表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/248

吸血鬼少女と邪神(前編)

 宙に浮いているようで、地面に縛りつけられてるような。

 どこまでも見通せる程に広いようで、異様な程に狭いような。

 今の私の感覚を表せば、まさにそんな感じ。

 .......何処だ、ここ。

 いや、待って。この感覚には覚えがある。前にも一度、来たことがある。

 そうだ、ここは―――


「ええ。お察しの通りですよ」


 ああ、やっぱりか。

 .......お久しぶりです、イスズ様。


「お久しぶりです、千条夜菜さん。.......いえ、リーン・ブラッドロードさん」



 ※※※



「5年ぶりですね。まさか、再びお会い出来る日が来るとは思ってもいませんでした」


 そっちは、全知全能の神様なんでしょう?

 そこは、『こうなることはわかっていました』とか言うものでは?


「.......神とて、そのような万能の存在ではありません。.......そもそも、未来が分かるのならば、貴方を吸血鬼に転生させませんでしたよ」


 ...................そうですか。

『あれ』は貴方にとっても予定外だったんですね。


「ええ、勿論。吸血鬼の数が恐ろしい速度で減っていくのを見て、下界を確認した時は目を疑いました。.......まさかミザリーの洗脳が、あそこまで狂信的なものになっているとは」


 みたいですね。

 気持ち悪いったらありゃしない。


「.......やはり、決心は変わりませんか」


 決心?なんの事ですか?


「.......人間を、滅ぼすと」


 ああ、それですか。それは『決心』じゃありませんよ。

()()()()』です。

 私の大切な人達を奪い去った種族。存在していることその物が許せない。.......あちらがこちらを滅ぼすというのであれば、こちらもそうしますよ。

 目には目を歯には歯を。.......滅びには滅びを。


「.......そうですか。分かりました、では私も手を貸しましょう」


 神としての立場から、止めなければならないのは分かって今なんて?


「手を貸しますと言ったんですよ。正直、人族がここまで手遅れだとは思ってもいませんでした。魔族の神である私は、人間への干渉が限られているので、ミザリーの洗脳教育がどれほどか、最近まで知らなかったんです。今回の件で、無理矢理に情報収集をして、その結果、あの人類はこの世界では不要、と判断しました」


 .......人間の姿が私の脳内で再生される。

 何を言っても、ミザリー様ミザリー様。そして、ミザリーを信仰していない私達をゴミ扱い。

 ああ、思い出したら益々殺したくなってきた。


「正直、最初は魔族と人間を統一しようと考えていたんです。.......しかし、あのレベルまで洗脳された生物を、私の管轄内に入れるなど最早不可能です。これ以上は流石に看過出来ません。今まで魔族には、人間は極力傷つけないように、防衛戦を主体として戦ってきてもらいましたが、これからは容赦無く進軍してもらう予定です」


 .......つまり、イスズ様も人間を滅ぼすことには賛成だと?


「ええ。こう言ってはあれですが、あれは人間という種の.......いえ、()()()()()の一種の『失敗作』です。神の言いなりになるだけの生物、己の種が最も正しいという妄想に囚われ、他の種を見下し、滅しようとすらする種族。そんな『欠陥生物(ガラクタ)』は、私の管理する世界にとっての害悪にしかなりません」


 ええ、その通りですとも。

 人間なんて、みんなみんな、ゴミ以下の存在だ。

 女?子供?老人?知ったことか。

 人間はみんな、私が殺し尽くす『敵』であり、世界にとっての『害』だ。


「.......しかし、実のところを言えば、現在の魔族は、厳しい状況だと言わざるを得ません」


 .......ん?

 魔族って、人間より少ないけど人間より遥かに強いから大丈夫ー、みたいな話だったのでは?


「.......そう『だった』というのが正解ですね。実は今、非常に面倒なことになっており.......その面倒事が、私が人類を滅ぼそうと決めた、最大の理由でもあるのです」



 ※※※



「結論から言えば、その面倒事というのは『勇者』の誕生です」


 その言葉を反芻し、私は思い至る。

 私と同じ、『異世界転生者』の存在を。

 つまり、高いポテンシャルを持つ異世界転生者の一人が、勇者となってしまったってこと?


「.............それだけなら、どんなによかったか」


 あれ?違うの?


「リーンさん、先程の言葉、一部訂正させて頂きます。私は人間を滅ぼすと言いましたが、正確には―――1()()()()()()()()()、人間を滅ぼしたい、というのが正しいです」


 .......例外?

 人間に例外なんて必要ないと思いますけど。

 どんな善良に見える人間だって、腹で何考えてるか分からないんですから、みんな殺しちゃえば世界は平和ですよ。


「.......荒んでいますね。まあ、当たり前ですか」


 あんなことされたら、愛想だって尽きますし憎悪なんて湧き出ても湧き出ても溢れてきますよ。

 今この瞬間だって、人間を殺したくて仕方がないんですから。


「まあ、落ち着いてください。順を追って説明致します。今から約5年前.......つまり貴方が転生したのとほぼ同時期、『勇者の素質』を持つ者が現れました。その人数は3人、異例の人数です。.......しかしこの中に、『異世界転生者』()()()()子が1人、混じっていました」


 つまり、異世界転生したのではなく、素で『勇者の素質』を持った『天才』が同時期に偶然産まれたと。


「その通りです。その少女は、5歳になった時に『勇者の素質』が発覚します。そして人間にとっては最高の幸運で、彼女にとっては最悪の不幸だったのは.............彼女の勇者としての力、及び彼女の《ステータス》が、異常とすら言えるほどに高かったのです。正直なところを申しますと、才能という面では、貴方すら遥かに上回っていたようで」


 .......?

 なんでそれがそいつの『不幸』になるのか。

 勇者でしょ?勇者っていったら、人間の絶対的な守護者。

 それが凄い力を持ってるんだったら、それはそいつにとって幸運なことなのでは?


「.............ここからは、人間の狂気、その一端に触れる話です。彼女の凄まじい力を知った人間の貴族・王族階級の者たちは、飛び上がって喜びました。そして、彼らは悩みました。この数百年、数千年に一度の才能を持つ天才を、最も自分達とミザリーの利益に繋げるにはどうしたらいいのか、と。.......そして審議の結果、彼らは、考えうる限り最悪の決定を下します」







「それが『勇者兵器化計画』。高い才覚を持つ勇者を、心を壊し、洗脳し、『生物兵器』として魔族と戦わせるという、正気の沙汰とは思えない、最悪の計画です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