元勇者と復讐3
「ぜ、前夜祭.......?な、何を、何をするつもりだ?」
震えながら聞いてくる父親に対し、ボクは興奮と喜色を抑えられず、とびきりの笑顔で、
「やだなあ、分かってるくせに!.......この村の人間達を、一匹残らず殺すんだよ」
そう、言い放ってやった。
.......ああ、最高だよ。魔王様には本当に感謝しなきゃ。
恐怖、怯え、混乱。そんな負の感情が、目の前の二人から凄く伝わってくる。
「ま、待て.......待つんだ。落ち着いてくれ。お前にしたことは本当に悪かったと思っている。これは本音だ!だから、一度だけチャンスをくれないか!?またお前と.......」
.......イラッとするから、やめてくれないかな、その話。
「だから、それはありえないって言ったじゃん。ボクは今、魔王様の配下だし、お前達よりもよっぽど、『家族』って言えるような人も出来た。もう、勇者になる前の暮らしをするなんて、絶対に出来ないね」
「そ、それはやってみなければ.......」
「分かるよ。.......それにさ、ボクと暮らすって言うけど.......それって、ボクに対しての愛情なんて、欠けらも無いでしょ?ボクが帰ってくれば、もしかしたら情緒不安定だった母さんが治るかもしれない。.......そんな風に考えてるんだよね?結局、ボクを利用しようとしてるだけじゃん」
「そんな、ことは.......」
「あーもー、うるさいうるさい!ボクはこんな不毛な話する為にここに来たわけじゃないんだよ.......おーい」
ボクが呼びかけると、瞬時にボクの後ろに人影が現れて、同時に膝を着いた。
ずっとボクと一緒にいた、暗部の人だ。
「なにか御用でしょうか、ヨミ様」
「サクラ君に、結界を展開してって伝えてくれるかな?あと、ここにいる二人を拘束魔法で捕らえて、引っ張ってきてくれると嬉しいんだけど」
「かしこまりました。《束縛》」
「がっ.......!」
「ひい.......!」
「じゃあ、サクラ君のところに行くからついてきて」
「御意に」
近くの丘の所まで行くと、王杖ハーティを携えたサクラ君が待機していた。
「あっ.......ヨミさん.......」
「ごめんね、遅くなっちゃった。結界、お願い出来る?」
「は、はい.......」
サクラ君が杖を振るうと、一瞬で村全体を強力な結界が覆った。
流石サクラ君だ、これで村の奴らは逃げられなくなった。
「えっと.......この人達が、その.......ヨミさんの.......」
「血縁上は父と母だよ。じゃあサクラ君、この二人が見やすいように、風の魔法で空に特等席を作ってあげてよ」
「は、はい.......」
「ま、待て.......何をするつもりだ.......」
「ひ、ひい.......助けて.......」
「何って、さっき言ったでしょ?この村の奴らを全員殺す。.......それをね、父さんと母さんに見ててもらうんだよ。成長したボクを見てもらいたいんだ!」
「なっ.......待っ.......!」
「じゃあ、行ってくるね。結構早めに終わらせるけど、遅れちゃったらごめんね、サクラ君」
「い、いえ!.......ご武運を.......」
※※※
.......こうやって歩いてると、覚えていないはずの村なのに、勝手に足が動く。
デジャヴ、って言うんだっけ。記憶が無い筈なのに、初めて見る気がしない感覚。
勝手に動くままに歩くと、一軒の家の前に着いた。
上をチラッと見ると.......うん、ちゃんと二人共いるね。
凄ーく、情けない顔で、ボクの方を見てる。
さて、見やすいように.......取り敢えず、天井を斬り飛ばそう。
「《身体強化―飛撃》。ふっ」
ボクが剣を振るうと、天井はバターみたいに容易く斬れた。
「な、なんだ!?何が起きた!?」
そうして外に飛び出してきたのは、一人の青年で―――
『ええい、ミィアさまにちかづくな!』
『おまえなんか、きえちまえ!』
「―――っ!?」
「あっ!お前がこれをやったのか?.......いや、そんなわけないか。ったく、どうして.......」
今のは.......昔の、こいつ?
