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転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第五章 魔王誕生編
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【episodeZero】虚言

 フルーレティアはヴィネルの毒牙にかかり、惚れ魔法をかけられている。魔王軍の上の方では比較的有名な話だ。

 戦闘力が低く、魔法の才も武力の才も乏しい、ただ常人では考えられないほどの頭脳を有する、それだけで魔王軍幹部筆頭の称号を持つヴィネル。

 そして魔王軍幹部の座に座り続ける条件として、フルーレティアへの魔法を黙認するというものがあった。

 そして、二百年近くかけられていた魔法が、今―――――――――


「いやあああ、誰か助けて!この変態追い払ってえ!」

「あ、あの、そんな虫みたいな扱いをされると、さすがにショックなのですが………」

「虫の方がまだましよおおお!」


 完全に、解けてしまっていた。


「………しかし、なぜ解けた?あの魔法は、ヴィネルの執念の結集ともいうべき、恐ろしい魔法だろう。フランすら再現できなかった魔法のはずだが………」

「いや、再現はできたよ?怖いくらい使い道がなかったから使ってなかっただけで」

「再現はしてたのか………。で?なぜ魔法が解けたんだ。二百年近くかかっていた精神系魔法など、ちょっとやそっとで解けるものではないだろう」


 精神魔法というのは、発動している効果が長ければ長いほど、効果が強まり、解除も難しくなってくる。

 二百年の時をかけた年代物の魔法など、フランすらそれなりの時間をかけないと解けないはずだ。


「それなんだけどねー。あたしにとってはあんま面白くないことを、レティがしでかしやがってさー!それのせいで、レティの頭が正気に戻ったみたい」

「お前にとって面白くないことだと?」

「うん。レティが前に言ってた、究極の結界魔法ってやつが完成しちゃったみたいなんだよね」


 数日前の記憶をサルベージして、フルーレティアの言葉を思い出す。

 フランの天敵とすらなりえる結界魔法が完成しかけていると言っていたな。確か名前は………《異界結界(ワールドトリップ)》だったか。


「それで、その魔法が完成したから何なんだ」

「その魔法の効果がさー、癪なことに本当にあたしの天敵みたいな力だったんだよねー。それの副次効果で、ヴィネルの魔法が解けちゃった、みたいな?」


 フランの魔法の実力は、魔王軍の中でも飛びぬけてるとか、もはやそんなレベルの話ではない。

 それどころか、昼間の妾すら、魔法のみでの戦いであれば負ける可能性が高いほどなのだ。

 間違いなく、魔王軍最強。頭は残念だが、まぎれもない魔王軍の英雄だ。

 そのフランが、自信過剰で彼我の戦力さすら理解しきらずに突っ込み、実際にその自信の通りに戦果を挙げ、突っ込んだ先で魔法でごり押しして敵を蹂躙するフランが、その口で『天敵』と言った。

 ということは、フルーレティアが編み出したその魔法というのは………十中八九、


「『魔法無効化』、か?」


 これだろう。

 フランがいかに最強の魔術師、『大賢神』(この職業名は本当に解せない)といえど、魔法を完全に遮断されてしまえば、できることは限られてくる。


「それだけならよかったんだけどねー………」

「なに?」

「それだけじゃないんだよ。まじであれはチートだわ。魔法っていう概念そのものを消してくるとか、あたしのアイドンタイティのほーかいじゃん」

「は?………まさか、アイデンティティって言いたいのか?」

「そうそれ」


 この馬鹿、本当に魔法の才能を得るときに別のものすべてを失ったのか?いやまあ、それはもう今更か。それどころじゃない。

 魔法概念を消すだと?結界魔法に、そんなことが可能だというのか?


「フラン、魔法であるなら、お前はわかるんだろう?フルーレティアが習得した魔法の詳細を教えろ」

「はいよっと。それ聞いたら、あの二人、何とかしてよ?あたしはやだよ?」

「わかっている」



 ※※※



「結界の内側に異世界を作り出し、その異世界に一つだけ、自在にルールを課す、か………」

「それで、《異界結界》の中で『魔法禁止』ってルールを作られたら、あたしは問答無用で魔法が使えなくなっちゃうんだよね。マジであれは反則だと思う」

「しかも魔法の禁止だけでなく………」

「別にルールを作ることも可能。まあそのルールにも多少の制約はあるんだろうけどね。例えば、あたしが結界内にいる中で、『物理攻撃の禁止』なんてルールを作ることもできるわけ」

「お前がただの無敵生物になるな。………まあ事情は把握した。要するに、その魔法の実験としてお前と模擬戦をやることになって、魔法禁止の結界を張ったときに………」

「そうそう、同時にあの魔法も解けて………」


 ああなったというわけか。


「あ、あんまりよお………竜人族の寿命は、三百年足らずしかないのに………その七割近くを魔法にかけられたまま失ったなんて………」

「なんでしょう、そう聞くと自分がどうしようもないゲスのように聞こえますねえ」


 その通りなんだよ。


「それでどうするのですか、魔王様?あのままだと、冗談抜きでレティが危ないですよ?」

「ああ、それなら大丈夫だ。対処法は考えている」


 妾はすでに、この状況を切り抜ける最善の策を思いついていた。


 このまま状況を引き延ばしても悪化するだけなので、妾はさっさと問題解決に努めることにした。


「あ、魔王様!ちょ、助けてください!レティが大変なことに………」

「フィ、フィリス………」


 おーおー、近づいてみてみると、フルーレティアの奴、完全に顔面蒼白だな。

 本当にヴィネルを恐れているらしい。


「ね、ねえ………フィリスは………みんなは………ワタクシが洗脳されてるって、知ってたの………?」


 まあ、この質問が来るよな。

 この回答次第で、妾たちは信用を得るか失うかが決まるといっても過言ではない。

 だが、どんなに御託を並べようと、知っていたのは事実なのだ。いくらヴィネルという絶対の頭脳をとどめてくためとはいえ、妾たちはフルーレティアの件を、見て見ぬふりをした。

 フルーレティアは聡明な女だ。事情を話せば、『立場が違えばワタクシも同じ選択をしたはずよ』とでも言ってくれると思う。

 だが、それはあくまでフルーレティアが普段通りの状態の場合であり、今の取り乱している状況では、何がどうなるかわからない。

 だから妾は、決めた。

 清く。

 正しく。

 まっとうに。



「いや、妾たちも知らなかった。なんということだ、フルーレティアがそのようなことになっていたというのに、我々は気づいてなかったのか………!」

「「「「えっっ」」」」



 嘘をつくことにした。



 ※※※



「さすがにひどいんじゃありませんかねえ魔王様!?なに、自分だけ助かろうとしているんですか!!」

「人聞きの悪いことを言うな、魔王軍の長として最善の選択をしただけだ。あの場でフルーレティアの件を知っているものが多いと知れたら、あいつは暴れだしかねなかった。その点、お前以外は知らなかったということにすれば、犠牲はお前ひとりだけで済む。ああ、フラン。あとで知っていた連中の記憶をいじっておいてくれ」

「あいあいさー」

「そのお話ですと、私が犠牲になるのですが!?」


 今までさんざん好き放題やってきたツケだと思えば安いものだろ。

 しばらくすればフルーレティアも落ち着くだろうし、それからゆっくり心を癒してやらねば。

改めて見ると、魔王軍のためとはいえ、みんな結構くずい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] フルーレティアが可哀想だけども、そこが面白い!
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