吸血鬼少女と絶望(後編)
ストックに余裕が出来てきたので、本日2話投稿です。
「くっ、殺せ.......!たとえこの身滅びようと.......」
「そういうのいいから。男のくっ殺とか誰得だよ。いいから私の質問に答えろ」
「ふんっ、誰が!」
「.......あっそう」
そうか答える気が無いか。じゃあ仕方ない。
「いいからさっさと殺.......なんだ、何をする気だ!?」
「何って、吸血だけど」
こんなおっさんの血なんて吸いたくもないけど、背に腹は変えられない。
「吸血鬼の特性知ってるよね?『吸血対象の眷属化』。吸血した相手を『吸血鬼モドキ』に変えて操る力。私より貴方が強ければ抵抗可能だけど、私の方が強いから無理。だから、私の眷属にしてからあんたをなんでも喋ってくれるお人形にするんだよ」
「ひっ.......!?ま、待ってくれ!」
「待つかボケ」
そうして、私は遠慮なく牙を―――
「待ってくれ!話す!なんでも話すから、頼むう!!」
「.......最初からそう言えよ」
どうやら素直になったらしいので、顔を離した。
「.......じゃあ、正直に答えてね」
Q.何故里を襲った?
A.魔族だから。ミザリー様が目の敵にしていて、しかも平和ボケをしている種族である吸血鬼は格好の標的だった。
Q.お母さん.......この遺体の人を殺したのは誰?
A.《聖十二使徒》序列第6位のノイン様。母国最高峰の魔術師。
Q.お父さん.......吸血鬼王は、どうなった?
A.死んだ。《聖十二使徒》序列第7位のイーディス様が殺した。
Q.......その遺体は何処にある?
「.......こ、ここにはもう、無い.......イーディス様が.......吸血鬼王の死体を晒して、吸血鬼の壊滅を宣言すると、持っていった.......」
「.............あ゛あ゛?」
「ひいっ!?」
お父さんを、晒すだと?
私を、お母さんを、最後まで護ってくれたあの人に、そんな屈辱を与えるだと!?
.......待て、落ち着け。冷静になれ私。
今こいつに当たっても、意味が無い。
最後に、もうひとつ聞いておかなければならないことがある。
「.......吸血鬼は、私の同族は、どれくらい生き残った?」
「...................っ」
「早く言えよ」
「.............い、いない.......」
「.......は?」
「もう、吸血鬼はいない.......全員、死んだ.............イーディス様が、逃げた者も、全て殺したと言っていた.......。し、強いていえば、ノイン様が1匹逃したとおっしゃっていたが.......それは、お前のことだろう.......?」
.......いない?私の仲間が、もう、誰も?
お父さんも、お母さんも、カナちゃんも、フレッド君も、リウス君も、他のみんなも、全員.......死んだ?
「も、もういいだろう!?約束通り逃がして.......げぼっ?」
いつの間にか力が籠っていたようで、私の足が男の腹を貫通していた。
「な、なんで.......」
その言葉を最後に男は力尽きたが、それすらもうどうでもいい。
私は、男の言葉を確かめるために、里へと走った。
間違いであって欲しい。間違いであってくれ。
そんな私の儚い希望も虚しく。
お父さんの遺体はどこにもなくて。
私の友達は、みんな、涙の跡を残して、事切れていた。
※※※
「.............カナ、ちゃん」
目の前にいるのは、いつも笑顔が可愛くて、私に元気をくれていた、大切な友達。
だけど、もう、その笑顔は面影もなく、絶望したような顔をして、ピクリとも動かなかった。
「フレッド君.......リウス君.......」
いたずら好きで、よく私とカナちゃんにちょっかいをかけてきた.......でも、根はすごく優しい、双子君達。
だけど、2人は、お互いを庇うように、折り重なって、死んでいた。
「.......なんで」
「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」
なんで。私達が、平和に過ごしてきただけの私達が、『魔族』だという、それだけの理由で。
.......全てを、奪われなきゃならないんだ。
「ん?.......おい、そこに誰か.......っておい、生き残りじゃねーか」
私の耳に聞こえてきたのは、さっきの連中とは違う、だが同類の騎士の声。
「なんだ、オトモダチの死に顔でも拝みに.......ああっ、そういや吸血鬼って血が大好きなんだよな?オトモダチの血を見て、興奮してんのか!?ひゃははは.............は?」
私は半ば無意識に、男の心臓を貫いていた。
男は、その後一言も発することなく、その場に倒れた。
なんだろう、この感覚。
人を殺した。それなのに、微塵も罪悪感を感じない。
それどころか、むしろ.......心地良い?達成感?
例えば、前世で、目の前を飛ぶ虫を潰せた時のような.......
この時。
ブツン、と。
私の『何か』が、切れた音を聞いた。
「.......あはっ」
.......自然に笑い声が出た。
これを笑わずに、何を笑えばいいのか。
こんな簡単なことに気づかなかったなんて。
「あははははははははははは!あはははははははははははははははははは!あははははははははははは!.......ああ、そっかあ」
「.......人間なんているから、私の人生は狂ったんだ」
「人間なんて、害虫と同じなんだ」
「人間は、この世界にとって、不要なんだ」
「人間は、私にとって、私の幸せを邪魔する『害悪』だ」
「『悪』は.......滅ぼさないと、いけないよね♡」
自分を正義だなんて、そんなラノベ主人公みたいなことさらさら言うつもりはないよ?
けどさあ、前世といい、今世といい、本当に人間って、クズみたいな存在じゃない?
面白半分で私をいじめて、ゲラゲラ笑っていた連中と、それを知りながらも誰も助けてくれなかった前世の人間。
私の小さな幸せすら、自分達を正義だと信じ込んで、一方でに奪っていき、私を絶望のドン底へと追いやった今世の人間。
あはは、おっかしい。前世も今世も、人間なんて、なーんにも違わないじゃん。
でも、『私は』前世と今世では違う。
かつての世界と違って、今の私には、勇者を超える才能がある。
なら、強くなろうじゃないか。
強くなって、なってなってなって。いつか、人間を、滅ぼし尽くそう。
皆殺しにしてやる。お父さんの、お母さんの、里のみんなの仇共。
絶対に、一匹残らず、絶滅させてやる。
※※※
《一定条件を満たしました。特殊職業『復讐者』が解放されました。》
※※※
私の前世は、『平和』などという言葉とはとても無縁だった。
酷いいじめを受け、両親は私に干渉してこなくて、最後には神の勝手な事情のついでに死んだ。
故に。だからこそ。『今世』では。平和で、楽しくて、静かに、幸せに暮らしたい。そう思っていた。
だけど、この世界は.......いや、この世界『も』、私のこんな、ささやかな願いすら、叶えてくれる気がないらしい。
なら、もういい。平和なんて望まない。
私の生涯をかけてでも、私の人生を、私の命だけ残して全て奪い去った奴らを。
―――皆殺しにしてやる。
絶対に、最後の1匹に至るまで、殺し尽くしてやるからな。
人間共。