吸血姫の誕生
「『吸血鬼王』を変更.......?ただの吸血鬼に戻して欲しいということですか?不可能ではありませんが、デメリットが大きいですよ?何故?」
.......私にとって、『吸血鬼王』はお父さんです。
私は正式に王を継いでいない。だから、私は永遠に王になるべきじゃない。
「そんなことは.......」
はい、お父さんもお母さんも、そんなことは別に気にしないと思います。
でも、あの時、私は逃げた。お母さんに言われたからとはいえ、私はみんなを見捨てた。そんな私が王を名乗るなんて、私が嫌なんです。.......自己満足なのは分かってますけどね。
「.............分かりました。ですが、退化ではなく、効果はそのままに名称を変更することに留めておきましょう」
うーん、私としては退化が望ましいんですけど.......
「どんなものを利用してでも、どんな手を使っても、人間を滅ぼすと決めたのでしょう?吸血鬼王のステータス上昇効果は貴方に必要です。貴方が斬られた時、吸血鬼王のステータス上昇が無ければ、死んでいましたよ」
.......そう、ですね。
分かりました、じゃあそれでお願いします。
「では、名称を決めないといけませんね。.......貴方は吸血鬼の王の娘。貴方が王の座を拒もうとも、それは純然たる事実です。.......ならば、姫。『吸血姫』。この名を新たな吸血鬼の行き着く先として、貴方に与えましょう」
.......『吸血姫』ね。
日本のラノベとかじゃ、割と在り来りな名前だなあ。
「!?わ、割と洒落を効かせたいい名称だと思ったのに、先駆者がおられましたか.......」
何に凹んでるんですか。
「.......コホン。で、では、そろそろお別れの時間です。貴方の体の再生も大半が終わったようですし、そろそろ意識を戻しますね。意識が戻ったら、魔王軍の迎えが来るまで、数日間お待ちください」
はい、分かりました。
「それでは、これからもたまに意識に干渉することになると思いますが、今はお別れです。.......ではまた!」
はい、では.......
.............いや待って、最後なんて言っ.............
※※※
目が覚めると、未だ月は見えていて、あたりも真っ暗だった。
ゆっくりと起き上がると、服が斜めに破れていることに気づいた。なるほど、ここが斬られた部分か。全然覚えてないけど。
周囲を見渡すと、あちこちに人間の死体が転がってた。これも全然覚えてないけど、多分私が殺したんだと思う。手足に血がべっとりついてるし。
あはっ、すっごい間抜けな顔で死んでる。いい気味。
しかし、イスズ様が最後に言ってたことが気になる。
『これからもたまに意識に干渉する』って言ってたけど、本当なのかね?まあ、私がそれを知る術はないわけだけども。
「さて.......あっ、そうだ。《ステータス》」
ちゃんと変わったか見ておかないと。
***
リーン・ブラッドロード 吸血姫 Lv10
職業:復讐者
状態:健康・月の加護(半月・発動中)
筋力:720(240)
防御:600(200)
魔力:840(280)
魔防:720(240)
速度:780(260)
魔法:なし
***
.......うん、ちゃんと『吸血鬼王』が『吸血姫』に変わってる。
『吸血鬼王』.......今は『吸血姫』だけど、その効果は『ステータス及びポテンシャルの倍化』。これによって、私はLv10にしては異常とも言える、この高いステータスを保持している。
加えて、『復讐者』の効果で、人間に対しては私のステータスはこれの倍になる。つまり、全ステータス1000オーバー。昼間のお父さんなら倒せるくらいのステータスになるのだ。
しかも、未だ私はLv10、まだまだ発展途上。努力次第では、相当に強くなるはずだ。
むしろ、これよりポテンシャルが高いという、今の『勇者』が恐ろしい。
「ふふっ.......ふふふふふ、あははははっははあはあっはははあははあっ」
これだけの力があれば、やれる。
私はこれから、人間にとっての絶望となる。
私が奴らに与えられた絶望を、それ以上の絶望をもって返す。
人間を絶望のどん底に突き落とし、一人残らずぶっ殺すためならば、私はどんな努力も厭わない。
「.......待っててね、人間共。ちゃんと私が、ぶっ殺してあげるからね♪」
※※※
「.......吸血鬼の里に残してきた騎士が殺されただと?」
「はい。駐在していた24人のうち、21人が死亡したそうです。残った3人は帰還しましたが.......彼ら曰く、『たった1匹の吸血鬼の子供にやられた』と」
「.......吸血鬼の子供だと?ノインが話していた生き残りか.......クソ、面倒なやつを生かしてきたものだ」
「如何なさいますか?再び騎士を向かわせますか」
「ああ.......だが、里は既に去っている可能性が高いな。そいつがどう動くかが分からん。里周辺では気を張るように言い含めておけ。.......まあ、問題あるまい。いくらその子供が強かろうと.......」
「『勇者』にはかなわぬだろうからな」
※※※
―――ここは、地獄だ。
「おい、手を止めるな。訓練を続けろ」
―――なんで私が、こんなことに。
「聞こえないのか.......おいっ!」
「.......イエ、キコエテイマス」
―――何故私が、こんなヤツらを守るために、戦わなくちゃならないんだ。
「お前は道具だ。人類を、ミザリー様に創造されし我らを守るためのな。それを理解したなら、早く訓練に戻れ!」
「.......ハイ」
―――いずれ、こんな風に、思考することすら出来なくなるんだろう。
―――誰か、助けて。
ここで、やっと一区切りです.......!
次回からは、もう1人の主人公である勇者の物語を、連動してお届けしていきたいと考えています。
あと、ここまででタイトルがさっぱり決まりません。
仮題、このまま確定でいいですかね?それとも、変えた方がいいのか、ずっと考えております.......
ステータス表記を少し変更しました。3話のステータスも後々変更していきます。