【episodeZero】告白
竜人族の街に戻り、「我が国でとんでもないことになってしまった」と竜皇から謝罪を受けた後。
私とリンカ、フラン、フルーレティアは、明日には別れるということもあって、しばらく話し込んでいた。
「いやいや、一時はどうなるかと思ったよー!まあ、リンカも助けられたし、誘拐犯はフィリスが殺ったし、終わりよければ.......なんだっけ」
「『すべてよし』だアホ」
「そうそれ!」
.......なんでこんなアホが『大賢者』なんだ。
まあ、こいつがいなければリンカを助けられなかったし.......よしとするか。
なんだかんだ、憎めないやつだしな。
「ところでフルーレティア、お前は仕事は良いのか?」
「りゅうおうさまに、きょうはやすんでよいといわれました」
「そうか。お前にも随分と助けられたな、ありがとう」
「い、いえ.......」
お、照れてる照れてる。
こいつは、私があの誘拐犯共を潰している間、リンカを結界で守っていてくれたからな。小さいのに出来たやつだ。
「みんな、本当にありがとう。私がポンコツだったせいで、迷惑かけちゃってごめんね」
「何を言ってる、リンカは悪くない。悪いのはあの人間共だ」
「そーだよ!リンカが謝る事じゃないって!」
思えば、同年代のリンカ以外の女子とこんなに話したのは初めてだ。
まあ、フルーレティアは幼女だし、フランも若干年下だが、長命種にとってこの程度は誤差だ。
人間や獣人のような短命種で言うところの、『誕生日が数ヶ月違う』程度の感覚だな。
結局、関係ないところで話が盛り上がったりして、私たちは夜明けまでずっと話していた。
まあ、途中でフルーレティアはダウンしたが。
※※※
街の正門前で、私たちは竜人族の連中に見送られていた。
まあ、囮だったとはいえ、竜人の子供を救ったことには変わりないからな。感謝くらいされるだろう。
「みなさん、おせわになりました。しゅぞくをだいひょうして、おれいをいいます」
「硬っ苦しいこと言うな、フルーレティア。また来るぞ」
「.......はい」
元気が無いな。随分と私たちに懐いてくれたものだ。
ふむ、こういう時は、何か渡しておいてやるのが良いのかもしれない。『これを私だと思って』的な感じで。
だが、なにかやるものなどあったか?
そう思い、ポケットを探ると、
「.......ん?」
中からペンダントが出てきた。
これは.......昨日、あの誘拐犯野郎から徴収した『天眼アルス』か。
あの男が使っていたとはいえ、道具に罪は無い。便利そうだから使おうと思っていたが.......まあ、良いか。
「おい、フルーレティア。これをやるから元気出せ」
「え?.......いただけるのですか?」
「ああ、お前にやる。大事にしろよ」
「.......あ、ありがとうございます!」
「肌身離さず身につけておくんだぞ。何せ『神器』だからな」
「じんぎ.......?よくわからないけど、たいせつにします」
うんうん、素直な可愛いやつだ。
後ろの竜人族が、『神器』と聞いてポカンとしてるが、気にしないでおこう。
「では、またおまちしております。フィリスさん、リンカさん、フランさん」
「うん、またねー!」
「絶対!また来るからー!」
「ああ、体に気をつけてな」
そうして、私は竜人族の里を後にした。
「さてさて.......んで、フィリスにリンカ。二人はこの後どーすんの?」
「なんかねー、色んな種族が一緒に住んでるって凄い街があるって聞いたんだ!そこに行こうって、フィリスちゃんと話してたの!」
「ああ。.......フラン、なんならこのまま一緒に来るか?」
フランはエルフの王族、だがこいつはそれに全く拘っていないように見える。
だからこそ、このまま一緒に来るというのもありだと思ったのだが、
「んー.......行きたいけど、あたしはやめとくよ」
フランは苦笑しながら言った。
「むぅ.......残念だ。お前にも一応、王族としての義務を果たそうという気持ちがあったのだな」
「え、そんなのないけど」
ないのかよ。
そこは嘘でもあると言えよ。
「だって、エルフ王の座はティアナにあげる予定だし。でもさ、それまでにティアナがちゃんと成長してくれるか心配じゃん?パパがエルフ王のままだと、あたしがこのまま行っても無理やり連れ戻されるかもしれないし。だったら、ティアナが王様になってから事情を説明して、ゆっくり旅した方が楽しそうじゃん!」
.......一応、こいつも考えて生きてるんだな。
「分かった。じゃあまあ、ティアナが王になったという話を聞いたら、迎えに来てやるか」
「そうだね。フランちゃんともここでお別れかあ.......寂しいなあ.......」
「あははは、きんじょうのわかれじゃないんだから!」
「今生の別れな」
「そうそれ!」
