【episodeZero】再会
「フラン様!今日は俺に魔法を教えてください!」
「いや、是非俺に!」
「私に!」
「いや、ちょっと、あの.......今日は無理い!」
「フルーレティア様!この前の結界、凄かったです!」
「はあ.............レティ様.......!」
「ハァハァ、レティたん、ペロペロしたいお.......」
「あ、あの、その、ありがとうございます.......」
最近、ずっとこんな調子だ。
かくいう私も、
「フィリス様!魔王様!この色紙に是非サインを!」
「悪魔新聞です、一言お願いします!」
「自分とツイスターゲームしてくだせえ!」
ずっとこうだ。
まあとりあえず、フルーレティアをペロペロしようとしたバカ(某変態悪魔)と、私とのツイスターゲームを試みたアホ魔人はシバいた。
あれから、悪魔族と魔人族は、とりあえず私の配下(仮)として、私の仲間になってもらうこととなった。
その後、魔界にやってきた人間の軍隊を何度か撃退したり、魔獣の群れを掃討したり、なんか封印されてたものすごい敵をぶっ飛ばしたりと色々とフランやフルーレティア、それにその頭脳で私の参謀をやってくれているヴィネルと共にやっていたら、何故か凄まじく人気が出た。
それから三ヶ月ほど経ったある日のこと、悪魔族、魔人族は(仮)が取れて正式に私の下についた。
魔王である私と、その仲間の魔人、悪魔、それにフラン、フルーレティア。『魔王軍』の誕生だ。
※※※
「疲れたあ.......」
「お疲れ様、フラン。コーヒー飲む?」
「飲む。ブラックでよろしくー」
ブラックコーヒーか。最近知ったことだが、こいつ、舌だけは妙に年齢高いんだよな。
また攻めてきた人間の軍勢を、その七割をたった一人で壊滅させたフランは、さすがに疲れた様子で帰ってきた。
「はい。熱いから気をつけてね」
「おー、愛してるぜレティ.......あー、うま。んで、話って何さ?」
「ああ。現在、我々は『軍』を手に入れた。しかし、如何せん数が少ない。魔人族、悪魔族を足しても、千人がせいぜい、子供や非戦闘員を引くと更に少なくなるのが現状だ。そこで、なんとか数を増やせないものかと、ずっと考えているのだが.......」
「別にこのままでいいんじゃないの?あたしがいりゃ事足りるでしょ」
「.......お前が強いことは認めるが、自信過剰が玉に瑕だな」
いや、実際にフランは凄まじい。
単純な魔力、魔法行使能力、相手に合わせて対応を変える臨機応変さ、どこを取っても、『魔法』という一点に関してのみいえば間違いなく世界最高クラスの天才の部類に入る。
それ以外の所に頭が回らないバカなのが弱点だが。
フルーレティアも、結界魔法と竜人族の戦闘力を活かして戦果を上げてくれているが、さすがに主戦力が私を含めても三人というのはキツい。
「うーむ.......なんとかこう、何も無いところから兵士でも生み出せんものか。.......フラン、何とかしろ」
「いや突然の無茶ぶり。無理に決まってんじゃん、いくらあたしだって、生命を作り出すことは出来ないって」
「だろうな。.......あー、いっそ新しい種族を抱き込むか?」
「それはもう少し後の方が.......。正直、こちらから出向くということ自体、あまりオススメしませんし。いずれ人間以外の全ての種族の王となる予定なのですから、いちいち出向いて自分の宣伝活動というのは、格好がつきません」
確かに、フルーレティアの言葉にも一理ある。
「あー、今この瞬間、我々の仲間になりたいと訴えてくるものすごい数の種族でも出てこないものか」
「あははは、んなアホな!」
何がツボにハマったのかはしらないが、ケラケラと笑いだしたフランに呆れていると、
「ちょっとすみません、魔王様いらっしゃいますかねぇ」
「ヴィネル?どうかしたか」
若干息切れした参謀のヴィネルが、部屋に入ってきた。
「魔界に、いつの間にか何者かが侵入していまして。敵意は無いようなので、こちらから接触したのですが」
「侵入者だと?何者だ」
「どう見ても人間なのですが、何やら得体の知れない魔力を纏っていました。ボロボロの神官服を着ていて、歳の方は.......十代半ばか、少し上くらいですかねぇ。話してみると礼儀正しくて可愛らしい子でした。.......ただ、膨大かつ感じたことの無い謎の魔力、放っておくわけにもいかず、現在、ここの応接間にお通ししています」
見た目が人間で、妙な魔力をしている少女。
なんだそれは。わけわからん。
「そいつは、何か言っていたか?」
「それが.......『フィリスさんがここにいると聞いて来ました』と言っていました。お知り合いで?」
「はあ?.......どんなやつだ」
「実際に会ってみては?それで、ここに通していいかとお聞きしに来たのですが」
「.......分かった、連れてきてくれ」
今の私に、人間の知り合いなどいないはずだ。
混在街にいた頃は少数ながらいたが、全員が.......殺されてしまった。
あの街で、人間はみんな殺されてしまったから。
あの人間共は、我ら魔族や亜人族よりも、人間でありながらイスズ様を信仰していた、奴らからしてみれば異教徒を優先的に殺したのだ。
「得体の知れない魔力ねえ。どんな感じなのかな?」
「魔力の質というのは、種族によって違いますからね。謎の魔力ということは.......極めて希少な絶滅危惧種?それとも、別の新種?.......いずれにしろ、注意は必要ですね」
「そうだな。念の為、注意しておいてくれ」
人間が何らかの手段で魔力を誤魔化して、私の首を狙っているという可能性もあるからな。
「お連れしました。.......さ、どうぞ」
色々と可能性を考えていると、ヴィネルがその侵入者とやらを連れてきたようだ。
さて、その顔拝ませてもら.............
.......え?
「わお、可愛い子じゃん。どうフィリス、見覚えある?.......フィリス?」
バカな。
何故、こいつが。
「フィリスさん?どうかしましたか?」
あいつは、死んだはずだ。
確かに確認した。私の目で。
あの日、友達と共に、街の地面に横たわっていた。私は見た。
だが.......栗色の髪の色をしたツインテール、人懐っこしそうな顔立ちに、「友達に貰ったんです」と自慢げにして、いつも首に付けていたチョーカー。
魔力の質は、確かに私が知っているものでは無い、謎の力だ。
だが、私の第六感が、こいつは『本人』だと告げていた。
「お久しぶりです、フィリスさん。またお会い出来て、とても嬉しいです.......!」
間違いない。
こいつは.......
混在街で、私とリンカの友人だった。
人間でありながら、イスズ様を信仰し、それ故に最後は人間によって異端者として殺されたはずの。
魔族と亜人族によって助けられ、ミザリー教の教義に疑問を持ち、それ故に実の親に殺されかけ、人間としての生活を捨てて混在街に移り住んだ、十五歳の少女。
ネイルという名の獣人ととても仲が良くて、いつも一緒にいた。
神官として高い素養を持ち、将来はどれほどの神官になるのかと、密かに楽しみにしていた。
その才能は、間違いなく『天才』の部類に入っていた。
人間なのに人間として生きず、抗い、最後は友達と重なって死んだはずの少女。
「.............ディーシェ?」




