吸血姫と邪神7
この感じ.......今日、魔王様と干渉が最近ないなーって話をしたところでか。
噂をすればなんとやらだね。
イスズ様、今日のお菓子なんですか?
「.............あの、別に今更リーンさんに敬われたいとかそういう気持ちは微塵もありませんし、実際もう茶飲み友達みたいな感じになっているのは認めますが.......もう少し、神への敬意とかありませんか?」
初めて会って十七年、お茶飲みを初めてから十二年。ぶっちゃけもう、慣れましたよ。
それに敬意と言うなら、ちゃんと様付けしてるじゃないですか。
「もうそれしか残っていないではありませんか。.......ま、まあ良いでしょう。今日はどら焼きです、緑茶もありますよ」
おお、どら焼き!
私も大好きで、どこかの青いタヌキ型ロボの大好物でもある、日本一有名な和菓子と言っても過言じゃないと思う。
「ネコでは?」
細かいことは気にしなくていいんです。
てかなんで知ってるんですか。
※※※
.......ふう、美味しかった。
色々中身が違ったけど、最終的にやっぱり粒あんに落ち着くよね。
「私はこしあん派です。.......いえ、あんこ談義をする為に呼んだのではなく」
そうそう、それです。
なんで私、呼び出されたんですか?
「では、真面目な話に移行するとしましょう。.......今回貴方を呼んだのは、現在の『勇者』について、詳しく説明するためです」
勇者ゼノの件についてなら、魔王様に今日聞きましたけど。
「ええ。ですが、色々と追加情報がありましてね。というのも、勇者パーティの編成が決定したようなのです」
勇者パーティか.......。
今まで苦戦した思い出が殆ど無いな。強いて言えば、ヨミがまだ勇者だった時の、付与術師と神官くらい?
「どうやら、過去二度の失敗から流石に学習したようで。まず勇者ゼノ、それに有力な力を身につけた転生者四名。それに聖十二使徒下位が三人.......更にそこに、聖十二使徒の上位、ハサドとデューゲンが加わるそうです」
出たよ。
四年前、私とサクラ君が取り逃した奴らだ。
.......ああもう、思い出しただけでイラッとするわ。あれが、今のところ私の最初で最後の任務失敗だったんだぞ!
ルヴェルズさえ来なければ、確実にトドメをさせてたのに!
「どうどう。.......まあここに、ゲイルやヘレナを向かわせないあたり、ルヴェルズの器の小ささが伺えるではないですか。というか、どうも人間達は、アヴィスが集めた人員.......つまり転生者が、全員『勇者の素質』を持っているのではと勘違いしている節があるのですよ。故に、まずは勇者ゼノを捨て駒にして、新たに生まれる勇者に、魔王軍、引いては四魔神将の情報を与えようとか考えているかもしれません」
ばっかじゃねえの?
憶測で物事を語るなとか、中学生でもわかるようなことがなんで出来ないんだよ。
「リーンさん、貴方の前世での物語を思い出しながら想像してください。人間は魔王に襲われてピンチです。何人もの勇者が殺され、今代の勇者も大ピンチ。.......どうなりますか?」
勇者が秘めたる力に覚醒し、敵を蹴散らして、最後は魔王を.............ああ、そういうことですか。
「はい。人間達がミザリーの洗脳を受け始めた際に、ミザリーはそういった内容の本を、日本を含む異界からかき集め、自分の存在やありがたみを確固たるものにするためにばらまいたのです。.......それが捻れて、今ではそれが史実であるかのようになっているのです」
つまり何か?
人間達は、どんなに勇者が殺されようと、最後の勇者であれば覚醒して主人公補正がかかって、絶対に魔王を殺せると本気で信じ込んでるってこと?
