吸血姫と四年後
私は漸く、ヨミへの気持ちを認識した。
あの後、ぶっ倒れた私を家まで運んでくれて、「体調が悪いんだったら最初に言ってよ!」と、なにやら勘違いしてくれているようだったので、話を合わせておいた。
だって.......ねえ。気持ちを伝える勇気とか、無いし.......。
割とチキンなんだよ、私。
その後は大変だった。
だって私、ヨミと一緒に暮らしてるんだもの。
お風呂上がりとか寝起きとか、誘惑がやっべぇの。
基本的に几帳面な子だけど、だからこそたまに見せてくる隙が魅力的に映るっていうかさ。
本気でヤバかったんだよ。最初の頃は私をからかってきたアロンさんやレインさんが真面目に心配してくるくらいには。
魔王様が家を離すかと提案してきたけどそれは拒否した。だって勿体ないもの。
.......でもまあ、そんな時はある日終わりを迎えた。
私の前世では、『恋愛三年説』というものがある。
曰く、人の情熱的な恋というのは、長くても三年しか続かない、というもの。
三年を過ぎると、恋のドキドキとか、熱情とかも失われ、代わりに愛着や一緒にいる時の安心感が湧き出る、とかなんとかかんとか。
まあつまり、何が言いたいのかと言うと。
あれから四年経って、十七歳になった今では、ヨミを見て鼻血吹きそうになったりしなくなったなー、という話。
※※※
「ひっ.......ひいいいいいい!」
王冠を被ったでっぷりした男が、涙と鼻水で顔をグチャグチャにして倒れている。
付近には、鎧や、無駄に豪華な服を身にまとった数十人の人間達.......の、死体。
この城に私が乗り込んで五分。全員弱すぎてあっという間に全滅させてしまった。
これがこの国の首都とか笑わせるわ。
「ひぃっ.......や、やめ、やめてくれ.......!」
で、このおっさんはこの国の国王。
随分と魔王軍を舐めたような発言やら戦略やらをしてきて、いい加減ウザイからもう直接私が首都へ攻め込んだ。
「もー、諦めなって。一応国王なら、私の情報もちゃんと知ってるでしょ?その情報に、私が命乞いとか効かない相手だって書いてなかった?」
「や、やだ.......嫌だああああ!!」
あ、逃げた。
苦しめて殺したかったけど、なんかもう萎えたからいいや。
「《水牢獄》」
「がぼぉっ!?」
溺死はこいつくらいの雑魚さじゃ、長くても三分以内に終わっちゃうから微妙なんだよねー。
まあ、相当苦しんで死ぬから悪くは無いんだけど。
打撃に対する高い耐性を有する水の牢は、こいつ程度がいくら暴れ回ったって破壊出来ない。
そのうち死ぬでしょ。
「おいリーン、こっちの攻略は.............おおう、こりゃすげぇ」
「あ、アロンさん、お疲れ様です。ガレオンさんは?」
「住宅街を蹂躙してるぜ。俺は担当のところほぼ終わったんで応援に来たんだが.......必要無かったな」
「はい、もう終わりました。もう帰って良いですかね?」
「.......国一つ潰した直後だってのに、落ち着きすぎだろ。いや、それでこそお前と言うべきなのか.......?」
「国なんてこの数年でポコポコ潰しましたし、別に今更ですよ。そもそもガチで警戒すべき国なんて、ぶっちゃけメルクリウス聖神国くらいのものじゃないですか」
「まあそうだけどよ.......聖十二使徒も最近は前に出ることが多くなったし、お前も警戒しとけよ?」
「そうですね、第三位より上は、私も危ういかもしれませんし」
この四年で、新規の聖十二使徒を結構な数殺したけど、序列上位には出会わなかった。多分、私や他の四魔神将を警戒しているんだろう。
.......それに、ノインとイーディスも。
新たな『勇者』の育成に選ばれているんだろうというのが、魔王様やヴィネルさんの見解だ。
.......絶対に殺す。
十二年前の所業、絶対に後悔させてやる。
※※※
完全に仕事を終えて、書類関係も一段落し、私は予定時間きっかりに帰還して魔王様に報告を入れた。
「そうか、よくやってくれたなリーン。流石じゃ」
「ありがとうございます。.......えっと、もう戻っても?」
「.......なんじゃ、今日はやけにソワソワしておるのう。ヨミと何かあるのか?」
「なんで私がソワソワしてるとヨミ関連だって決め付けるんですか。.......まあそうですけど」
今日はヨミが、ケーキに挑戦しているという話を水晶で聞いた。
「用意しておくから早く帰ってきてね」って言われたんで、さっさと帰らなければ。
「まったく.......十七になったというのに、ヨミが絡むとポンコツになるのは相変わらずじゃのう。まあ、一番ヤバイ時に比べれば落ち着いたものじゃが」
「自覚はあるんで言わないでいただけると.......」
「まあ良い。あとまだ帰らんでくれ、一つ話があってな」
話?なんだ?