.......そうか、思い出した。こいつはミィアの取り巻きの一人だった。
まだステータスが無かった時に、ボクを何度も殴っていじめてたやつだ。
「.......一人目」
「おい、そこのお前、この天井...................」
何か言いかけてた男の首を、神速で斬り落とした。
「.......次、だ」
「逃げろお!皆逃げるんだあ!」
「誰かあ!誰か、助けてええ!」
上からそんな声が聞こえてきたけど、村人達は出てこない。
当然だ、サクラ君の風魔法で音の流れを操作して、ボク以外には聞こえないようになってる。
次は.......ここか。
「ん?お嬢ちゃん、夜に一人で出歩いちゃ.......」
『あん?.......なんだお前か。ミィアちゃんなら全部タダでくれてやるところだが.......そうだ、お前、ミィアちゃんの分も払えよ』
「ダメだぜ.............え」
胴体から切断。
「う、うわああああ!」
「ひいいいあああああああ!?」
.......ボクにも聞こえないようにしてもらえば良かったかな?
いや、このままでいいかな。人間の絶望が大好きなボクにとっては、考えようによっては悲鳴もご褒美だ。
「.......さあ、ドンドン行こうか」
「ん?誰だ君は.............ぎゃっ」
ボクを蹴り飛ばしたことがある猟師。
「あら?あなた、どこかで.......ぐぎっ」
いつもボクを見て陰口を叩いていたおばさん。
「うひょっ、すげえ可愛い!ねえ、君.............がげっ」
またミィアの取り巻きだった男。
この辺りから、ボクの殺戮が気づかれ始め、逃げる村民が出てきた。
「うわああああ!なんだあのイカれた女は!?」
「おい、早く走.......ぐべっ!?」
「な、なんだこれ!?出れないぞ!!」
サクラ君の結界によって、村の外には出られないけどね。
「.......死ね」
逃げた数人も斬り殺し、次は反対側に逃げた奴らだ。
「く、くそおおお!このまま黙って殺されてたまるかあああ!!」
鍬とかを持った勇敢な若者達が、ボクに迫ってきた。
「無駄」
「へっ.......?」
全員一太刀で殺し、次の場所に向かう。
「.......ふふ」
ああ。
「.......ふふふっあははは」
最高だよ。
「.......あはははははははははは!!.......もっとだ。もっと死んじゃえ!もっと恐怖して、もっと絶望して......一人残らず、皆殺しだ!!あはははははははははははは!!」
魔王軍の皆は見てくれてるかな?
この、最っ高のショーを、見てくれてるかな!?
「あ!思い出したよ、ボクに何度も石投げてきた子だよね!?」
「ひいいい!待って、許して.......ぎゃぎっ」
「ああ、貴方はボクに優しかった.......でも、最後はボクをお金で売ったお爺さん!」
「ま、待っとくれえ!なんの話あ゛っ゛」
「あはははははは!どいつもこいつも、死んじゃえ!死んじゃえ!ボクをあんな目に遭わせたこんな村、みーんな、絶望しながら死んじゃえ!あはははははは!あはははははは!」
※※※
「あはははははは!あー、気持ちいい!さて次はっ.......あれえ?」
.......気がつくと、上空の両親を除く、村の中での生体反応は全て消えてしまっていた。
「.......もう終わりかあ。つまんないの。でもまあ、いっか!メインディッシュが残ってるし!」
「あっ.......その、ええと.......ヨミさん.......お疲れ様、です」
「ありがとうサクラ君!上の二人、降ろしてくれる?」
「は、はい!」
サクラ君の魔法でゆっくり降ろされた二人は、顔面蒼白、今にも死にそうな顔をしていた。
「ねえねえ、父さん母さん!見てくれた!?ボクの成長した姿、見てくれたかな!?ちゃんと、魔王軍としてのお勤めを果たして、この村の人達を皆殺しにしたよ!!」
「うっ.......おえええ!」
「ひっ、ひい.............うぷ」
