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転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第五章 魔王誕生編
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【episodeZero】許せない者

 私は再び、エルフの村にある樹城に転移した。

 頭の中はグチャグチャで、これが現実なのかも、よく分からなくなっていた。


「フィリス、どこに行ってた.............どうしたの、その血!?」

「.......全部、返り血だ.............私に傷は無い.............」

「え?.......もしかして、街を襲ったっていう、騎士団を.......」

「皆殺しにした。一匹残らず。.......街の住民は.......まあ、結構な数、助けられたよ」


 それでも、生き残ったのは街の人口の一割にも満たない。

 死んだ中には.......あの、ディーシェとネイルもいた。

 まるで、ネイルがディーシェを庇うように、折り重なって、二人は息絶えていた。


「すまない、フラン.......リンカの所まで、連れて行ってくれないか.............」

「.......分かったよ」


 フランは、あの明るい、自由奔放な様子を一切見せずに、私に肩を貸して、リンカの元まで案内してくれた。


 リンカは、樹城にある安置室にいた。

 そして、その近くには.......


「フィリス君.............」

「フィリス、様.............」

「エルフ王.......それにティアナか。大きくなったな.......」

「いえ.......その、あの.......」


 ティアナは、何を言っていいのか分からないようだ。

 それはそうだろうな。私も、立場が逆ならそうなるかもしれない。


「リンカ.......ははは.......目を覚まさなくても、綺麗な顔してるな.............」


 もう、二度と目を覚まさない、世界で一番愛しい妻の顔を.......私は暫く、見つめ続けた。



 ※※※



「私とリンカな.......あの後、結婚したんだよ」

「.......え?」


 私は、自分でもよく分からずに、フランと分かれてからの事を語った。理由は不明瞭だ。

 ただなんとなく、フランには知っていて欲しかった。


「リンカから告白されて.......初めて、自分の気持ちに気づいた。ただの幼なじみだと思っていた、旅についてくるとも思ってなかったリンカは、いつの間にか私にとって、最も大切な存在となっていた。大好きだった。愛してた。.......その時に誓ったんだ。何があってもリンカを守ると」


 エルフの王族、その三人は、何も言わずに、私の話を聞いてくれた。


「けど、見てくれ。.......このザマだ。あの日.......リンカが誘拐されたあの日。二度とリンカから離れないと、もうリンカを、怖い目に遭わせないと、心に誓ったのに.......その誓いを忘れて、私はリンカから目を離した。それがこの結果だ」

「フィリス、それは.......!」

(フィリス)のせいじゃない、か?.......違うな。これは私のせいだ。自分の力に自惚れていた時から、私は何も変わっていなかった。心のどこかで、自分ならどんな状況でもリンカを守れると.......そう、錯覚していたんだ」


 私は、もう動かない、リンカの顔を撫でた。


「ごめん、リンカ。愚かでごめん。約束を守れないどうしようもない私が、伴侶で.......ごめんな.......」


 そして私は、


「約束は守れなかったけど.......でも、お前を殺した者への復讐は、ちゃんと最後まで果たすから.......」


 右手に力をこめて、


「お前を直接殺した男は始末した。お前の死の原因となった騎士団は皆殺しにした。.......これで最後だ」

「.......フィリス?.............まさかっ!?フィリス、待っ.......」


 自分の心臓に、突き刺した。




 私の、最後の復讐目標。最も許せない者。


 それは。


 リンカとの約束を破り、守ることが出来なかった.......自分だ。



 ※※※



 .......ここは、どこだ。


 妙な気分だ。浮いているような、どこまでも沈んでいくような。

 ここは一体.......



「ここは神の領域です。漸く会えましたね、フィリス」



 こちらに歩いてきたのは、人間のように見える.......だが、凄まじい力を感じる、黒髪の美女。

 .......神の領域、だと?ということは.......こいつが女神ミザリーか?


「.......私をあんなアバズレ女神と一緒にしないで貰えますかね?故意でなくとも不快なんですが」


 .......心を読むか。どうやら、神であることは間違いなさそうだ。

 しかし、女神ミザリーじゃないということは、つまり.......


「はい、お察しの通りです。私はイスズ。死と憤怒を司る、魔族の神です」


 やはり。

 申し訳ない、最悪な間違いをしてしまった。


「構いませんよ。.......いきなり意識に干渉して、さぞ驚いたでしょう。こちらこそ謝罪しなければ」


 それこそ謝罪の必要は無いでしょう、私は死んだのだから。

 死者の目の前に神が現れるなど、物語では定番ではないですか。


「.......死んだ、ですか」


 ええ。

 .......イスズ様、一つ、叶うのならば願いを聞いてもらいたい。


「なんでしょうか」


 .......どうか一度だけで良いから、リンカに会いたい。


「申し訳ありませんが.......それは出来ません」


 .............そうですか。

 せめて.......一言だけでも、謝りたかったのに。


「死者と生者の対話は、絶対にさせてはならない。神の掟の一つですから」


 .............ん?

 いや待って貰いたい。

 私たちは、お互いに死んでいるのだから.......別に良いのでは?


「いいえ。.......あなたは、死んでいません」


 .............なんだと?

 そんなはずは無い。たしかに私は、自分の心臓を.......


「ええ、あなたは自分の心臓を貫きました。.......ですが、あなたの手が完全に心臓を貫通するより一瞬早く、フランがあなたの右手を魔法で切り落としました。おかげであなたは即死せず、一命を取りとめ.......現在、フランがあなたの肉体の修復を行っています」


 .......あのバカ娘、余計なことをっ.......!!


「いいえ。フランはファインプレーと言うべきでしょう。あなたが死んだら.......この世界は、崩壊していたかもしれませんから」


 .............どういう、ことですか。


「あなたには、それだけの才能があるということです。あなたも知っての通り、現在この世界は、女神ミザリーとその崇拝者たる人間によって、おかしな方向に向かおうとしています。.......ですが、あなたにはその流れを止める力がある」


 .......どうでもいい。

 そんな才能、必要無い。

 私にどんな才能があろうと.......リンカを守れなかった。その結果として、リンカは死んだ。それに変わりはない。


 リンカが、私の全てだった。

 リンカと平和に暮らして行ければ、それでよかった。


「『しかし、自分は吸血鬼の里には帰らず、混在街に住んだ。それは、まだ私が自分のかつての夢を諦めていなかったからだ。色々な種族を見て、好奇心を満たしたい。.......その自分勝手な気持ちが、リンカを殺した』.......ですか」


 .......なんでもお見通しですね。


「神ですから。.......たしかに、あなたはリンカを守れなかった。それは覆しようのない『過去』であり、あなたのこれからにおいて、永遠に付き纏うことになるでしょうね」


 ははは.......これからなんてありませんよ。

 意識が戻ったら、今度こそちゃんと死にます。

 今度は、フランでもどうしようもない方法で。


「話を最後まで聞きなさい。.......永遠に付き合うことになる『過去』。しかし、それを糧とし、『未来』を良くすることは出来ます」


 .......何が言いたいのか、結論を言って貰えませんか。


「分かりました。.......フィリス・ブラッドロード。私と取引をしましょう」

ここで、鬱展開は一段落です.......!

明日からは、今まで通り15時に投稿します。

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― 新着の感想 ―
[一言] フラン、ファインプレーすぎる……
[良い点] 色々悲しすぎた……(泣
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