【episodeZero】絶望
「.............リン、カ」
最初のうちに斬られた箇所が痛むが、その程度気にならなかった。
半分意識を失い、無我夢中であの男を殺したが、リンカの方には絶対に攻撃させなかった。
「リンカ.......終わったよ.............目を、覚ましてくれ.......」
リンカの元に体を引きずり、近寄ったが.......リンカは起きない。
体に穴が空き、息もせず、脈も無い。
私でも、分かってしまった。分かってはいたが、少しの間だけ目を背けていた事実に直面した、というのが正しい。
リンカは.......死んだ。
目の前が真っ暗になっていくのを感じた.......だが、私の頭は、考えることを辞めなかった。
どうする。どうすれば、リンカを救える。
絶望するのは、全てを試してからだ.......。
リンカを助けられるなら、命だってくれてやる!
心当たりはあった。
蘇生魔法。死者を生き返らせる魔法。回復魔法の最上位で、現在は使い手が失われたとされる、伝説の魔法。
「使い手が失われた魔法.......魔法.......エルフ.......」
だが、私はそれを使えそうな者に、心当たりがあった。
思い立った瞬間、私はリンカを抱え.......即座に転移した。
かつて、リンカと共に最初に訪れた場所.......エルフ族の村へ。
※※※
「転移魔法!?何者っ.............おや、あなたはどこかで.......」
「フラン.......フラン!いるか!?頼む、助けてくれ!!」
「ちょっ、困ります!許可なく樹城に.......ああ、思い出した!あなたはフラン様のご友人の!」
「そうだ!!頼む、フランに用がある!!入れてくれ!!」
「し、しかし、あなたが抱えている方は.......いえ、深くは今は聞きません。.......ご案内します、こちらへ!」
状況を断片的に悟ったのだろう、門番の男は理由も聞かずに、私を案内してくれた。
それは、門番としては失格の行動なのかもしれないが、今の私にはこの上なくありがたかった。
「こちらです」
「フラン.............!」
「えっ、フィリス?久しぶり.............リンカ!?」
駆け寄ってきた懐かしい顔。
だが、感傷に浸っている暇は無かった。
「フ、フラン.............フラン、助けてくれ.......!」
「お、落ち着いて!何があったのさ!?」
私は、今日あったことを、たどたどしく説明した。
「お、お前なら.......蘇生魔法が使えるのではと、思って.......!」
私が知る限り、最高の魔術師。
フラン・フォレスターならば、蘇生魔法すら操れるかもしれない。そんな一縷の望みにかけた。
そして、その望みは、
「.........................ゴメン」
.......砕け散った。
「.............つ、使えない、のか?.......お前は.......天才だろう.......?頼む、使えると.......言ってくれ.......」
「.............結論から言えばね、使えないことはないんだよ」
「本当か!?な、なら今すぐに.......」
「でも.......リンカは蘇生出来ない」
「.......何故だ!!使えるんだろう!?ならば.......」
「.......リンカの傷から.......呪いの気配を感じる。しかも、その使い手以外は、絶対に解除出来ない類のものだよ。多分効果は、回復阻害。それが致命傷なら.......蘇生魔法をかけても、意味が無い」
あの男.......勇者ヴィランと名乗った、あの男。
確か、あいつが持っていた剣には、回復阻害効果があると、言っていた.......。
「.......魔剣、ディアス.......」
「っ!?魔剣ディアス.......!?神器の!?」
「あ、ああ.......リンカは、それで.......」
私がそう話した瞬間.......フランは、とても悲しそうな顔をした。
なんでだ。なんでそんな顔をするんだ。
「.......フィリス、落ち着いて聞いて。魔剣ディアスは、神器の一つ。斬った箇所の回復を困難にする特性を持つ剣。.......それで斬り殺された人は.......どんな手を使っても、蘇生出来ない」
「.......神器を破壊しても、なんとかならないか?」
「.............魔剣ディアスは、不壊の属性を持つ。何をしても破壊出来ない。.......治癒困難化の呪いは、使い手にすら、解除出来ないんだ」
使い手が解除出来たとしても.......あの男は、私が骨が完全に見えるほどにボロボロにしてしまった。
「他に.......お前以外に.......お前よりも強い力を持つ、蘇生魔法の使い手は.............」
「.............私が知る限りいないし、たとえいたとしても、その呪いがある限り、蘇生は出来ない」
「.......蘇生が可能な、神器は.............」
「...................昔はあったらしいけど、もう既に、破壊されたって、本で読んだことがある」
.........................考えは、出し尽くした。
私は、腕で少しずつ冷たくなっていくリンカを見下ろして.......そのまま、暗闇に落ちていくような感覚を覚えた。
「.......リンカを、生き返らせる方法.......頼む、私じゃ思いつかないんだ.............フラン.............教えてくれ.............」
「...................フィリス.......!」
フランは泣いていた。
けど、私は泣いていなかった。
それはそうだ。泣くというのは、感情の変化からくるものだ。
もはや私は、絶望のどん底で.......感情は、無いに等しかった。
人は、本当に絶望した時.......涙は出ないものなのだな。
「.......フラン。お前になら、頼める。暫く、リンカを見ていてくれ.......」
「フィリス.......どこに.......」
フランのその問いには答えず、私は再び転移で、混在街へと戻った。
「行けえ!!誇り高き聖神国が教会騎士団の力で、忌々しい混沌の街を浄化せよ!!」
「「「「うおおおおおおおおお!!!」」」」
ああ。
あいつらが来なければ.......リンカは死なずに済んだのに。
リンカを殺した者共。その第一目標.......直接リンカを殺したあの男は始末した。
次は第二目標.......あの騎士団とやら、全員だ。
「.............ゼンインコロス」
「あそこに生き残りがいるぞ!!」
「吸血鬼族だ!浄化せよ.............がぺぁ?」
月の加護によって強化された力を一気に解放して、辺りを吹き飛ばした。
この調子だ。一番許せないヤツは最後に取っておく。
こいつらは.......絶対に、一匹たりとも、生かしておかない。
「こいつっ.......よくも同胞を!!」
「殺せ!!殺せぇ!!」
本編には書き加えきれないと判断したのでここで。
フィリスは、魔剣ディアスの使い手だった勇者ヴィランを恨んでいるのであって、ディアス自体、ひいてはその現在の使い手であるヨミを恨んではいません。
使われた『道具』を恨んでも意味が無いと分かっているからです。
人を刺し殺した者を裁けても、刺した武器を裁くことは出来ないと、ちゃんと理解しています。