.......あれ、どうしちゃったのかな?吐いちゃった。
ああ、そうか!戦争のせの字も知らない村人なら、こんな数の死体を見たらそうなっちゃうか。
「ねえねえ、いつまでも吐いてないで答えてよ。今どんな気分?ねえ、今どんな気分?死んだと思ってた娘に、長年一緒だった村の人達を、自分達のせいで殺されたって、どんな気分!?」
「ひっ.......があ.......」
「た、助け.......」
「もー、ちゃんと答えてよ.......そもそも、父さんと母さんがボクを売ったりしなければ、こんなことにはならなかったんだよ?ミィアの美しさにばかり目を眩ませて、ボクをステータスの数字でしか見てなかった二人のせいなんだよ?お前達がボクにした仕打ちが、この状況を招いたんだ」
「ふ、ふざけるな.......この、悪魔め.......」
「え、ありがとう。魔族扱いはボクにとっては最上の褒め言葉だよ。.......さてさて、明日の準備もあるし、そろそろ二人にもトドメをささないとね」
「ひっ.......!?」
「ああ、逃げられるとか思わない方が良いよ?元勇者で、現魔王軍最強であるボクから逃げられるのなんて、世界でも数え切れるほどしかいないから」
「ま.......魔王軍、最強.......!?」
ああ、今日は本当に素晴らしい日だったなあ。
後で、魔王様に深く感謝しておかなきゃ。
「おっと、その前に.......ボクは、父さん母さんの、もっと、もーっと!.......絶望した顔を見たいんだよね。サクラ君、この二人の思考加速をしてくれる?ほら、四年前にリーンが勇者を殺す時にサクラ君にお願いしたやつ」
「あ、はい.......良いですよ」
「さて、二人にはこれから、百万倍に加速された思考の中で殺されてもらうね。ボクは苦しめる趣味は無いから、ちゃんとミィアみたいに、首を落としてあげるけど.......加速されている思考の中じゃ、死にそうで死ねない地獄の苦しみが待ってると思うから、覚悟してね!.......その前に、遺言があれば聞くよ?」
「ま、待って.......待ってくれ!本当に悪かった!俺が間違っていたんだ!反省している!お前を売った事を、本当に後悔していた!だから、頼む!一度だけ、贖罪の機会をくれ!」
「私もっ.......私も、貴方の事を忘れた日はなかったわ。ええ、本当よ!私はそもそも反対だったの!貴方を売るなんて!.......でも、この人が!だから私は助けて!」
「はああっ!?お前、何を言っているんだ!!お前がこいつを売ろうって真っ先に言ったじゃないか!!自分だけ助かろうとっ.......」
.......醜いなあ。
本当に醜い。
「.......じゃあ、今のを遺言として覚えておくね。じゃあそろそろ、お別れの時間だよ」
「うわああああ、待ってくれええええ!待ってください!!やめて、やめてくれえええ!」
「お願い!やめて!私達家族でしょう!?親を殺すの!?」
「.......今のボクにとって、家族は魔王軍の皆だ。そもそも、お前達を家族だって思ったことは一度もない。.......サクラ君、頼むよ」
「ひいいいい!やめっ.......」
「《二重化付与・体感時間加速》」
「じゃあ、父さん、母さん。もう聞こえてないかもしれないけど.............サヨウナラ」
※※※
苦しみもがき、絶望した表情で死んだ両親の首を見て満足したボクは、サクラ君にお願いして、この村を念入りに焼き払ってもらった。
これでもう、ボクが『人間として』生きていく道は無くなった。
元々そんな気は欠片もなかったけどね。
「.......ヨミ、さん?どうかしましたか?」
「え?.......ううん、なんでもないよ。.......帰ろう。ボクらの『家』に」
「.......はい」
完全に焼け落ち、文字通り地図から消えた村の跡地を後目に、ボクは帰還した。
ボクが居るべき、本当の『家族』の元に。
次回で、第四章『復讐編』は最終回となります。




