【episodeZero】依頼
「.......此度は、この馬鹿娘が本当に失礼した」
「い、いえ!それに乗っかっちゃったのは私たちですし」
「まあ、リンカもこう言ってるし、今日のところは水に流すということに.......痛いっ!?」
「お前は少しは反省しろ、この馬鹿!!」
エルフ王の鉄拳がフランの脳天に突き刺さった。
「お前は本当にっ.......何故だ、何故お前は城を飛び出す度に、それ以上の問題を起こしてくるのだ!今回の件は、下手をすれば種族間の問題になる所だったのだぞ!?」
数が少ない吸血鬼族がエルフに与えられる被害なんてたかが知れてるし、そもそも牢に入れられたと知られても、私が何かやらかしたと思われるだけだろうがな。面倒なことになりそうだから言わないが。
「お前はもう少し、落ち着きを持て!その暴走列車のような脳はどうにかならないのか!!ティアナを見習え!!」
「だってだって、年がら年中城に篭もりっぱなしなんて、嫌すぎるよ!!パパみたいなインドアと違って、私はもっと外に出て遊びたいの!!それに、私はティアナよりも魔法出来るし!!ティアナの年頃の時はもうハイエルフに進化してたし!!」
「.......なんだか、自然に姉様にディスられました」
「魔法の出来を言っているのではない!!ああ、お前は天才だ!!魔法に関しては、この里随一だと認めてやる!!だが、何故一々問題を起こす!?頭のおかしい天才ほど厄介な者はいないと理解しろ、この馬鹿娘!!」
その後も暫く、親子喧嘩が続いた。
私とリンカは取り残され、次女のティアナに関しては我関せずとでも言いたげに茶を啜っている。
.......だが、なんだ?なんだかこの光景、既視感があるぞ。
昔もこんな光景を見たことがあるような気がする。
ふむ、なんだったか?.......いや、天才な私が思い出せないということは、勘違いなのだろうか。デジャヴというやつなのかもしれないな。
「ねえ、フィリスちゃん」
「ん?」
「なんか、エルフ王さんとフランちゃんの喧嘩見てて思ったんだけどさ」
「なんだ?」
「フランちゃんって、フィリスちゃんに似てるよね」
「っ!?!?」
※※※
「.......みっともない所を見せてしまったな」
「.......いや、大丈夫だ.......」
フランとの喧嘩で体力を使い切ったエルフ王に、リンカの心無い言葉で傷ついた私。
室内はなんだか妙な空気で充ちていた。
ちなみにそのフランは、限界を迎えた父親に精神魔法で気絶させられた。
「ゴホン!.......それで、今日、わざわざ来てもらったのには理由があってな。フランから聞いたのだが、君たちは吸血鬼族の里を出て、二人で旅をしているとか」
「あ、はい。そうです」
「そんな二人に、実は一つ、依頼があってな」
「依頼だと?」
「ああ、依頼だ。届け物なのだが.......勿論、こちらから報酬は前払いで出そう。先方からも礼はあるだろうから、そちらも半分は君たちが持って行ってくれて構わない」
「.......条件は悪くないが、届けるものにもよるな。これで、『王族に伝わる秘宝』とかの届け物だったら即刻断らせてもらうぞ」
「安心してくれ、届け物というのは、こちらで育てている新鮮な果実や野菜だ。先方の奥方が病に伏せってしまったそうでな。その看病の為に、栄養豊富なこちらの物を欲しているそうだ」
なるほど。
それならば別に良いだろう。
リンカの方を見ると、彼女も頷いた。決まりだな。
「ちなみに、先方というのは何処なのだ?」
「竜人族の街だ」
竜人族か。
遅かれ早かれ、会いに行く予定だった種族の街。断る理由はない。
「分かりました、お引き受け致します」
「助かる。.......本当に良いのだな?」
「え?はい、良いです」
