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転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第五章 魔王誕生編
132/248

【episodeZero】勇者

鬱展開を長引かせたくないので、主要なところは今日で終わらせます。

この後、18時、21時に一話ずつ投稿するので、ご了承ください。

 その日、私は街の外にいた。

 混在街の周辺に、かなりの数の魔獣が目撃されたという情報を聞きつけ、十数人の冒険者仲間と狩りに行っていた。

 魔獣は拍子抜けするほど弱く、これは笑い話だなと皆で話し合っている時。

 妙な胸騒ぎを感じた。

 まるで、誰かが。.......というより、リンカが、助けを求めているような、そんな感覚。

 それを伝えて、皆と共に街へ戻ると。


「.......なんだよ、これ」


 そこには地獄が拡がっていた。


 街の外には、無数の人影が隊列を組み、中からはあちこちから火が出て、住民が逃げ惑っていた。

 吸血鬼の視覚が、その中で住民を追い回している者たちと、外で逃げてきた住民を切り捨てている影の正体を捉えた。


「人間.......!?」


 間違いない。

 特徴がないのが特徴、吸血鬼から赤い目と八重歯を取ったようなその出で立ち。

 しかも、あの鎧.......三日前に、ネイルを連れ去った連中と同じものだ。

 今思えば、アイツらは先遣隊のようなものだったのかもしれない。


「お、おい.......やべえぞ!街が人間に!!」

「クソっ、中には妻と息子がっ.......」

「仲間を助けなきゃ.......中の戦士も皆応戦してる!わたしたちも行くよ!!」


 その声に仲間は沸き立ち、街の正門へと突っ込んで行った。


「外にいた魔族や亜人族共だ!!」

「邪神崇拝者の人間もいるぞ!」

「総員、構え!!ヤツらを、ミザリー様の名のもとに裁くのだ!!」


 ふざけた声と同時に、こちらに一斉に魔法が降り掛かってくるが、街の精鋭ともいえるここにいる者たちには通じない。


「リンカ......!」

「フィリス!!お前はなんとかして中に入って、住民を助けてやってくれ!!」

「言われずともそのつもりだ!」


 リンカ、無事でいてくれ.......!



 ※※※



 人間の包囲網を掻い潜り、街の中に入ると、そこはほとんど火の海と化していた。

 逃げる住民、嬉嬉としてそれを追いかける人間。

 近くには、いくつもの死体が転がっていて、その中には人間のものもあった。

 街を襲った者共のものも多いが、チラホラと、この街に住む、イスズ様を崇拝するマトモな人間のものもある。


「きゃあああ!」

「死ね、邪神に取り憑かれた愚か者めが!」

「愚か者はお前らだ、このクズ共!」

「げばっ!?」


 一切遠慮のない蹴りを食らわせると、住民を追っていた男は吹き飛び、動かなくなった。


「フィリスさん.......ありがとうございます!」

「怪我は無いな?どこかに身を潜めていろ!」

「はい!」


 リンカは.......リンカは何処だ!?


 自分の家に行ってみたが、いなかった。

 というか、私の家は完全に燃え尽き、見る影もない状態になっていた。


「ああ、くそっ.......リンカを保護したら、アイツら全員八つ裂きにしてやるからな!!」


 昨日まで平和だった街を、こんなにしやがって.......



 ―――ドゴオオオオオオオオオン!!!



「今の音は.......街の広場か?」


 街の中心の大広場の辺りから、大規模な爆発音がした。

 .......街の中心はいざという時の避難場にもなっている。


「まずい.......!?」


 リンカももしかしたら、あそこにいるかもしれない。

 だとしたら.......!


