【episodeZero】捕縛
「私はフラン!ハイエルフのフラン・フォレスター!仲良くしよーね!」
...................なんだと?
「フランちゃんかー!良い名前だね!」
「そう?名前を気にしたことないなー」
いや待て待て、こいつ今なんて言った?
ハイエルフ?フラン・『フォレスター』?
「.......なあ、お前まさか、エルフの王族か?」
「ええっ!?王族!?」
「へ?よく知ってるね.......まさか、パパに雇われて私を連れ戻しに来た間者!?」
「違うわ」
「え、えーっと、ごめんなさい!わ、私のような一般市民が.......」
「リンカ、忘れてるかもしれないが、お前は吸血鬼王の娘だから一応王族だ、立場は対等だぞ」
「え?.......あ、そっかあ。じゃあ大丈夫だね」
リンカ.......色々と知識や経験は身につけたが、このぽわぽわした感じは治らないな。将来が心配になるぞ.......いやそれはともかく。
エルフ族の上位種族、ハイエルフ。進化条件は、始まりのエルフ王の血を引いていることと、魔力ステータスが一定値を超えていること、ある程度高位の魔法を使えること。
つまり、エルフの王族以外はハイエルフにはなれない。
加えて、『フォレスター』はエルフ王族の苗字だ。
しかもこいつ、今「連れ戻しに来たのか」とかいいやがった。
「お前、もしかしなくても親から逃げてきたんだろ」
「!?なななななんのことかなーーー!?全然分からないなー、フィリカは何言ってるのかなー!?」
「フィリスだフィリス」
エルフ族は吸血鬼族と異なり、魔族の中でもかなり人口が多く、ちゃんと『王』が機能している種族だ。吸血鬼王が一介の『族長』扱いの吸血鬼の里とは違う。
こいつの親が王なのかその兄弟なのかは知らないが、とにかく王族の娘がいなくなったとなれば、今頃エルフの上の方は阿鼻叫喚だろう。
「まったく.......親を心配させちゃダメだろ」
「それ、里で好き放題やっておじさんとおばさんの胃にダメージ与えてたフィリスちゃんが言う?」
「どんな事情かは知らんが、相手が間違っているという確信がない限り、目上の者の言うことは聞くものだ」
「それ、里で私以外の誰の言うことも聞かなかったフィリスちゃんが言う?」
うるさいぞリンカ!
「うう.......だ、だってさー、聞いてよ!あたしのパパとママったら、いつもいつも、勉強しろってうるさいんだよ!『お前は魔法と運動神経以外の何もかもが欠けているから、せめて一般常識や教養は身につけてくれ』とか、意味わかんないこと言うんだよ!?」
こいつの両親の苦労が伺えるな。
「勉強なんて、いちいちこのエルフ一の天才がやる事じゃないっての!エルフなんて、魔法使えりゃ大体生きていけるもんだよ、多分」
「行き当たりばったりにも限度があるだろ」
大丈夫かエルフ。これが王族とか。
「だから、隙をついて家庭教師とか護衛とか全員眠らせて、樹城を飛び出してきちゃった。あ、樹城っていうのは、エルフの王族が住む、お城に改造したでっかい木ね」
「だ、大丈夫なの?その、お父さんとお母さんが、心配とか.......」
「へーきへーき、心配とかしてないって。前も似たようなことした時、『娘にこういうことを言うのもなんだが、お前は殺しても死ななそうだな』って言われたもん」
「そ、それは良い事なの.......?」
私ですら言われたことないぞ、そんなこと。
「そんなことよりさ!お酒!お酒飲みに行こうよ!ほら早く早く!!」
「いや、この金は私たちが稼いだものなのだが」
「あたしだって手助けしたじゃん!だから共有すべきっしょ!!さ、美味しいお店知ってるんだ!」
「ええ.......フィリスちゃん、どうしよう.......?」
「.......まあ、良いんじゃないか?丁度食事時でもある事だし」
あの美味い酒をもう一度飲みたいから賛成した訳では無い。
そう、断じて。
「ううっ.......頭痛い.......」
目が覚めると、何処か固い床に寝ていた。
重い頭を持ち上げて辺りを見渡すと、目の前に立派な格子と、リンカが近くで寝ているのが見えた。
近くにはそれ以外はトイレくらいしかなく、外に出ようとすると、目の前の格子が私の行く手の邪魔をする。
ふむ、結論を言おう。
「.......なんじゃこりゃああああ!!」
私達は、気がつくと牢屋の中にいた。
※※※
「.......な、なんで私は牢屋の中にいるんだ?」
昨日の記憶を思い出せ。
昨日は、フランに連れられてリンカと三人で酒場に飲みに行って.......その後が思い出せない。
この私が?天才的頭脳と能力を有する、超天才な私が、物事を思い出せないだと?
