【番外編】四魔神将最強
番外編。ちょっとグレイさんをかつやくさせてみたかったんです。
「そーいや結局、四魔神将って誰が一番強いわけ?」
きっかけは、レインさんが幹部会議後、魔王様が退席した後に何気なく始まった雑談の時に放った、この言葉だった。
「誰がって.......そりゃまあ、第一席のヨミでしょう?」
「いえ.......案外、そうとも限りませんよ?ヨミさんの実力は確かに目を見張るものですが、神器込みでの戦いなら、グレイさんに分があるかもしれません」
ふむ。
たしかにグレイさんには、神器『強服グラボラス』がある。
自らの力と防御、速度を数倍に引き上げるという、シンプルだけど強力な神器。
「ついでに言えばー、遠距離からのー、勝負ならー、多分ー、サクラくんがー、最強ですよねー?」
「そうだなあ。俺、サクラからの多重魔法連打食らったら、一分で死ぬ自信あるぜ」
「サクラは、私の姉の血を色濃く受け継いでますからね。近いうちに、姉様すら超えるやもしれません」
「そ、そんな.......お母さんを超えるなんて.......」
前から思ってたけど、サクラ君ってティアナさん以上に、フラン様を尊敬してるっていうか。
ぶっちゃけマザコンの気があるよね。
「で、話を戻しましょ。.......誰が一番強いわけ?」
「.......難しい問題ですね。満月の夜なら間違いなく私が最強ですけど」
「.......待って.......欲しい.......俺の武術であれば.......満月のリーンであろうとも.......制圧する.......自信が.......ある.......」
「ボクもそうだね。満月のリーンは、たしかにステータスで見れば魔王軍ダントツ一番になるけど、イコール最強にはならないんじゃないの?」
おっ?なんだ?随分と言うじゃないの、この二人。
私の満月の時の平均ステータス知ってる?100万だよ?
軽いジャブを放っただけで、衝撃で山に風穴空くんだよ?
そんな私に勝てるとでも?
「そりゃ二人が強いのは知ってますけど。けど、ステータスの差ってのは重要ですよ?いくら強かろうが、平均ステータスが十倍以上も離れちゃ、勝機はないと思うけど、どうですかね?」
「.......言うでは.......ないか.......」
「.......最近、ちょっと運動不足気味なんだよね。.......今夜は半月だったよね?強化率三倍、ステータスだけならこの中で最強になるね、リーン。.......いい機会だから、ちょっと四魔神将の序列が正しいのかどうか、ハッキリさせようよ」
「.............え、えっと.......ぼ、僕は.......」
「.......いいよ、やろっか。グレイさんとサクラ君もいいですよね?」
「.......いいだろう.......俺こそが.......最強と.......知らしめてやる.......」
「ええっ!?ぼ、僕もですか!?」
「僕もです。さ、行くよ!」
そして、サクラ君の襟首を掴んで、私は席を立った。
ヨミとグレイさんも追従してくる。
「ところで、どこでやるの?」
「.......闘技場で.......いいだろう.......」
「そですね」
「!?ま、待ってくれ、四魔神将諸君。闘技場とはワシの領地にあるあの場のことを言っているのかね?ならば遠慮してもらいたい、ついこの間、改修が終わったばかりで.......」
「手加減無しでいくよ!」
「手加減してくれ!」
「.......遠慮は.......無用.......」
「有用だ!!」
「や、やるからには、頑張ります.......」
「頑張らなくていい!」
「さ、行きますよ!」
「行かないでくれー!!」
※※※
「おい、闘技場で四魔神将がバトルロイヤルやるらしいぜ!」
「それ絶対に闘技場が吹っ飛ぶやつじゃねえか!!前回の傷跡が漸く治ったところだってのに.......」
「どうすんのよ、大工が既に泣いてるわよ。誰か止めたげなさいよ」
「無理に決まってんだろ、あの四魔神将だぞ!もうあの四人だけで世界を滅ぼせるんじゃねえかと思うくらい強い、あのバケモンだぞ!意見なんざ出来るか!」
「それなんだがな。ヴィネル様の計らいで、魔族領の至る所で生放送され、しかも賭けが行われるらしいぜ。あと、一応闘技場は、結界で覆うってよ」
「さすがヴィネル様、抜け目ねえ.......」
闘技場の外から、そんな声が聞こえてきた。
勝手に私たちを興業にしたヴィネルさんは後でシバく。
「じゃ、ルールの最終確認。制限時間無し、参ったと言うか、気絶すればその人は脱落。個人の強さを見るために、神器の使用は禁止。それ以外は武器、魔法、なんでもあり。.......ですよね?」
「.......了解だ.......」
「は、把握しました.......」
「ボクもオッケー」
「はい、じゃあ.......スタート!」
私はそう言った瞬間、不意打ちでサクラくんに飛びかかったーーー!
「リーン、きたなっ!?」
なんとでも言え。
これくらい出来ないと、戦争で生き残れないんだよ!
「サクラ君、仕留め」
「《空間穴》」
「た.......んなっ!?」
サクラ君を首トンで気絶させようと思ったけど、魔法で空間に穴を空けられて、攻撃はサクラ君とは全く別のところに空振りした。
その私に、すかさずグレイさんが飛びかかってくる!
