表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第五章 魔王誕生編
148/248

【episodeZero】故郷

「一度、吸血鬼の里に帰ろうと思う」

「吸血鬼の里?フィリスの故郷ってこと?」

「ああ。さすがに、これ以上顔を出さないわけにはいかないと思ってな」


 妾は今まで、ずっとあの里に行くのを避けてきた。

 里の人気者だったリンカを、自分の意志だったとはいえ連れ出して、挙句には死なせてしまったのだから。

 だが、おそらく、リンカの父親は生きている。そう何百年も、報告しないわけにはいかない。


「すぐに帰ってくる予定ではある。頼めないか?」


 妾の頼みに皆は、


「べつにいいよ。てかむしろ、フィリスは働きすぎだって。ちょっとくらい、休んでくれば?」

「そうね。フィリス、最近寝てないでしょう?レベル150を超えてて、睡眠の必要があまりないとはいえ、体がもたないわよ?たまには羽を伸ばしてきなさいな」

「留守中はお任せください。このヴィネルが、完璧な運用をお約束しますので」

「わたしも微力ながらお手伝いしますので、どうかご安心を!」


 ………また少し、泣きそうになった。



 ※※※



「じゃあフィリス、お土産よろしくねー!」

「ブラッドクッキーでいいか?様々な生物の血をこれでもかと混入した、絶品の一品で………」

「やっぱいらない!」

「冗談だ」


 見送りは、最古参の四人がしてくれた。

 ほかの幹部たちも見送りたがっていたが、妾だけのためにそんなに人を割くほど、魔王軍の人員は豊かではない。

 最近は、フランほどではないにしろ、かなりの強さを持つ幹部も現れてきた。


 特に、レインとグレイは凄まじい。

 竜人族を仲間に加えたとき、同時期に仲間になった妖精族。

 昔馴染みのレインの戦闘力を図るために戦いを見ていたが、それはもうすごかった。

 天候を自在に操り、雷を落とし、隕石のような雹を降らせ、竜巻を発生させて地面ごと人間を巻き上げるその光景は、まさに天変地異。

 その功績に対する畏敬を込めて、『災禍将』の名を与えた。

 グレイは魔人族長の推薦で加入した幹部だが、こちらもものすごい。恵まれた筋力ステータスに加え、多種多様な体術。おまけに、今までは魔王軍で妾しか使えなかった、身体強化魔法まで使えるときた。その破壊力を表し、『撃砕将』の異名をつけた。


「まあ、留守は任せなって!あたしがいるからには、どーんっと大船に乗ったつもりでいなよ!」

「フルーレティア、ヴィネル、ディーシェ。留守は任せたぞ」

「あたしは!?」


 ぎゃあぎゃあ騒ぎ出したフランは放っておいて、妾はミネアを抱きかかえた。


「うあー、うあー」

「ちょっとゆれるが、我慢してくれ、ミネア。………じゃあ、行ってくるぞ」

「いってらっしゃいませ!」


「《転移(テレポーテーション)》!」



 転移してきた先は、里の入り口。

 リンカと共に旅立った場所。


「………ここは変わらないな」


 里の様子は、驚くほど変わっていなかった。

 いや、正確にはかなり変わってはいるのだが、ところどころに二百年前の面影がある。

 もう、妾の知る里ではないことを想像していた自分としては、拍子抜けだ。


「あーあー?」

「ああ、ここがお母さんの生まれたとこだぞー。………ん?お母さん、たち………?まあいいか」


 そのまま里の中へと進むと、やはり見知らぬ顔もいくつかあるが、知った顔が多い。

 すると、そのうち何人かがこちらに気づいた。


「ん?………………お前もしかして……フィリス、か?」

「そういうお前は、前に妾が公然で素っ裸にしてやった、服屋のロイドだな」

「お前ふざけんなよ、あの時のことはまだ忘れてないからな!あれのせいで、俺は彼女に振られたんだぞ!」

「そのあと復縁して結婚までしたんだからいいだろうに」

「そういう問題じゃ………って、それどころじゃねえ!おい皆、フィリスだ!フィリスが帰ってきたぞー!」


 その声に、静かだった里は一斉に騒ぎ出した。


「フィリスだと!?あの厄災娘、帰ってきたのか!」

「おい、本当にフィリスだ………………な、なあ、幻覚か?あいつが赤ん坊を抱いてるように見えるんだが」

「奇遇だな、俺も見えてる。なんて質の悪い幻覚だ、だが俺は騙されない。あのフィリスが結婚して子供産むなんざ、宇宙の理がねじ曲がってもあり得な」


「貴様ら、帰ってきた同胞をもう少し労わろうという気持ちはないのか薄情者ども!あと、正真正銘この子は私の娘だ、この子を抱えていなければ一人ずつぶちのめすところだからな!」



