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転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第五章 魔王誕生編
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【episodeZero】生誕

 ………二百年。

 三千年という長い時の、一割にも満たない短い時間。

 たったそれだけの時間でも、私は辛かった。

 心の支えだったリンカはいない。フランをはじめとする友人はそばにいてくれたし、それはとても嬉しかったが、やはり一人になると、リンカはいないという現実を思い出し、泣きそうになった。

 もう全てを諦めて、リンカの後を追おうかと思ったことも、一度や二度ではない。


「時間がかかってしまい、本当にすみませんでした。神の掟のギリギリを突いて、あなたとリンカの遺伝子を混ぜ合わせ、魂も合わせ、データを初期化し、生命として安定するまで保護………流石に骨が折れましたよ」


 そう言うイスズ様の手には、紫色に綺麗に輝く、光の玉が乗っていた。


「これが、あなたとリンカの魂を元に創造した、あなたの子の魂です。性別は女の子。体もすでに、遺伝子を使って作り出してあります。あとはこの魂を体に入れれば、新たな命の誕生です」


 私が妊娠する、というわけでは無いのか。


「そうすることも考えたのですが、そうするとあなたは、しばらく武力を行使できなくなってしまいますからね。魔王軍統括にしてダントツ最強のあなたに燻られるのは、正直困るんですよ」


