【episodeZero】四人目
しばらく、不定期更新になってきてすみません。
今日からちゃんと元に戻す.......予定です。
「ディーシェ?………本当にディーシェなのか?」
「はい、フィリスさん。正真正銘、ディーシェです!」
どう、なっている?
私の目の前にいる少女、ディーシェは………死んだはずだ。
あの日、混在街が襲われ、リンカを失った日。私は確かに、彼女の息が止まっているのを確認した。
同居していた無二の友人であるネイルと、折り重なるように亡くなっていた。
「ふふふ、混乱した顔してますね、フィリスさん!まあ、わたしとしても、自分がこうしてここにいることが出来るのは予想外と申しますか………」
「訳がわからん………。まあ、生きていたなら何よりだ。てっきりお前は、ネイルと共に死んでしまったものだと思っていたからな」
「………正確には、生きてはいないんですけどね」
「は?なんだと?」
「ねーねーフィリス、詳しく説明してよー。この子誰なの?人間に見えるけど、物凄い魔力だし、しかもこんなの感じたことない、変な魔力だよ?」
せっかちなフランが私を急かすが、正直、私も状況がうまく掴めないんだ。
ディーシェが生きていること自体が頭がパニックになるほどの予想外だというのに、フランの言う通り、凄まじいほどの魔力を感じる。しかも、どう考えても人間のものではない、魔族寄りの魔力。
「順を追って説明したいんですけど、いいですか?」
「あ、ああ………」
※※※
「粗茶ですが」
「あ、ありがとうございます。だけどすみません、わたしは飲み食いが出来ないので」
飲み食いが出来ないって何故だ。
死ぬだろ。
「まずはじめに、大前提の話を。………わたしは、生きてはいません」
「さっきもそれ言ってましたけど、どう言うことなんですかねえ?」
「わたしは死人。死んだにも関わらず、仮初の命を持ち、動き回る存在。死んでいるので息は吸えませんし、食事も出来ませんし、寝ることも出来ません。まあ、常に寝てるようなものなんですけどね、死んでるんで」
つまり、ディーシェは生き返ったりしたわけでも一命を取り留めたわけでもなく、体は死んでいるのにも関わらず、意識を保って動いているということか?
そんな話、聞いたことがないぞ。そもそも、人間が悪属性のオーラを放っているという状況が聞いたことがない。
「まあ、勿体ぶらずに言いますと、わたしはイスズ様の御力によって現世に舞い戻ったんです。この世界に、未だほとんど存在しない新種、『アンデッド族』として」
アンデッド族。新種。イスズ様が作り出した。
ここまで聞けば、私でも分かる。
「つまり、イスズ様が、お前に私のサポートをさせるために新種を生み出したということか」
「その通りです。大まかなお話はイスズ様のお告げによって知っています。『魔王』のことも、フランさんやフルーレティアさんのことも、魔人族と悪魔族のことも…………リンカさんのことも」
「………ああ」
ディーシェは、リンカのことを知っていたし、仲も良かった。
ここにいる中では、一緒にいた時間という意味では私に次ぐ。思うところはあるだろう。
「わたしもお手伝いします、フィリスさん。新たな種族、アンデッド族が長、リッチのディーシェと、総勢二百名のアンデッド、フィリスさん………いえ、魔王フィリス様の傘下に入らせてください!」
「二百人もいるのか?新種なのに」
「あ、はい。混在街にいた、アンデッド化可能で、かつわたしについてくることを望んだ人は、全員アンデッドにしました」
話によると、アンデッド化というものにも適性があるらしい。
まず、悪属性の種族はアンデッド化出来ない。善属性の者に限られる。これは、『理に対する反転』を特性とするアンデッド特有のものだ。
