転生勇者と緊急会議
ひっっっさびさの勇者君視点。
「………ふむ、素晴らしい。先代の勇者アヴィス様を遥かに超えるこの強さ。さすがはゼノ様でございます」
「ありがとうございます、騎士長さん。………じゃあ、俺はこれで」
前世で『城谷翔太』という名前だった俺は、メルクリウス聖神国で『ゼノ』という名で転生した。
その後、同じ転生者で、先代の勇者アヴィス、かつて『黒田新一』という名前だった最低男の付き人に不本意ながらなって、同じ転生者を集めてきた。
しかし、アヴィスが魔王軍に殺された直後、聖十二使徒序列第二位『宝眼』のヘレナさんに、俺が次代の勇者だと言われた。
それから四年。俺は勇者として魔族たちと戦うために、聖神国で鍛えられ続けた。
努力のおかげか、勇者としての才のおかげか。俺は先々代————歴代最強とまで言われた勇者程とは言わないけど、アヴィスは完全に上回る実力を身に着けた。
けど、まだ足りない。所詮俺のステータスは、一万に差し掛からない程度。
聞いた話によると、魔王軍最強の精鋭である『魔王軍四魔神将』の予測平均ステータスは、最低でも『五万』。
『勇者』の力で多少優位性があるとはいえ、五倍の差を縮めるのは無理だ。
もっと、強くならないと。
あの人には追い付けない。
※※※
「おーっす、ゼノ!鍛錬か?精が出るなあ!」
「お前もだろ、ジード。そっちも終わったのか?」
「おう!かーっ、どうせぼこぼこにされるなら、綺麗なシスターにやられてえもんだぜ。なんであんなおばさんなんだよ、俺の担当………」
ジード。転生前の名前は『北嶋斗哉』。
前世からの俺の友達で、次期勇者パーティの仲間でもある。
そして、こんなあっけらかんとした性格の癖に、すごい才能を秘めた『神官』。
見た目は剣持って敵を追いかけまわしてそうなのに、味方の後方支援が主な仕事だ。
「そうは言うけど、綺麗なシスターって、大体『お手付き』だって聞くぞ」
「それを言うなよお!畜生、俺は信じねえからなそんな噂!」
こういうとりとめのない会話をしている時間が、一番落ち着く。
一人でいたりすると、勇者としての責任や魔族について、あの人のことなどを考えてしまうから落ち着けない。
「そーいや聞いたか?これから緊急会議があるって話」
「ああ、さっきな。まったく、休息の暇もありゃしない」
「仕方ねえよ、俺らは世界を救うために結成された勇者パーティの一員だぜ。人間の未来を背負ってんだ、休む暇なんてめったにねえさ」
「………どうした?いきなりまじめなこと言って、らしくないぞ」
「ひどくね?」
その後もジードと軽く雑談をしながら会議室まで足を運び、扉を開けると、半分くらいの数の人たちが集まっていた。
決められた席に座り、会議の始まりを待っていると、亡命してきた隣国の要人や俺と同じ転生者、聖神国の権力者、聖十二使徒なんかの、会議の参加者が続々と集まってきて、物々しい雰囲気になっていった。
………これだから、会議は苦手なんだ。自分の場違い感が浮き彫りになるから。
「………そろっているな」
その声とともに、一人の美丈夫が部屋に入ってきた。
聖神国の法皇にして、聖十二使徒序列第一位『神子』のルヴェルズ・ヒューマンロード。
二十代くらいに見えるけど、噂では神器の力を使って不老の体を得ていて、実は二百歳を超えているとか。
「忙しい中集合してくれたこと、感謝する。これからも人類のため、ミザリー様のため、諸君らの死力を尽くしてほしい」
ここまでの人数を集めたということは、きっと重大なことなんだろう。
「先ほど伝達があった。………ハルトレン共和国が、滅ぼされたそうだ。要人クラスはこの国に亡命してきたが、そのほかの国民は………全滅だ」
ハルトレン共和国………確かここ、聖神国からも比較的近い、かなりの武力を有する国だったはず。
………魔王軍の魔の手は、かなりこの国に近づきつつあるみたいだ。