「.......ふんっ」
「っとお、危なっ、ちょっ、うわっ!」
「隙ありっ.......」
「ヨミっ!?.......ほっ」
「「!?」」
咄嗟にしゃがんで、ヨミとグレイさんを争わせる。
この隙に、サクラ君を.......
「《大火津波》!」
「「ちょっ!?」」
「.......これは.......いかん.......!」
闘技場を飲み込まんばかりの大きさの炎の波が、私たちに襲いかかる!
発動者は勿論サクラ君。
「《転移》!」
「あっ!?リーンずるい!」
よし、これで.............え?
「ちょ、何これ!?動けな.......」
「《強制指定》と、《空間固定》です.......無理して動いたら、足がちぎれますよ。えへへぇ.......」
「罠とかっ.............《魔法解除》!」
「《魔法解除》」
「.......あれ?.............まさか、《魔法解除》を《魔法解除》で打ち消したの!?そんなのアリ!?」
.......ヤバい、正直サクラ君を甘く見てた!
ぶっちゃけ、この中では一番攻略しやすいかもとか思ってた.......!
「ああ、もう.......!ふんぬうううう!」
「えっ.......リーンさん、何を.......!?」
このままじゃ負ける。
なんかそれは癪だったので、無理やり足を引きちぎった。
そして、
「ふー.......《再生》」
回復魔法の異端児、《再生》で『切れた足をくっつける』のではなく、『切れた足を再生する』。
「よし」
「ええっ.......!?い、痛いとか、そういうの無いんですか.......!?」
「ぶっちゃけ慣れた。あと、月の加護は痛覚麻痺効果もあるから」
さあ、各員温まってきたぞ。
もっと楽しもう!
※※※
「.......やべえ。四魔神将マジやべえ。このレベルかよ.......」
「わたしはグレイ様に賭けたけど、あんたらは?」
「俺はヨミ様だ」
「俺も」
「アタシはリーン様に決まってんじゃん!」
「俺もー!リーン様、もっと暴れてぇー!」
「私はサクラたん♡」
「ぼ、僕も.......」
「.......ただ、な。もう闘技場は原型とどめてねえな」
「結界があるから、周囲への被害は無いけど.......大工がショック気絶してるわよ」
すいません大工さんたち。
あれから三十分。未だに脱落者ゼロ。
自分以外は全員敵。しかも全員が、自分と同じ肩書きを持つ化け物。
対等な戦いというものに恵まれることが少ない私たちは、この状況を楽しんでいた。
「ハァ.......ハァ.......楽しくなってきた.......!」
「ふう.......そうだね。もっとやろう」
さあ、勝負はまだ始まったばかり.......
「お前ら、何をしとる」
宙に浮きながら、私たちを不気味なほどの笑顔で見下ろしている魔王様がいた。
「ほうほう。四魔神将同士で対決か。こんな街中で。妾の許可も無く。闘技場も最早炭素と化しておるな。.......お前ら、覚悟は出来てるのかのう?」
「.......あ、いや。えっと、ですね」
どうすっかな。
めっちゃ怒ってる。
逃げる?無理だ、魔王様の速度ならコンマ一秒かからず追いつかれる。
「よし.......こうなったら、魔王様と一戦やり合ってみよう」
「リ、リーン!?何言い出すの!?何年か前に、魔王様に二秒でボロボロにされたの覚えてないの!?」
失礼な、あの時も五秒はもったよ!
「あの頃とは違う。それに、こっちは四人。勝てずとも、もしかしたら善戦くらい.......とか、思わない?」
「.......ふむ.......一理.......ある.......」
そうこう言ってる間も、魔王様は私たちに制裁を加えるために近づいてくる。
「よし.......やろう。サクラ君、後ろで魔法撃って。サクラ君がインターバル必要な魔法撃つまでの時間を、私たちで稼ぐよ」
「えー.......本当にやるの?十秒も持つ気がしないんだけど.......」
「.......やる.......価値は.......ある.......」
どうやら、二人もやる気になったようだ。
さあ、四年前のリベンジだ!まずは手始めに、
「遅い」
「ぎゃぺっ!?」
「軽い」
「ぬおおっ!」
「鈍い」
「ぎゃんっ!?」
何かを始める前に、前衛三人、一撃でぶっ飛ばされた。
「ふん.......月の加護があるのは、主だけでは無いぞ、リーン」
あ、そっか.......。
魔王様も、吸血鬼族でしたね.......。
「おい、サクラ」
「ひいっ!?」
「お前もやるか?」
「えっ!.......いや、あの、その.......」
「サクラ、このバカ三人を捕縛魔法で縛り上げ、妾のところまで引っ張ってくるならば、お前の罰は軽くしてやる。妾とて、親友の息子を殴りたくは無いのじゃ。.......それとも、お前がやらかしたことを、母に報告されたいか?」
「ひいいいっ!?わ、分かりました、御三方は縛りますしお説教も甘んじて受け入れますし、この闘技場は僕が後で責任もって直しておくので.............お母さんに言うのはやめてください!」
あ、あのエルフ.......裏切りおった.......。
四魔神将最強決定戦。
総評。魔王様が一番強いです。