「現在の『勇者』についてじゃ」
勇者はこの四年間、一度も姿を表さなかった.......が、その実態は全て、イスズ様から聞いている。
勇者ゼノ。前世での名前は城谷翔太。
.......ぶっちゃけどんな顔だったかとかどころか、名前すら覚えてなかった。
けど、その才能はヨミほどでは無いにしろ、勇者アヴィス、つまり黒田のやつを上回っているとか。
「そういえば最近、イスズ様からの干渉が無いんですよね。だからあんまり知らなくて」
「妾もだったのじゃが、つい一昨日、妾に干渉があってのう。曰く、そこそこ強くなっておるらしい。面倒なことにな」
「ちなみにどの程度で?」
「レベル80より少し上で、平均ステータス一万弱、といったところだそうじゃな」
「え、雑魚じゃないですか」
「.......言っておくが、この世界で平均ステータス一万は十二分に化け物の領域じゃからな」
そんなことを言われても。
こちとら、既に三万を優に超えておりますし?
ヨミに関してはそろそろ五万に届くとか言ってますし?
今更平均ステータス一万、聖十二使徒下位程度の強さなんて、ぶっちゃけ敵じゃない。
「それで、何処にいるか分かったんですか?」
「うむ。メルクリウス聖神国の神都で、それはもう大切に育てられておるらしい。他の仲間達と共にな」
「なるほど。それで、どうするんですか?前のように、結界から出てきた瞬間に私が殺しますか?」
「それも良いがの。しかし今回は、四魔神将を全員動員するつもりじゃ」
.......四魔神将全員!?
「マジですか」
「マジじゃ。というのも、最後の勇者殺しを、ヨミのお披露目会にでもしてやろうと思ってな」
おお.......いよいよ、人間が生み出した怪物、『戦神将』ヨミが出陣ってわけか。
確かに、今のヨミなら恐ろしく強い。ルヴェルズ以外の聖十二使徒に負けることは無いだろうし、それは即ち、ほぼ無敵を意味する。
人間にとって、あの子以上の絶望というのも中々無いはずだ。
「それは良いかもしれませんね。ヨミも何年も出陣出来ない状況の多少のストレスはあるでしょうし、話したらきっと喜びますよ」
「そうじゃろう?.......それに、あやつの両親がおる村にも、目処が着いたのでな。そちらも.......のう?」
おお、流石魔王軍。仕事が出来るぜ。
そうして私と魔王様は、笑みを浮かべながら、今後の作戦について話し合った。
後々帰ってきたアロンさんが、「なんだあんたら賄賂でも受け取ったみたいな顔して」とか失礼な発言をしたのでぶっ飛ばした。
昨日、更新を遅らせてしまってすみませんでした。
.......というのも現在、新作の準備を進めておりまして。
この話みたいなガチ百合ではなく、ソフトな百合を挟みつつ、展開させていきたい、そんな話にしていこうと思っております(予定)。
.......それに伴い、大変申し訳ないのですが、こちらの『転生吸血姫と元勇者、人類を蹂躙する』の更新を一日一話、十五時からの更新とさせて頂きます。
0時投稿を楽しみにしてくださっていた方、申し訳ない!
新作は書き溜めが終わり次第、少しづつ投稿を始めていく予定なので、そちらの応援もどうかよろしくお願いします。