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転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する  作者: 早海ヒロ
第五章 魔王誕生編
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【episodeZero】教会騎士団

 私とリンカがいつものように朝食をとっていると、扉が壊れるかと思うほどの勢いでノックされた。


「な、なんだ?誰だ?」

「フィリスさん、リンカさん、私です!ディーシェです!!」

「ディーシェちゃん?こんな遅くに.......あ、他種族は今くらいに起きるのか」

「そうだな。待て、今開ける」


 扉を破壊される前に開くと、焦った様子の栗色の髪の少女がいた。

 ディーシェは混在街に住む、十五歳の人間だ。

『メルクリウス聖神国』とかいう、人間の大国の属国の生まれだが、数年前に魔族に命を救われ、それ以来、魔族や亜人族を見下す女神ミザリーの教義に疑問を持ったが、それが親にバレて、なんと実の親に殺されそうになったらしい。

 それで、逃げて逃げて、途方に暮れている時、今度は亜人族に拾われて、この街に案内されたそうだ。

 だが、人間は目立った種族固有の能力が無い種族。結構ピンチに陥ることが多いため、数年前からよく私は助けてやっいて、それでかなり懐かれている。


「どうした、騒々しい。扉に穴が空くかと思ったぞ」

「すみません、緊急事態だったもので.......!大変なんです!ネイルがっ.......ネイルが、帰ってこないんです!」

「ネイルが?いつからだ」

「昨日の夜、夜にしか効果が出ない薬草を採取するって言って、家を出たきり.......朝起きても、どこにも居なくて.......」


 その薬草、フランと初めて会った時に私たちが採取してたやつか?.......いや、それはどうでもいいか。

 ネイルはディーシェの同居人で、獣人族の少女だ。

 ディーシェをこの街に案内したのもネイルで、二人は昔から仲がいい。


「リンカ、すまない。ちょっと行ってくる。お前は、出来れば街中を探してみてくれないか。実はもう戻っていて、買い物をしていたりするだけかもしれないからな」

「分かったよ。いってらっしゃい、フィリスちゃん」


 手を振って見送るリンカ。可愛いな。

 いやそうじゃない。


「さて、行くぞ。まずはその薬草のある場所に向かうか」

「は、はい!.......すみません、私一人じゃ不安で.......」

「気にするな、それよりも早く!」

「わかりました!」



 ※※※



「.......いないな」

「ネイル.......どこ行ったのぉ.......?」


 何処を探しても、ネイルは見つからなかった。

 いや、正確には匂いは残っているのだが、途中で途切れているのだ。

 これは.......


「.......まさか、誰かに連れ去られたか?」

「えっ.......?ネイルが!?」

「ああ。ありそうな話ではある。昨夜は無風だったから、意図的でないと、匂いを絶つことなど出来ないからな」

「そ、そんなあ.......!」

「慌てるな。ここに残っている匂いはかなり強い。遠くには行っていないはずだ」


 私は探知魔法を発動して、ネイルの居場所を探った。


「.......ダメだ、探知範囲内にはいない.......どうすれば.......」

「《付与(エンチャント)・効果範囲拡大》!」

「うおっ!?ディーシェ、お前付与魔法なんて使えたのか!?」

「はい!付与魔法、結界魔法、回復魔法は多少得意です!」

「ということはお前、もしかして『大神官』か.......?凄いな、その歳でこの域とは.......」


 ディーシェ.......こいつも『天才』の部類なのかもな。


「さて、探知.............いたぞ!」

「本当ですか!?」


 いた.......が、まずいな。かなり弱っている。

 しかも、周りに複数の反応がある。これは.......人間のものだ。


「どうやら、人間に連れ去られかけているようだ!」

「す、すぐに追わないと.......」

「ああ。この距離なら、私の速度なら三分で着く。ディーシェ、掴まれ」

「え?掴まれって.......こうですか?..........きゃあああっ!?」


 私はディーシェをおんぶして、一気に走った。

 暫くすると、ジャンプした下に、何人かの人間と、縄で縛られた猫の獣人が見えた。

 あれだ。


「.......止まってもらおうか」

「なんだ、貴様ら!」

「我々を、メルクリウス聖神国の教会騎士団と知っての狼藉か!?」


 聖神国だと?