 ※※※



 とりあえず、族長の家に案内してもらった。

 この二百年で何度もリフォームしたようで、最初はどこかわからなかった。


「よくぞ帰ってきた、フィリス。その………待ちわびていたぞ」

「噓つけ、待ってないだろその顔!」

「しかも、結婚までして帰ってくるとは………相手はどうやって騙くらかしたんだ?」

「なんで妾が騙したことが前提なんだ、あっちから迫ってきたんだ!」


 妾がそう反論すると、


「おい聞いたか!?あっちから迫ってきたなんて言ってるぞ!」

「事実だとしたら、相当なもの好きか変わり者かドMか………」

「貴様ら、聞き耳立てている挙句その言いよう、後で覚えておけよ………」


 なんてふざけた連中だ、久々に妾の恐怖を体に教え込んでやらねばならんようだな。




「まあ、同胞の帰還は何であれ喜ばしいことだ。おかえり、フィリス」


 そう言って、族長は妾に対し、笑みを浮かべた。



「ところで、一つ聞きたいのだが………リンカはどうした?」



 その質問で、妾の心は急速に冷えた。

 言わねばならない。伝えねばならない。

 リンカの親である族長には、知る権利があり、妾には伝える義務がある。


「………族長。妾がこの里に戻ってきたのは、その話をするためだ」

「………お前たち、下がれ」


 族長は妾の雰囲気を感じ取り、のぞき見していたものたちを全員下がらせてくれた。


「………何があった」


 妾は覚悟を決め、族長にすべてを余さず話した。


 リンカとの旅路。

 リンカとの結婚。

 リンカを守れなかった。

 リンカを生き返らせるため、魔王になった。


「………そうか。リンカは、もういなく………だが、イスズ様との契約で、その魔王の役目を果たせば、三千年後にはリンカをよみがえらせてくれると。………そしてその娘が、お前が今抱きかかえている赤子なのだな?」

「ああ。………二百年も、話すことができず、申し訳ない」


 妾は族長に、頭を下げた。

 許してもらえるとは思ってないが。


「………気にするな。俺が同じ立場でも、踏ん切りがつく自信はない」

「だが、リンカは妾のせいでっ………」

「お前のせいじゃない」


 族長は、強い口調でそう言い切った。


「リンカがお前についていったのは、あの子の意思だ。その旅路がいかに危険なものであるかも、頭の良かったあの子はわかっていたはずだ。………それに、あの子を殺したのは人間なのだろう?お前を恨むのは筋違いだ」

「だ、だが…………」

「ええい、ごちゃごちゃ言うな!お前は悪くない、俺はお前を恨んでいない、それでいいだろう!リンカがいなくなったのは悲しい、身が張り裂けそうだ!………だが、あの子を殺した男は、お前が殺したのだろう??あの子にとって、最愛の存在だったお前が。………なら、俺はこういうべきだ。


………………リンカの仇をとってくれて、ありがとう」



 妾は動けなかった。

 罵倒されると思っていた。殴られても仕方がないと思っていたのに。

 感謝されるなど、思ってもいなかった。


「族長………妾………妾は………」

「わかっている、何も言うな。………それよりも、その子を………ミネアといったか?俺の孫なのだろう?抱かせてくれ」


 妾は、震える手で、ミネアを族長に差し出した。


「おお………昔のリンカにそっくりだ………!だが、お前の面影もある………」

「………当然だ、妾とリンカの子だぞ………!」


 ミネアは祖父に会えたことが嬉しいのか、「きゃっきゃ」とはしゃいでいた。


 その日、吸血鬼の里の一室で。

 大の男と美少女が大泣きしながら笑い、赤子をあやし続けるという、世界でも類を見ない光景が見られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 族長がかっこ良くて感動しました。
[良い点] 相変わらずの里で何かほっこりしました。 [一言] 族長のありがとうには、泣いてしまいました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