 自分が出せる限りの最大速で街を走り抜け、広場に向かった。

 その被害は、私が通ってきた住宅街とは比べ物にならなかった。

 中心にあった噴水は完全に吹き飛び、何かが飛来したかのようにクレーター状になっている。

 そしてその周辺には、飛来物の衝撃に巻き込まれたのであろう、街の住民たちの無惨な姿が無数に拡がっていた。


「リンカ、何処にいる!?返事をしてくれ!!リンカ!!」

「.......フィリス、さん?」

「誰っ.......ネイル!無事か!?」

「なんとか.......。でも、ディーシェがどこかに.......探しに行かないと.......」

「すまない、私も探してやりたいが、リンカが見つからないんだ.......どこかで見てないか!?」

「と、途中まで一緒でした.......だけど、変なのが上から降ってきて.......その衝撃で、皆バラバラに.......」

「わかった.......お前はディーシェを探してくれ。《中級治癒(ミドルヒール)》!.......すまない、私は回復魔法が苦手で.......これが最上なんだ」

「いえ、十分です.......!すみません、ディーシェと一緒に、リンカさんも探しますから!」

「私もディーシェを見つけたら、お前のところに連れて行く!頼んだぞ!!」


 ネイルと別れ、再びリンカの捜索にあたる。


「リンカ!頼む、返事をっ.......」


 そう叫んだ直後。

 私は、クレーターの近くで動く人影を見た。

 だが、土煙で正確には見えない。


「なんだ.......?」

「新たな魔族を発見.......これより排除する」


 そんな声が聞こえてきた。

 直後、土煙が晴れ、そいつの姿が明らかになった。

 人間だ。二十代半ばくらいの容姿の男。

 右手には剣を持ち、左手では何かを引きずっている。

 その『何か』を目を凝らして見た。


 刹那、私は自分でも驚くほどの怒りを抑えきれず、男に飛びかかった。


「貴様っ.......その手を離せえええええ!!!」

「むっ.......!?」


 首を狙った私の攻撃はギリギリで躱されたが、男は左手を離した。

 それが落ちる前に、私は手を出して、それを受け止めた。



「リンカ!!しっかりしろ.......リンカ!!」



 男が掴んでいたのは.......リンカだった。


 リンカを揺り動かすが、動く気配がない。

 何かされたのかと体を見て.......気づいてしまった。


 リンカの体に、穴が空いていることに。


「あ、ああ.......リンカ!リンカっ.......《中級治癒(ミドルヒール)》!!」


 魔力に糸目をつけず、強引に効果を引き上げる!

 これならっ.......!


「.......傷がふさがらない.......何故だ、何故!!リンカ、目を覚ませ!!」


「.............フィリス、ちゃん.......?」


「リンカ!もう少し持ちこたえてくれ、今から神官のところに.......!」

「フィリス、ちゃん.............ごめん、ね.......?」

「なんで謝るんだ、お前が謝ることなんて何も無い!頼む、少しだけ.......もう少しだけ、持ちこたえて.......」

「ごめんね.......ずっと、一緒にって.......言ったの、に.......」

「何を言ってる、お前はまだ助かる!!そんなことを言うな!!」


 くそ、なんで傷がふさがらないんだ!

 さっきからずっと、回復魔法をかけ続けているのに.......


「フィリス.......ちゃん.............だいすき.......」

「ああ、私もだ!だから助ける!!絶対に..........................リンカ?」


 .......どうした、なんで答えない。

 なんで、鼓動の音が聞こえない?なんで、息をしていない?なんで.......脈が無い?


「リンカ.......?おい、リンカ?わ、私をからかってるんだよな?そうだよな?.......いつものイタズラだろ?分かってるぞ。おいおい、これはさすがに笑えないぞ?今なら怒らないから、目を開けろ。.............リンカ、どうした?目を開けてくれ。...................リンカ?」


 その後、いくら揺さぶっても.......リンカは目を開けなかった。



 ※※※



「.......回復魔法など効かぬ。この『魔剣ディアス』は、あらゆる回復効果を阻害するチカラを持つ。それにその吸血鬼はもう死んでいる。いくら揺さぶろうとも無意味だ」

「リンカ.......リンカ.......どうしたんだ、リンカ.............何故だ.......何故.......」

「.......聞こえてもいないか。この程度で動揺するとは、所詮魔族か」


「だな安心しろ。この俺.......『勇者』ヴィランが、その吸血鬼に再び会わせてやる。.......地獄でな!」


『魔剣ディアス』.......おそらく神器が、振り下ろされた。


「.......なに?」


 だがその剣が、何かを斬ることは無かった。



 リンカを、私から奪った.............この男だけは.............命にかえても.......



「...................コロス」

「.......やってみろ」



 ※※※



「ぐあああああ!!!」


『勇者』とかいう、聞き覚えのない単語を喚き散らし、リンカを、殺した男。

 その男との戦いは.......私が圧倒していた。


「こ、こいつ.......なんて強さ.......!?」

「...................」


 正確には、最初の三分は、こいつの方が強かった。

『魔剣ディアス』という剣を巧みに操り、私に迫ってきた。

 だが、その劣勢は容易に覆った。

 答えは簡単.......日の入りによって、月の加護が発動したからだ。

 月の満ち欠けによって身体能力が増す吸血鬼族。しかも今宵は満月だった。

 本来、満月の夜の加護には個人差があり、大抵は基礎ステータスが十倍前後に跳ね上がる。


 それに対して、私の強化率は―――()()()()


 加護無しの状態ですら、善戦程度は出来ていた私の力が、二十五倍に引き伸ばされた。

 もはや、男に勝機は無い。


「ぐっ.......ここは撤退するしか.......」


 ニ ガ サ ナ イ 。


「...................コロス」

「!?いつの間に.............ぐあああああっ!?」


 脚部をへし折った。

 これで逃げられないはずだ。

 転移魔法を使う素振りを見せないから、使えないのだろう。


「くそっ.......せめて、一匹は道連れに.......ごぶぁっ!?」


 動けなくなった男を.......私は殴った。


「あぐぁっ.......げぶうぃっ!?.......も、もうやめ.......」

「...................」


 殴った。

 殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って。


 やがて正気に戻ると.......男は既に、原型を留めていなかった。


次は18時。

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― 新着の感想 ―
[一言] 心の準備はしていましたが,納得できませんでした
[一言] 勇者なのにヴィラン(悪役)とはこれいかに(笑
[良い点] ついにリンカが死んでしまった…(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`) この後の展開が気になる…18時楽しみにしてます!
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