 人間の中で頭角を現している、ミザリー教の総本山か。


「その真ん中にいる獣人は、この後ろの娘の連れだ。返してもらうぞ」

「ネイル!」

「ディーシェ!?それにフィリスさんまで.......」


 私の言葉に、教会騎士団とやらは憤怒の形相を作った。


「おい、後ろの貴様.......人間だな?人間に生まれながら、吸血鬼族などの力を借り、獣人族を助けようというのか?」

「種族とか、関係ない!ネイルは私の友達!返して!」

「.......この娘、邪神崇拝者だ!始末せよ!」

「「「はっ!」」」


 あ、私の言葉に怒ったのではなかったのか。

 吸血鬼族である私も許せないが、それ以上に、(吸血鬼)ネイル(獣人)と仲良くしているディーシェ(同族)が許せないんだな。

 本当に、人間とは、一部を除いて愚かな種族だ。


「まずはネイルを助けないとな。.......ほっ」

「え?.......へえっ!?」


 私の速度なら、この場の誰にも知覚されない速度で動いて、ネイルを助け出せる。

 だから、超スピードでネイルを助けて、ディーシェに寄越した。


「ほら。もう捕まるなよ」

「ああ.......ネイル、良かった.......!」

「ありがとうございます、フィリスさん.......ディーシェ、心配かけてごめん」


 一方、せっかく捕まえた獣人を奪われた人間は随分と放心した後、怒りの表情を見せた。


「貴様.......吸血鬼如きが!」

「八つ裂きにしてやる!!」

「.......騎士団のセリフでは無いな」


 少なくとも、私が見てきたエルフや竜人の騎士団は、この百倍は品があった。


「死ねええ!!」

「遅い」

「ぎゃばあっ!?」


 弱すぎたので、なんの手こずりもなく、私は五秒で全員倒した。



 ※※※



「本当にありがとうございました、フィリスさん。あのままではどうなっていたか.......」

「礼ならディーシェに言え。私に力を借りに来たのも、私の探知魔法を強化してくれたのもそいつだ」


 街に戻り、ディーシェとネイルを送った後、私は家に戻った。


「帰ったぞ、リンカ。すまない、遅くなった」

「おかえりぃ.......」

「.......おい、こんな所で寝るな」

「だぁってぇ.......フィリスちゃん、遅くて.......」


 まあ、現在は正午。レベル二十五、睡眠耐性も低いリンカには厳しい時間だな。


「悪かったな。ほら、ベッド行くぞ」

「やあん.......フィリスちゃん、積極的ぃ.......」

「そういう意味じゃない。アホなこと抜かしてないで、早く寝ろ。私を待っててくれたのは嬉しいが、ちゃんと体に気をつけろ」

「えへへぇ.......ありがとう、フィリスちゃん.......」


 もう半分寝てるな、こいつ。

 取り敢えずベッドに連れて行って、布団に入れると、すぐにスヤスヤと寝息を立て始めた。


「.......リンカ、寝たか?」

「.............」


 ぐっすりだな。


「.......好きだぞ、リンカ。お前がいてくれて良かった」


 いつもは恥ずかしくて言えない言葉だが、こいつが聞いてないこんな時なら、まあギリギリ言える。


「えへへぇ.......私もだよぉ.......」

「お前起きてるな!?おい、今のは忘れろ!」

「やだぁ、忘れなぁい」

「ああくそ、この腹黒娘め!」


 私がとりあえず布団を引き剥がそうと掛け布団に手をかけると、だがリンカは抵抗しなかった。

 .......今度はどうやら本当に寝たようだ。

 その寝顔を見ていると、なんだか恥ずかしさや怒りも萎んでくる。


「はあ、まったく.......」


 布団を直して、私もリンカの隣に潜り込んだ。

 まあ、まだあまり眠くはなかったが、リンカの傍にいれば、安心して眠くなるだろう。


「おやすみ、リンカ」

「.............」


 暫くして、私は眠りに落ちた。

 私の目の前で寝息を立てるリンカに癒され、こんな時が永遠に続いて欲しいと、そう願いながら。















 この、僅か三日後だった。

















 リンカが、死んだのは。

※しばらくぶりの鬱展開があります。

お気をつけて。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「この、僅か三日後だった。リンカが死んだのは。」 のところで、『リンカが死んだのは。』見た瞬間、本気でびっくりしました。人間って本当に驚いたら「えっ」ってなるもんなんですね…… 感覚を大…
[良い点] あぁ〜リンカァァ… 今の魔王様の近くにリンカがいないからこうなる事は薄々分かってたよ… でも、突然すぎる!! まさに不意打ち! そして、毎回思うけど 作者さんの話しの持って行き方がうます…
[良い点] わかってた……わかってたけどさぁ、リンカのこと好きになったのにこの仕打ちはあんまりだ……(((泣 女同士で子供産めないよ?そんなのわかってるよ?リンカと魔王の間に子供なんてできない。でもリ…
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