.......こうして、私たちとしばらく一緒に旅をしていたフランは、ここでエルフの村に戻り。
私たちの旅は、再び二人きりになった。
※※※
「最近は昼夜逆転の生活だったせいか、夜に眠くなるな」
「そうだねえ、これじゃ普通の種族みたいだね」
フルーレティア、フランと別れたその日の夜、私たちは焚き火で暖をとっていた。
最近は、フランと時間を合わせることが多かったからな。朝起きて夜に寝るという、吸血鬼の里では、見張り役以外には考えられない生活をしていた。
「でも、案外このままで良いのかもよ?夜に起きて朝に寝る種族って、吸血鬼族と悪魔族くらいだし」
「.......まあ、旅をする分には良いのかもな」
最近はレベルも上がってきて、睡眠に対する耐性も付き始めたから、私としては別に数日くらい寝ずに行動しても良いのだが。
「リンカ。昨日は本当にすまなかった」
「もう.......またそれ?フィリスちゃんが謝ることじゃないって」
「いや、謝らせてくれ。私は里を出る時、リンカを守ると誓ったのに、この体たらくだ。怖い思いをさせてしまった。ごめん」
「っ.......いいの、フィリスちゃんが助けに来てくれたんだから、それで.......」
「だから」
「私は、一生リンカを守る。二度と怖い思いなんてさせない。ずっと一緒にいる。絶対にもう離れない。.......約束するから」
「――――っ!そ、それって.......その.......」
「?リンカ、どうした?顔が真っ赤だぞ。暑いのか?焚き火、消すか?」
「え?.......あ、うん。お願い.......」
ふむ、火力が強すぎたか。
私は焚き火の火を消し、辺りは真っ暗になった。
まあ、吸血鬼にとって暗闇など昼間と同じだが。
「すまない、配慮が足りなかったな。こういう所も気をつけないとな」
「で、その、あの、フィリス、ちゃん.......さっきのは、その.......こ、告.......」
「ん?私はちゃんと、リンカを守るぞ。まあ、リンカが結婚とかをしたら、私は離れなければならないかもしれないがな!」
「.........................え?」
私は、天才では無いのかもしれないが、まあ空気は読めるのだ。
リンカにだって、良い人が見つかるかもしれない。そんな時は、そいつにリンカを任せ、そっと離れるべきだ。
まあ、相手のやつは、最低でも私より強くて頭も良い、パーフェクトなやつでないと私は認めないがな!
「世界は広い。お前は器量も顔も性格も良いから、きっと素晴らしい相手が.......」
「.........................ない」
「ん?」
今、なにか.......
「もうっ、我慢出来ない!!なんで!?なんでそうなるの!?さっきの、完全に私に対する告白とかプロポーズの類じゃん!!それなのに、なんで私がどっかのお嫁さんになる話になったの!?」
.......うえっ!?
なんか、リンカがキレた!?
わ、私がなにか.......
「そもそも、里でもあんっなにアピールして!!旅にまでついてきて!!そこでもフィリスちゃんが私を離さないように色々頑張って、レベル低いなりに努力して!!一生懸命にフィリスちゃんが私に惚れるように努力して、漸くそれが実ったのかと思ったのにっ.......なんて紛らわしいこと言うのかな!?バカなの!?フィリスちゃんは自分のこと天才って言ってるけど、フィリスちゃんってやっぱりバカなの!?なんで私の気持ちに気づかないの!?ただの幼なじみってだけで、楽しそうってだけで、危ない旅になんかついてくるわけないじゃん!!このおバカ!!」
な、なんだ?
なんでこんなに怒ってるんだ、リンカは?
それに、よく分からないことも結構言ったぞ。
私を惚れさせるとか、努力が実ったと思ったとか、バカとかバカとかバカとか.............
呆然としている私にリンカは詰め寄り、私の肩を掴んで、そのまま体重をかけてきた。
ステータス的には私はリンカより遥かに上のはずなのに、何故か私は力が抜けて、そのまま倒れ込んでしまった。
今の状態は、私がリンカに押し倒されている状態だ。
「お、落ち着けリンカ!私がなにかしてしまったか!?あ、謝る!私がなにか誤解させたのもバカなのも謝るから、ちょっとまずは.......」
「ちがう!!なんで気づかないの!?ここまで私がカミングアウトしてるのに、こんなに顔真っ赤にしてるのに、なんで私の気持ちが分からないの!?」
そ、そんなことを言われても!
待て、冷静になれ!何故リンカは怒った!?
リンカの様子が変わったのは、えっと、あの、どこでだったか.......
思い出せ、そしてちゃんと謝って.......
「私はっ.......フィリスちゃんの事が好きなんだってば!!」
.......へあ?




