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転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第五章 魔王誕生編
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【episodeZero】取引

 .......取引?


「はい。話だけでも聞いていただけると嬉しいのですが」


 .......内容によります。


「では、まずは私の要求から。.......フィリス・ブラッドロード。あなたには、私の眷属として、『魔王』になってもらいたいのです」


 魔王?

 聞きなれない言葉だ。


「魔王とは、文字通り魔の王。この世界において、その属性が悪属性に偏っている種族、つまり魔族をまとめる王です」


 .......はあ?

 なんでそんなものに、私がならなきゃならないのですか。


「順を追って話しましょう。元々この世界には、三柱の女神がいました。人間を統括するミザリー、魔族を統括する私、そして人間ではないけど善属性の種族.......俗に言う亜人族を統括する女神も、かつてはいたのです」


 .......そんな話、聞いたことがなかった。

 私が生きる世界では、神は二柱しか知られていない。


「そうでしょうね、彼女の記憶は全ての生命から消えていますから。亜人族を自らの統治に入れようと目論んだミザリーの姑息な計略に嵌ってしまったその女神は、この世界から追放されてしまっています。まあ、亜人族の統治権は、ミザリーが油断した隙に私が掠めとってやったんですけどね」


 .......へえ。

 それで?私が魔王とやらにならねばならない理由は?


「ミザリーは、私を計略で潰せないと悟ったのか、強硬手段に出ました。魔族を絶滅させるという方法です。統治する種族が一人もいなくなった神は、その世界からは消滅しますから。ですから、あなたには魔王となり、魔族や亜人族を率いて、それを止めて貰いたいのですよ」


 なんで私なのですか。

 他にもいくらでも相応しいものはいるでしょう。


「いないからあなたに話しているのではありませんか。『魔王』とは、魔族の中でも数百年に一人持ちうるかどうかというほどに希少な『魔王の素質』が無いとなれません。ですが、あなたはその素質を持っているのですよ」


 ああ、なるほど。

 誰でもなれるというわけではないのか。


「私がミザリーをこの世界から神のやり方で追放する.......そうですね、年数にして二、三千年でしょうか。その間、あなたには人間の侵攻を食い止め、人間と他種族のバランスを保って欲しいのです。これが私の要求です」


 要するに、二、三千年もの間、私に忌々しい戦争を続けろと。

 そこまで恐ろしい要求をしてくるなら、当然、それ相応の対価があるのでしょうね?


「無論です。何しろ、恐ろしく難易度が高く、過酷なお願いをしていますからね。前払いと後払いに分けて、きっちり対価はお支払いしますよ」


 後払いって.......二千年後なんて、いくら吸血鬼でも死んでいるでしょう。


「ああ、その点はご安心を。取引成立の暁には、あなたには不老の存在となってもらいますから」


 そ、そうですか.......。

 まあ、取引と言うからには、私が納得するだけの対価が用意されていないと話にならない。

 だが、私が金銭で動くことは無いことくらい、イスズ様も分かっているはず。


「前払いと後払い、どっちが先に聞きたいですか?」


 .......別にどっちでも良いですよ。


「そうですか?.......んー、じゃあ後払いからいきましょうか」


 はあ.............これでくだらない対価だったら、即却下して肉体に戻って自決を.............



「もしあなたが、私がミザリーを追放するまでの時間を稼ぐことが出来たのなら。その時はリンカを生き返らせてあげましょう」



 ...................................................................は?



 ※※※



 自分の手が震えるのが分かる。

 生気を失った自分の心が、一気に活性化する感覚すらした。

 聞き間違い.......では、ないよな?

 あの、もう一度.......


「ですから、リンカを生き返らせてあげます」


「ほ.......本当に!?本当に、リンカを!?」


「あっと、一応神の領域なので、極力声を出すのは控えてください。マナーです」


 慌てて口を噤んだが、体から沸き立つ興奮は抑えられなかった。


 リ、リンカが.......生き返る?


「申し訳ないのですが、今すぐには無理です。神の地上に対する過度な干渉は神界で禁じられていますから、今そんなことをしたら、私はその行為をミザリーに勘づかれ、上に報告され、世界追放、ミザリーがこの世界の唯一神になり.......あとは分かりますね?」


 考えうる限り最悪の未来だ。


「ですが、ミザリーを消した後であれば、一人甦らせるくらいであればコソッと出来ます。それで、リンカを再びこの世に呼び戻しましょう」


 三千年。

 たったの三千年耐えるだけで、リンカが戻ってくる。


「これが後払い。あなたへの『成功報酬』です。で、前払いなのですが」


 正直.......後払いだけでも、この話を受ける価値はある。

 リンカが生き返るというのは、それだけで、私にとって最も価値のあることだ。


「まあ、前払いといっても、こちらも数百年ほどかかってしまうのですが。神の特権の裏技を使います」


 神の特権の裏技?


「神の最も大切な仕事とは、生命を生み出し、運営することです。世界を統治するに当たって、一番始めにすることが、新たな命を作り出す作業です。私の場合はまず魔人族を生み出し、それから悪魔族やダークエルフ族、それに吸血鬼族などを生み出しました。この一連の『命を作る』という力が、神の特権の一つです。これを応用します」


 話が見えてこない。

 その特権が、どう私にとって得になるんです?


「本来、命は無闇に作っていいものではありません。世界を任された際、その序盤でしか、多くの命を作ることは許されていません。しかし、種族が絶滅の危機に瀕した際、その種を残すための緊急措置として、少ない数であれば生み出すことが特例で認められています。『同種族の二人の魂、及び遺伝子の情報を混合させる』という方法でならば」


 .......??

 ますます分からないぞ。なんで私は、神の世界運営の話を聞いているんだ?


「分かりませんか?『魂を混合させる』というのは、その二人の遺伝子情報を分割し、一人の生き物を生み出すということ。.......その二人の子供と言える存在なのですよ」


 ――――っ!?

 ま、待って欲しい。

 それは.......つまり.......


「あなたとリンカの魂情報、遺伝子情報を混合させ、お二人の子供を作り出すことも可能、という話です」


 .............なん、だって。

 私とリンカは、同性だ。

 この世界の魔法でも、同性で子を授かる魔法は存在しない。

 だが、それなら.......!


「悪い話ではないはずです。自分とリンカの子孫を授かることが出来て、しかも上手く行けばリンカも取り戻せる。その代わり、私の眷属として『魔王』となり、種族のバランスを三千年もの長い間保つ義務を負う。.......どうでしょうか」


 勿論、私の心は決まっている。

 三千年?リンカと再び会える可能性があるなら、その程度の年数、余裕だ。


「答えを聞かせて貰えますか?」


 私は――――

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