「むにゃ.......フィリスちゃん.......」
ん?リンカも起きたか?
「んにゃあ.......フィリスちゃん、ダメだよお.......私、女の子だよお.......あ、でもやっぱりぃ.......」
「.......なんの夢を見てるんだこいつは」
寝言か。
しかし、本当になんで私たちはこんな所にいるんだ。
それを考えていると、
「.......目が覚めたか」
こちらに一人のエルフが歩いてきた。
どうやら看守.......のようだな。
「.......昨晩のことを覚えているか?」
「いや、悪いがまったく覚えてない。フランというエルフ族と、ここにいるリンカと一緒に酒場に入ったところまでの記憶しか無い」
「まあ、そんな気はしていた.......泥酔していたからな.......」
.......やはり、酒の席で何かやらかしたのか?
「ちょっと待ってくれ、精神魔法で自分の記憶を見るからな」
そして、私は私自身の記憶の中に没入した。
※※※
〜深夜二時頃〜
「ここだよ!」
「.......昨日、私が飲んでたところじゃないか」
「うーん、私、お酒って苦手なんだけど.......」
「え?大丈夫大丈夫!エルフ族のお酒は、ドワーフ族のお酒よりも飲みやすいから!!さっ、入ろ入ろ!」
「.......まあ、いざとなればジュースでも飲め、リンカ」
「うん、そうするね」
ふむ.......この辺りで記憶が途切れているな。
〜深夜三時頃〜
「なにこれ、すっごく美味しい!料理もお酒もドンドン進んじゃう!!」
「でしょでしょ!?ここのお店最っ高なんだから!あ、おじさん、お酒もっと持ってきて!あと、ここにあたしがいるのは内緒ね!!」
「はいよ、フラン様!」
「お、おいリンカ.......そんなに飲んで大丈夫か?」
「だいじょーぶだいじょーぶ!ほら、フィリスちゃんも飲んで飲んでー!!」
「ちょっ.......ふぐ!?」
.......リンカ?
〜明朝四時頃〜
「わははははは、わははははは!!フラン、お前はなかなか話がわかるやつだな!!そうだ、私は天才なんだ!!だから、アルコールなんて無効化してしまうんだー!わははははははは!私は酔ってないぞー!!」
「あははははは、酔ってる酔ってるー!!うええええい!!あはははははは!!あはははははは!!」
「いやっほーーー!フィリスちゃんが三人に見えるー!遂に分身を習得したんだねー!!流石フィリスちゃーーん!!」
.............。
〜明朝五時頃〜
「くそっ、どこにも.......あああ!?いたぞ、フラン様だ!!こんな所で飲んだくれてやがった!とっ捕まえろ!!」
.......こいつらは、樹城の兵士.......フランの捜索隊か。
「あはははは!あはははは!!ちょっとお、なにすんのー!?あはははは!!あははははは!!」
フラン、笑い上戸か。
「よし、連れて行けっ.......」
「ちょおおおっとおおお、らあんでふらんちゃんを連れていくのよォ〜!もっとあたしと飲むのぉ〜!」
「うおっ!?なんだこの酔っ払いはっ.......き、吸血鬼族?」
リンカ!?
「す、すまないが、このお方はエルフ族の大事な姫君なのだ。お詫びにここの代金は我々が持つから.......」
「そんなのかんけえなあああい!もっと飲みたいのぉ〜!おいてけぇ〜おいてけぇ〜」
リンカ、お前.......酒乱だったのか。
「ぐっ、ちょっ.......は、離してくれっ.......ええい、離せ!」
「あっそぉ〜!そっちがぁそんなたいどなら、こっちだって考えあるんらからねぇ〜!」
考え?
「ふぃりすちゃあん、やっておしまあい!」
.......はあ?
「クククク、良いだろう!わはははは、この超天才な私が、囚われの姫君を救ってやろうじゃあないか!わーっはっはっはっは!!」
私は何を言ってるんだ?
囚われる原因作ったのはその姫だろ。
「おい、この酔っ払い吸血鬼達を誰か抑えてっ.......へぶっ!?」
ぎゃああああ、私のローキックが炸裂!
「ふははははは、かかってこいやあああああ!!」
「いっけー!ふぃりすちゃあああん!!」
「おい、こいつやたら強いっ.......ぎゃああああ!!」
※※※
回想終了。
「.............」
「...................」
「.......あの、マジですいませんでした」
私が人に素直に謝ったのなんて何年ぶりだろうか。