また、善属性でも適性のない者を無理やりアンデッド化しようとすると、意思のない不死の化物と化すとか。それでもリッチ、つまりアンデッドの王であるディーシェの言うことは聞くそうだが、できればやりたくないと言う。理由は、『そうまでして死者を使いたくはない。ただしミザリー教の人間は例外』らしい。あと『超グロい』。
意思あるアンデッドも、ディーシェの言うことは絶対順守。ただし、それと体が死んでいること以外は、生前と変わらない………いや、それ以上の力を引き出せるらしい。
「人間だった頃よりも遥かに丈夫で、しぶといです。元々死んでいるので、首を切られても心臓を失っても脳天を貫かれても、痛くも痒くもありませんし、肉体を消し飛ばされたりしない限り死にません。感情が生前よりも薄くて、死ぬことも………あ、違いますね。消えることに対しての恐怖もありません。動けなくなるまで動きます。体のリミッターが外れているから、肉体能力も高い。死んでいるから精神魔法も意味を成さず、病気にもなりませんし状態異常も全て無効化できます。回復魔法を受けると体が崩れますけど、即死系の魔法は逆に回復するので………」
「紛うことなきチート種族じゃん」
「なにそれ怖い、生前より強い不死の軍団とか」
「吸血鬼族の月の加護に迫るチートっぷりですねえ」
恐ろしいな、アンデッド族。
イスズ様が私のサポートのために生み出しただけのことはある。
「それで、お前から発せられてるおっそろしい魔力はなんだ」
「これはリッチの特性です。リッチは魔法タイプなので、イスズ様がわたしの力をブーストしてくださったんです。それで、どうですか?私たちを、魔王軍の末席に加えてもらえますか?」
「まあ、断る理由はないな。お前らはどう思う?」
「いいんじゃないの?戦力は多けりゃ多いほどいいし。それに、この子がいればめっちゃ戦力増えるじゃん」
「ワタクシも賛成です。これで、悩みだった人数の問題も一気に解決ですね」
「嘘をついているようには見えませんし、いいんじゃないでしょうかねえ?それに、この子可愛いですし。十五歳くらいですかねえ?」
「おい変態悪魔、こいつまで毒牙にかける気か。やったらフランの魔法の的にするからな。フルーレティアだけにしろ」
「ワタクシに対してもやめてもらいたいのですけれど!?」
「分かってますよ、私だって誰でもいいってわけじゃありませんし」
もう、フルーレティアには生贄になってもらうことにした。
私はギャーギャーうるさい後ろの三人を尻目に席を立ち、ディーシェに手を伸ばし、
「歓迎するぞ、アンデッド族ディーシェ。これからよろしく頼む」
「はい、フィリスさん。いえ、魔王様。私の持てる力の全てを、魔王軍に捧げます」
「ああ、頼む。お前はマトモだから助かるぞ。なにせ………」
後ろでは、未だ子供が抜けないワンパクな馬鹿エルフと、フルーレティアにひっついて深呼吸している変質者が暴れて………
「フルーレティア以外、頭のネジがイカれてる奴しかいなかったからな」
「なんだか、混在街を思い出しますねー」
「呑気なこと言ってないで助けてくださいよ!」
※※※
「ネイルもアンデッドとなっているのか!それはよかった!」
「はい、わたしに次ぐ適性があったみたいで。今では私の方が強くなっちゃいましたけど」
「いやいや、よかったじゃないか。あんなに仲がよかったのにお前一人だけが、というのは、私としても忍びなかったからな」
「はい、わたしとしても、ネイルとまた会えたのはすごく嬉しいんです。………ですが」
「ん?」
「あの………ネイルをアンデッド化した時から、自分がおかしいんです」
「どういうことだ」
「こう………死んじゃって、色白くなって………瞳孔開いて………しかも、リッチのわたしに逆らえなくなっちゃった、そんなネイルを見ていると………」
「見ていると?」
「こう………ゾクっ♡………って、なるんです」
「…………………」
「これ、なんなんでしょうか?」
なるほど。
こいつもヤバイ方側か。