「ついに、あそこまでも………!」
「しかし、あの国の首都の結界はかなりのもののはず。魔族共がやすやすと壊せるものではないのでは………」
「………忌々しいことに、四魔神将が二匹も投入されていたらしい。『武神将』グレイと『鬼神将』リーンがな」
リーン。その名前を聞いて、俺は体が緊張でこわばった気がした。
あの人だ。
リーン・ブラッドロード。十二年前に滅ぼされた吸血鬼族の生き残りで、魔王軍準最強の実力を持つ。
四魔神将第一席『戦神将』ヨミという奴が姿を見せていない今、人間にとって最も出会いたくない、最悪の存在。
そして、もしかしたら………俺と同じ転生者かもしれない。
それも、俺の初恋の人だった、『千条夜菜』という元クラスメート。
「………ルヴェルズ様、率直にお聞かせ願いたい。四魔神将を駆除するには、どの程度の戦力が必要だと?」
「まず、数で圧倒するという考えは今のうちに捨てろ。いくら雑兵を集めたところで、あれの前では無力だ。互角に戦えるのは、聖十二使徒上位、それも第三位以上の強さを持つ者たちだけだ。第四位のデューゲンと第五位のハサドでも、二対一ならばなんとか、というところだろう」
その場の全員が沈黙した。
あらためて気づかされたんだ。四魔神将というのがいかに強大な敵か。
なにしろ、人類で対処可能な人が五人しかいない。しかも、そのうち一人であるルヴェルズ様は、結界を維持するために長く外に出られない。
「とにかく。四魔神将が油断ならない存在というのは、諸君らもわかっていることだと思う。ここに、その被害者だという者も少なくないだろう。総員、気を引き締めよ。………そして勇者ゼノ」
「え?あ、はい!」
「貴殿もまた、強くなれば四魔神将を倒しうる存在だ。先代、先々代の無念、貴殿が晴らすのだ」
「………わかりました」
※※※
会議が終わり、自室に戻った俺は、考えた。リーン・ブラッドロードについて。
やはり彼女は、千条さんなのかな。そう考えると確かに、つじつまが合うことはある。
先代勇者アヴィスがそのいい例だ。あいつは千条さんにいじめをしていた主犯格だった。彼女はあいつを恨んでいたはずだ。殺したって殺し足りないくらいに。
どうして吸血鬼に転生したのかはわからないけど、もしリーンが千条さんなら………
「………俺は、どうしたらいい」
リーンは、戦場で最も恐れられている怪物。
四魔神将の中で、最も残酷で、無慈悲で、頭のネジが飛んでいると聞いている。
前世の千条さんの性格とは合わないけど、転生して性格が変わったっていうのは、こっちにいる転生者の間でも珍しくない。
そんな彼女が、俺の話を聞いてくれるんだろうか。
いや、出会い頭に殺される可能性が高い。だから自分の命を大事にするなら、俺は彼女と会うべきじゃない。
………頭ではそうわかってる。だけど、会いたい、会って話がしたいという感情がくすぶっているのもまた事実だ。
「くそっ………!」
そうだ。俺と今の彼女では、力に差がありすぎる。
勇者とはいえ、戦場を知らず、たった四年だけ訓練した人間。
おそらく、里を滅ぼされてからの十二年、戦いに身をやつし、戦場を知る吸血鬼。
才能も、レベルも、経験値も向こうが圧倒的に上。
今の俺じゃあ、普通の魔王軍幹部に善戦するくらいが関の山だろう。
「………強く、ならなきゃ」
そうだ。
強くなれば、リーンに殺されることはない。話を聞くことができるかもしれない。
少なくとも、一撃で殺されるような体でいることは避けるべきだ。
縮まる差はわずかかもしれない。けど、努力すべきだ。
俺は木刀を持って、素振りを始めた。少しでも四魔神将という存在に、追いつくように。
この、僅か二週間後。俺は対面することになる。
圧倒的な力を持つ、最凶の吸血姫。綺麗で残酷な鬼神と。
それすら上回る強さを持つ、最強の戦神に。
リーンと勇者ゼノ君の強さの差は、猫とティラノサウルスみたいなもんです。




