【episodeZero】二人目
「.......では、行ってきますね。街をよろしくお願いします、レインさん」
「任せときなさい。何が来ようと、アタシの台風で吹っ飛ばしてやるわよ」
竜人族の街から出ていく三つの影があった。
言うまでもなく、私とフラン、それにフルーレティアだ。
竜皇とも相談して、フルーレティアは私たちと共に来ることになった。
竜皇も、私たちのことを覚えていたらしく、「昔の恩を今返して来なさい」と、快くフルーレティアを送ってくれた。
「竜皇様.......ああ見えて打算ばかりで動く人だと思っていましたけど、優しい面もあったんですね。少し、あの方を誤解していました.......」
フルーレティアはそんなことをしみじみと.......
「(どうすんのさ、言ってあげなよフィリス。レインさんがレティより遥かに強かったから、レティを外に出した方が戦力強化になるって言ってたって)」
「(言うならお前が言え!そんな残酷な真実、伝えられるわけあるか!)」
「.......?どうしたんですか、お二人共」
「「なんでもないよ?」」
※※※
「ところでさー、フィリスって吸血鬼族じゃん?あたしたちと寝る時間違うけど、大丈夫なの?」
「問題無い。お前らに合わせる。別に吸血鬼族は他種族と昼夜逆転の生活を送っているだけで、そうしないとならないという決まりも特性も無いからな」
というか、レベルが80を超えた今では、睡眠もあまり必要ない。
「えーっと.......ところで、今はどこに向かってるんですか?」
「ああ、説明していなかったな。今は魔界に向かっている」
魔界とは、異世界ではなく、悪魔族と魔人族が住まう地域の総称だ。
数多の種族中、最も悪属性の色が濃いこの二種族は、早々に人間から迫害を受けた。
故に悪魔族と魔人族は同盟を結び、魔界で協力して暮らしている。
「人間に対して負の感情を持つあの二種族なら、『魔王』である私への協力を望む可能性が高い。だから手始めに魔界というわけだ」
「なるほど、そういうことですか」
「ただねー、あそこはあんまり他種族と交流しないから、情報が少ないんだよねー。だから、場所くらいしか分からないし、今も温厚な種族とは限らないんだよ」
まあ、最悪の場合、私の強さを見せて、取り敢えず従わせるという方法はある。やりたくはないが。
何せ、ここにいる三人は、おそらく世界でも最上位級の強さを持つ存在だ。
「それにしても.......フィリスさん、本当に強いですね。これで夜にはもっと強くなるって思うと、ちょっと怖いくらいですよ」
「ん?なんで分かる?」
「え、忘れたんですか?ほら、これですよ、これ」
そう言ってフルーレティアは、服に手を入れて、首に下がっているペンダントを取り出した。
「ああ、そうか。『天眼アルス』か、そういえば渡したな」
「はい。これのおかげで、私は随分と重宝されたものです」
アルスには、他人のステータスを見る力もあったはずだ。
その力で、私のステータスを覗いたのか。
「ちなみに、お前らはどれくらいなんだ?」
「あたしのステータス?見る?」
「ワタクシのもどうぞ」
「じゃあ、私のもだ」
「「「『ステータス』」」」
***
フィリス・ダークロード 吸血鬼 Lv84
職業:魔王
状態:健康・邪神の加護・邪神の契約
筋力:16740
防御:13540
魔力:21570
魔防:15320
速度:18590
魔法:身体強化魔法、元素魔法(全)、付与魔法、回復魔法、結界魔法、精神魔法、空間魔法、闇魔法
***
フラン・フォレスター ハイエルフ Lv78
職業:大賢者
状態:健康
筋力:740
防御:520
魔力:31250
魔防:25870
速度:9650
魔法:元素魔法(全)、環境魔法、付与魔法、結界魔法、回復魔法、精神魔法、時空魔法、光魔法、闇魔法、破滅魔法
***
フルーレティア 上位竜人 Lv81
職業:結界王
状態:健康
筋力:11240
防御:9960
魔力:12470
魔防:8430
速度:9850
魔法:結界魔法
***
「.............全員何かしら、10000オーバーのステータスがあるとは。というかフラン、魔力30000ってなんだ」
「フィリスこそ、全ステータス10000超えてんじゃん。レティも、筋力と魔力が高いし。前衛も後衛もこなせます感半端ないよ」
「そ、そんなことを言われても.......」
まあとりあえず、ここにいるやつが全員頼もしいことはわかった。
「.......で、フィリス。気になってたんだけど、苗字」
ん?苗字?
「リンカと結婚してたってことは、『ブラッドロード』の筈だよね。なんで『ダークロード』になってんの?」
「ああ、これか。魔王になった者は、自動的にこの苗字になるらしい。『邪神の契約』の力でな」
「その.......いいの?ブラッドロードのままのほうが、リンカとの繋がりとか、その.......」
こいつ、やはりアホだな。
「あのな、苗字如き変わったって、私とリンカの繋がりは絶たれないし、そもそも魔王の任が解ければ元に戻る。この程度でうじうじ言うような性格なら、三千年もの長い間の無茶振りなど了承しないだろ」
私とリンカの繋がりは、そんな弱いものじゃない。
これは絶対だ。
「.......やだ、男前。ちょっと好きになりそう」
「悪いな、お前はそういう目で見れない」
「.......あの、そろそろ出発しませんか?」
※※※
それからしばらく、フランとフルーレティアと共に魔界へ向かう旅をした。
まあまあ過酷だったが、全員強かったので、そこまで苦労はしなかった。
そして、
「おー.......見えてきた」
ついに、魔界の様子が視界に入った。
「なんというか、おどろおどろしいですね。大地が紫色ですよ」
「それは色が不気味なだけで、物凄く豊富な栄養がある大地らしいぞ。.......さて、向かうか」
もう目と鼻の先となった魔界に向けて、私たちは再び歩き出した。
「おっ、ここから魔界だね!」
「ここから、面白いように大地や木の色が変わっているな。さて、ここからが本番.......ん?」
なんだ?今、フランが歩いたところから、『カチッ』という変な音がしたような.......
突如、私たちの歩いていたところに大穴が空いた。
「うおおおおお!?」
「きゃあああっ!!」
「ちょっ、何これ!?.............《白鳥の翼》!」
フランが咄嗟に、短時間だが羽を生やして空を飛べるようになる魔法を私たちに使ってくれたおかげで、事なきを得た。
「なんなのこれ.......落とし穴?そんな古典的な.......」
「まったく、何だったんだ。一体.............フルーレティア、後ろだ!!」
「え?.......きゃっ!?」
先程空いた穴の中から、土竜のような姿の魔獣が何体も飛び出してきた。
それは私たちを囲み、威嚇してくる。
「ちょ.......本当になになに!?この大穴、この魔獣の罠!?」
「その可能性が高いが.......」
なにか引っかかるものがある。妙な違和感だ。
まあ、この程度ならば蹴散らせばいいだけの話。違和感は一匹だけ生かして、そいつを観察して考えよう。
「よし、フラン。やってしまえ」
「オッケー。《万年.......」
「わー!待って待って、待ってくれ!」
 