「二言は無いな?吸血鬼族の誇りにかけて、引き受けると誓えるな?」
「えっ.......は、はい.......」
前言撤回、なんだか嫌な予感がするから断った方が良い気がする。
そしてその予感は、
「そうかそうか、引き受けてくれるか!すまないな!ああ、これが納品物が置いてある倉庫の地図だ。収納系のマジックアイテムも置いてあるから、それも持って行ってくれて構わないぞ」
「は、はい.......」
「ああ、それとな。君たちは吸血鬼族だ、エルフ族に頼んだのに吸血鬼族が運んで来た、と聞けば、竜人族も警戒するだろう。だから、一人、エルフ族を同行させたいのだが」
「え、あ、そうですね。お願いします」
「ふーむ!しかし、エルフ族は皆仕事がある!ああ困った!!手の空いてる者はいない.......おおっと!?こんなところに、日頃食っちゃ寝して問題ばかり引き起こす穀潰しだが、一応エルフ族の一員が!?」
「え、あ、は、はい。.......へ?」
「おお、フラン!とうとうお前が人様の役に立つ時が来たな!!さあ行け、いざ竜人族の里へ!!」
見事に的中した。
※※※
「まったく!パパも酷いよね!実の娘に魔法かけるなんてさ!!」
「あ、あははは.......」
「九割以上自業自得だろ」
なんてことだ。
現在、私とリンカは、エルフ族の村を出て、竜人族の街へと向かっている。
.......フランを連れて。
聞いた話によると、元々竜人族の街にフランを連れていくというのは計画されていたらしい。
旅を通して、少しでもフランが落ち着きを取り戻せば良し、それが無理でも良い人生経験にはなるだろうと。
エルフ王の誤算は、『今回の件にフランがもれなく付いてくる』と、何処からか情報が漏れたことだ。
そのせいで、莫大な報酬を約束しても、誰も依頼に寄り付かなかったらしい。
どんだけ厄介がられてるんだ、この娘は。
「.......やっぱり、フランちゃんとフィリスちゃんって似てるよね」
「やめろ!いくら私でも、ここまで酷くはないわ!!」
いや.......まあ、この娘も、なんだかんだで愛されてはいるようだ。
王族なのに、平民に分け隔てなく接するその姿勢、自由奔放である意味純粋な雰囲気。エルフ王は頭を抱えているが、普通のエルフからしてみればこいつは結構可愛いやつらしい。
ただ、その天性の問題発生能力が、自分自身に向けられるのを許容出来るかと言われれば、それはまた別の話だろう。
「まあ、この道中だけだけどさ!二人共よろしく!」
「うん、よろしくね!」
.......もう一つの問題は、リンカがこいつを気に入ってることなんだよなあ。
昨日一日で、こいつの問題起こしの恐ろしさは分かっている。何しろ、牢屋にぶち込まれるという、普通は一生縁のない経験をする羽目になったんだからな。
正直、この道中でどんなとんでもない目に遭遇してもおかしくない。
だが、リンカがこいつと親しいならば、こっそりこいつをエルフの所に返品して、別のエルフを連れてきたりするわけにもいかなくなる。
「.......不安だ」
「ん?何か言った?フィリスちゃん」
「.......いや、なんでもない」
リンカ.......お前は本当にポワポワし過ぎだな.......。
なんだか最近、お前のおかげで若干性格が矯正された気がするぞ。苦労人気質に。
いや、旅路での細事をやってくれるのはとてもありがたいし、最早お前がいないと私は死ぬレベルで依存してる立場から言えることでは無いのだが。
「.......とにかくフラン、頼むから大人しくしていてくれよ?問題を起こすなよ?」
「アッハッハッハ、変な事言うねフィリス!あたしは常に大人しいじゃん!!」
「どの口が言うか!!」
かなりの不安を抱えたまま、私達の竜人族の街への旅はスタートした。
ロリティアナ、まだ胸にメロンは生えてません。