 私の現在のステータスは、既に10万を軽く超えている。

 私にかろうじて対抗出来るのは、私を除けば魔王軍最強、魔力ステータスのみでいえば私すら上回るフランのみ。

 フルーレティアやディーシェすら、今の私には遠く及ばない。


「なので、直接生み出します。………あとは名前ですね。決めていればですが」


 それはもう、決めてあるんです。



 ※※※



『ねーねーフィリスちゃん、私たちに子供ができたら、男の子と女の子、どっちがいい?』

『………なんだその質問は。私たちは女同士なんだから、子供は出来ないぞ』

『そこはほら、魔法でちょちょいっとさ』

『出来るかそんなもん』

『それはともかくさー、どっちがいいの?私は女の子が欲しいんだけど』

『………まあどっちでもいいが、強いて言うなら男かな』

『あれ、なんで男の子なの?』

『そりゃあまあ、強い子になって欲しいからな!』

『フィリスちゃんとフランちゃん、あとはフルーレティアちゃんだって女の子だけど強いよ?』

『………それはともかく、なんでお前は女の子が欲しいんだ』

『私?えーだってー、可愛い服着せたいしー、一緒に買い物とか行きたいしー、それに私とフィリスちゃんの娘なら絶対に美人じゃん!』

『お前、たまに自己評価高いな。可愛いのは認めるが』

『それに、もう名前も決めちゃってるし!』

『早いな!?しかも、私に相談なしか!』

『えー?だってフィリスちゃん、ネーミングセンスないんだもん。この前近所の黒猫に、「漆黒霊獣ダークビースト」とか意味わからない名前つけてたじゃん』

『ど、どこが悪いんだ!かっこいいだろう!?』

『ダサい』

『なんだと!?』

『それはともかく、名前名前!えっとねえー』

『だ、ダサくないし………かっこいいし………天才的ネーミングだし………』


『男の子ならヒューリでー。女の子ならー………』



 ※※※



 ………ミネア。

 それが、子の名前。


「リンカが考えた名ですか。いい名前だと思います」


 まあ、私のネーミングセンスを馬鹿にしたのは、いまだに根に持ってますがね。


「い、いまだにあれがかっこいいと思っているんですか………。まあそれは置いといて。では………体と魂を、地上に下ろします」


 そう言ったイスズ様は、手に持っていた玉を床(?)に落とした。

 玉はそのまま落下し、やがて床(??)を突き抜け、さらに下へと落ちていった。


「これで完了です」


 ………ついに。

 二百年の時を経て、この時が来た。


「………あなたには、辛い役目を負わせました。まだリンカを生き返らせてあげる事は出来ませんが。これが今の私にできる精一杯です」


 ………イスズ様。

 ありがとうございます。本当に、本当に感謝しています。


「ええ。………そろそろ時間ですね。子はあなたの目覚めた場所のすぐ近くに転送しておきます。ちゃんと育ててあげてくださいね?」


 わかっています。

 ちゃんと………リンカの分まで、育てます。



 ※※※



 目が覚めると、部屋のベッドの上。

 瞬間、妾は飛び起きた。


「どこにっ………」


 どこにいる。

 イスズ様は、妾の近くに転送したと言っていた。

 ならば十中八九、この部屋の中に………



「あー、あー」



 ベッドを見ると、私の隣には、小さな赤子が………。


「あ、ああ………あああああ………!」

「あうー、あうー」


 リンカと同じ白い髪に、吸血鬼特有の赤い目、先天的に生えた八重歯。

『珠のような子』とはまさにこの子のようなことを言うのだろう。


 感じる。リンカの面影を。私自身の血を。

 そっと抱きかかえると、赤子は泣き止み、妾にしがみ付いてきた。


「可愛い………可愛いなあ………!リンカに似たんだ、きっと………!」

「きゃっきゃ!」


 気がつくと、私は泣いていた。

 この二百年、リンカがいなくなった日以来、一度も泣いたことがなかった私が。

 この子を、リンカの分も育てる。

 絶対に、この子を守る。

 妾は、それをリンカに誓った。


 こうして、邪神イスズ様によって生み出された特異な吸血鬼、ミネア・ダークロードは。

 魔界にある一室で、ひっそりと産声をあげた。



 ※※※



「ほーれほーれ、フランお姉さんだぞー!」

「きゃっきゃ!」

「こ、この子が魔王様と、噂に聞くロリ巨乳美少女リンカさんの………!将来が楽しみですねえ………」

「?………??」

「………ヴィネル、貴様ちょっとこっちに来い」

「い、いやですね、ジョークですよ。そんなマジトーンで呼ばないでください、怖いじゃないですか」

「世の中、冗談で済む問題ではないこともあると言うことを教えてやる」

「ちょっ………!?」


 この変態は二度とミネアに近づけないようにしよう。


 涙の後を消して、ミネアの体調に異常がないかなどを一通り検査した後、妾は最古参の幹部連中の元にミネアを連れて行った。

 皆の驚愕っぷりといったらなかったな。

 そして逆に驚かされたのは、あのフランが、意外にも子供をあやすのがうまいと言うことだった。

 精神年齢が近いせいかと思ったが、そういえばこいつは、十ほど年が離れた妹がいるんだった。

 あとはやはり、精神年齢が非常に近いのだろう。


「あー、あー」

「あれ、わたしのところにも来てくれるの………?アンデッドは基本的に、不気味な魔力のせいで子供に嫌われるのに………!魔王様、この子はきっと大物になりますよ!」

「わははは、当たり前だ。妾とリンカの子だぞ?」

「可愛い………私もヴィーちゃんと………」

「なんですかレティ今の発言をもう一度おねがぶはっ!?」


 悪影響の塊みたいな変態悪魔が何か言う前に蹴り飛ばし、ミネアを抱きかかえる。


「おいディーシェ、そこの変態を抑えておいてくれ。主に口をな。………さて、お前たちを呼んだのは、ミネアを自慢するためだけではない」

(やっぱり自慢はしたかったのか………)

「実は、お前たちに相談がある」

「相談?」

「相談というか、頼みだな。………少しの間だけ、お前たちに魔王軍の仕事を任せたいのだ」

「それって、フィリスがしばらくここを空けるってこと?どっか行くの?」

「ああ」


 これは、何年も前から考えていたことだ。

 いざとなると踏ん切りがつかず、『魔王の仕事が忙しい』と、自分を騙し続けてきた。

 だが、今は魔王軍の状況も安定しているし、ミネアというきっかけも出来た。

 ちょうどいい機会、なのかもしれない。


「妾は一度………吸血鬼の里に戻ろうかと思う」

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― 新着の感想 ―
[一言] 二人の大切な娘を死なせてしまった魔王様はリンカに合わせる顔がないとか考えると苦しくなる… あと魔王様、一人称が私に戻っております。
[良い点] あかん、泣けてきた……。 こんなに待ち望んだ子供なのに死んでしまうんだよね……くそっ!人間なんて嫌いだ! [一言] 更新いつも楽しみにしています!
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