吸血妃と死力
投稿時間設定忘れてましたマジごめんなさい(土下座)
今回はお母さん視点です。
「《獄雷》!」
「《結界付与・雷耐性》!」
「《天炎!》」
「《炎防御壁》!」
呼吸する時間すら億劫になる程の猛攻を、私は100年の人生で培ってきた経験と魔法で防ぎきった。
最愛の娘、リーンは逃がした。あの子の速度なら、多分もう、この男の魔力感知外に出ているはず。
.......だから、あわよくば私も逃げられるか、とか思っていたんだけど.......無理みたい。
この男、強すぎる。一応これでも、吸血鬼族の最強の盾とか呼ばれてたんだけど、自信なくすわね。
今はギリギリ拮抗してるけど、いつ多重に張った結界が破壊されてもおかしくない。
「ううっ.......可哀想に.......!これ程の才を持ちながら吸血鬼に生まれ、あまつさえミザリー様以外への信仰心でこの力を出しているなど!」
「.......うるさいわよ、狂信者」
吐き捨てるように言ってやった私は、お返しとばかりに神官系職業の数少ない攻撃魔法である《聖光弾》を放ったが、あっさりと別の魔法で防がれた。
「これほどの魔法、先程見せた付与術..............ううっ、貴方は、神官の上級職、『大神官』なのですね!嗚呼、それ程の才を持ちながら、何故ミザリー様を信仰なさらなかった.......!」
『大神官』は、神官、付与術師、結界師を極めた者にのみ開放される上級職。
全職業中、最高クラスの後方支援能力を持ち、防御や浄化、味方の強化に特化した力を与えられる。
「ううっ.......しかし、解せぬ.......。いかに彼女が大神官といえど、私の魔法をここまで防げるとは.......」
「.......さあ、何故でしょうね」
.......答えは、簡単だ。
この森に差し掛かる直前.......私の頭に、直接響いてきた声。
《一定条件を満たしました。『吸血鬼王』への種族進化を果たしました。》
この言葉の意味。
吸血鬼王は、2人同時に現れることは無い。
そして、『進化』である以上、途中で退化することも出来ない。
つまり。
レイザーが、私の夫が、死んだ。
だから『吸血鬼王』の力が私に移り、今までにない力を発揮出来ている。
そして、その力のほぼ全てを、『防御』と『回避』に回しているからこそ、ここまで耐えられたのだ。
だけど、それももうすぐ限界。
1時間以上、あいつの魔法を防ぎ続けた私の魔力は、既に底を尽きかけてた。
『吸血鬼王』の力でブーストされた魔力すら遥かに上回る魔法出力と魔力量.......こいつ、本当に何者?
最初にこの男は、《聖十二使徒》と名乗った。多分だけど、人間の中でも精鋭クラスの相手。
多分、魔術師系職業の上級職、《高位魔術師》。しかも、炎、雷属性主体の超攻撃タイプ。
本来なら私と相性がいい相手なはずなのだけれど、実力差のせいでむしろ仇になってる。
そしてついに。
私の結界を、男の魔法が、貫いた。
「ぐっ.......!?」
「ううっ.......!終わり、終わりですね!嗚呼、貴方のような美しき女性を屠らなければならないなど、なんと世界は残酷な.......!」
ああ、それには同意。
本当に、世界は残酷だ。
なんで、私達が.......吸血鬼だという理由だけで、こんな目に遭わなければならないのか。
人間とは、女神ミザリーとは、そんなに偉いのか。そんなに正しいのか。
(.......そちらに行ったら、教えて下さいね、イスズ様)
心残りは山ほどある。
一番は勿論、最愛の娘であるリーンの成長を、これ以上見守ることが出来ない事だ。
あの子には、かつて天才と持て囃された私すら、軽く上回るほどの才能があった。
あの子がどう育つのか.......楽しみだったんだけどな。
「ううっ.......!どうか貴方が、来世は人間に産まれることが出来ますよう.......!」
ふざけるな。お前達と同じなんか、真っ平御免だ。
「《聖十二使徒》序列第6位、『魔哭』のノインが.......貴方に引導をお渡し致しましょう!」
そう名乗った男は、次の瞬間には魔法を発動していた。
放たれたのは《爆炎》。複数属性を複合した、全魔法の中でも上位の破壊力を持つ魔法。
満身創痍の私に、もはや防ぐ手立てはなかった。
リーン。私の可愛い娘。
貴方だけは、絶対に生き延びて。
辛いと思う。悲しいと思う。今、泣いていると思う。
だけど、生きて。
きっと貴方は、大きなことを成し遂げる力がある。
絶対に挫けず、何があっても折れないで。
私は、いつでも見守っているから。
そして私の視界を、赤い閃光が覆い尽くした。
※※※
「ノイン殿。随分と時間がかかっていたが、どうかしたのか?」
「おお、イーディス殿.......!ううっ、とても悲しいことがあったのですよ!」
「.......貴方はいつもなにかに悲しんでおられるだろう。それで、どうしたのだ」
「それがですね!吸血鬼の中に、非常に才のある、優秀な大神官がいたのですが......それを、私の手で屠ってしまったのです!嗚呼、悲しい.......」
「それが我々の今回の任務だろう。まあ、任務は完了だ、吸血鬼共はこれで根絶やしだ。本国へ戻って.......」
「.......それなのですがね.......どうやら、我々は任務に失敗したようで.......ううう.......」
「なんだと?どういうことだ、説明してもらいたい」
「実は.......先程話した大神官の、娘らしき幼女を、森の奥の方へ逃がしてしまい.......!母親の魔法で転移も出来ぬ状態で、追うに追えず.......ううううっ、申し訳ない.......」
「なんだと?.......まあ、1匹だけでは生殖出来ぬし、幼いならば餓死なり獣に食われるなりして死ぬだろう。問題は無い」
「おお、そう言っていただけると有難い.......!」
※※※
《一定条件を満たしました。『吸血鬼王』への種族進化を果たしました。》
今から、あの二人をぶっ殺すのが楽しみです。