさんだけが納得いってないみたいだったけど、とりあえずは言う通りにしていた。


 だけど。


「《破壊光線(ブレイクレーザー)》」


 その陣は、一瞬で瓦解した。

 どこからか放たれた、超高位魔法によって。


「なんだっ!?」

「………たしかに………お前たちであれば………俺を………しばらくは………足止め………できるだろう………」


 吹っ飛ばされたけど、何とか無事だった俺は、グレイの声が聞こえる位置まで戻されていた。


「………だが………ここにいる四魔神将が………俺一人と………言った覚えは………ない………」


 そしてこの言葉に戦慄し、後ろを振り返る。


「え、えっと………すみません………逃げられるとその、困るので、吹き飛ばさせてもらいました………」


 そこにいたのは、幼い女の子だった。

 十二歳くらいだろうか。見た目にあわない、ごてごてした杖を持っている。


「………ひいっ!あいつ、あいつはあ!?」


 ハサドさんが、恐ろしげな声………否、悲鳴を上げた。

 ハサドさんが恐れる、超高位魔法を扱える魔術師。

 ということは、まさか、彼女………いや、彼が。


「サクラ・フォレスターだ………き、きやがった………!」


 やっぱり。あの子が。あのエルフが。

 魔王軍四魔神将第三席、『賢神将』サクラ。

 かつてハサドさんを追い詰めた、魔王軍最強の魔術師。

 あんな、子供が?嘘だろ?


「くそっ、まさか四魔神将が二人とは………!」

「ま、まずいよデューゲンさん。これじゃあ………!」


 四魔神将一人ですら、いっぱいいっぱいなのに。それが二人?逃げるのは不可能だ。

 ………いっそ、戦ってみるか?サクラというあのエルフは、近接戦には弱そうだ。勝機がなくはないかも………



「二人じゃないんだなー、これが」



 そんな希望は、上から聞こえてきた声に打ち砕かれた。

 上を見上げると、そこには、一人の女の子がいた。


 そして俺は、かつてない絶望感と、やっと会えたという幸福感、相反する感情が同時に襲ってきた。


 赤い目。黒くて長い髪。首から下げたペンダント。

 聞いていた特徴とそっくりだ。間違いない、彼女が。


「リーン・ブラッドロード………」


 デューゲンさんが、恐怖の顔と震え声で、俺の心の中にあった名前を言った。


 魔王軍四魔神将第二席、『鬼神将』リーン。

 戦場で最も恐れられる化け物にして、俺がずっと会いたかった少女。


 彼女がついに、俺の前に降り立った。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 続きが気になる… この登場シーンがヤバすぎる! なんだろう、ヒーローが子供の目の前に登場した時の 興奮している子供みたいな? って言ってもあんまり分からないけど、 とにかく、キターーーー!…
[一言] やっとですね! 続き気になります!
[一言] やばいよ〜。めちゃくちゃ面白いです! 四魔神将の3人が出てきただけで人間の絶望感がすごいのに、まだヨミもいると考えたら、ヨミの登場がめちゃくちゃ楽しみになりました!
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