「はい。ですので、いくら軍が壊滅しようが聖十二使徒が殺されようが、『大丈夫だよ主人公補正あるし』みたいなノリで考えているのです」
救いようが無さすぎる。
いや、史実が曲解して伝えられることなんて確かにざらだけども、これはないだろ。ゲームじゃないんだぞ。
「いえ実際、主人公補正はあるんですけどね」
あるの!?
え、ヤバくないですか?それが本当ならっ.......
「真の意味で勇者に覚醒した者には、魔族に対する、絶対に近い優位性が与えられます。いくらステータス差があっても、勇者を殺せなくなります」
最悪じゃん!
え?え?どうすれば良いの?
私、そうなったら勝てないじゃん。
「落ち着いてください。覚醒の条件は結構厳しいですから。取り敢えず最低条件として、平均ステータスが三万を超えている必要がありますし」
心配して損したわ。
今の勇者ゼノは、平均ステータス一万に届いてないくらいって聞いたよ?余裕じゃん。
仮にそこに届く素質を持っていたとしても、届く前に殺せば良いし。
「ヨミであれば、覚醒の可能性はあったんですけどね。まあぶっちゃけ、万が一以下の確率ですが、勇者が覚醒した場合でも、対処はどうにでも出来ますからね」
え、そうなんですか?
絶対に近い優位性とか、ヤバすぎでは?
「お忘れですか、リーンさん。魔族というのは、厳密にはその属性が悪に偏っている種族のことを指します。リーンさんのような吸血鬼族、グレイと同じ魔人族、ヴィネルの悪魔族、他にもゴブリン族やオーク族など。今でこそ、現在の状態で魔族と定義されている全ての種族を私が管理していますが、本来、エルフ族やドワーフ族、人魚族なんかは、魔族では無いのですよ。人間が勝手にそう言っているだけで」
.......ああっ!
そういえばそうでしたね。ということは.......
「仮に覚醒したとしても、サクラを始めとする、魔族設定を後付けされた種族をぶつければ良いのです。まして、魔王軍最強であるヨミは人間ですよ?優位性など働きません。覚醒なんてあんまり意味ないんですよ。貴方やグレイを動かせなくするのがせいぜいです」
現実厳しー!
ざまあみろだわ。
「勇者ゼノは、確かに才能はかなりのものです。このまま成長すれば、レイン以外の魔王軍幹部と互角に戦える程度にはなるでしょう。しかし、それだけです。ヨミには到底及びませんし、偶然に偶然を重ねた奇跡でも起きない限り、我々が負けることはありません」
油断するつもりはないけど、これもうほぼ勝ち確じゃね?
警戒すべきは聖十二使徒上位、だけどハサドとデューゲンは四魔神将の敵じゃないとは判明したので、その中でもゲイル、ヘレナ、ルヴェルズのみ。
「ゲイルとヘレナは、四魔神将と互角と考えてください。ルヴェルズは、四魔神将二人以上、出来れば三人で挑めば勝てる可能性は高いですね」
人間って数は多いけど一人一人がポテンシャル低いからねー。まるで虫だわ。早く駆除せねば。
「それには同感ですが、焦らずにやっていきましょう。人間ってしぶといですから、男女一組逃がしても、ポコポコまた増殖するかもしれません。もう一度根絶やしにする羽目になるのは嫌ですよ、私」
イスズ様も虫扱いしてるじゃないですか。
「まあとにかく、勇者ゼノについては、こちらでも探りを入れていきます。警戒はしておいて下さい。彼はヨミや貴方と同じく『遅咲きの花』タイプなので、レベル100を越えられると何かと厄介になる可能性があります」
分かりました、早めに殺しますね。
「で、実は.......もう一つ、貴方にお話があるのですよ」
ん?勇者関連の事じゃなくて?
「はい、まあ勇者は、レイン以上の強さなら、ぶっちゃけ誰でも対処出来ますし」
めっちゃぶっちゃけたな。
「それで、お話なのですが」
はいはい。
「いきなりなのですが.......リーンさん、私の眷属になる気はありますか?」