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00 異世界召喚・オブ・クライマックス

「……はぁマヂもう無理」


「しっかりしてくださいデビ~。バエル様が見てくれないとこの書類の山が片付かないデビ~」


 バエルと呼ばれた女性は、目の前の書類を1枚取って軽く目を通し、すぐに投げ捨てた。


「いやいやいやいや……無理じゃこんなの。全然減らんではないか。増えてく一方ではないか」


「それは仕方ないデビ~。問題が起きても解決しないんデビ。ちゃんと解決しないとまたすぐ返ってくるデビ」


「そんなの無理じゃ……。そうじゃ、チビデビも手伝うがよい」


「デ、デビ!?」


 チビデビと呼ばされた語尾がうるさいこれは、バエルという女性の側近。

 1頭身しかない体に、小さな羽と長い尻尾を揺らしながら常に浮遊している。


「こ、これは魔帝であるバエル様じゃないとダメデビ~!」


 魔帝バエル。

 現在魔界を統治している悪魔。魔族、悪魔の頂点に立っている存在だ。

 元は69の悪魔の1体だったが、色々あって今はバエルしか生き残っていない。


「別に余が任命すればよいだけじゃ。余も任命されて魔界を治めておるのじゃ、問題なかろう!」


 ニヤリと笑うバエル。

 それを見てチビデビは慌てて代案を出した。


「ま、待って欲しいデビ! そういう事なら異世界召喚をするデビ!」


「は? 何を言っておる。人間など、あの方の滞在で死に絶えたであろう」


「違うデビ! 別次元の人間を連れてくるデビ!」


「だからなんじゃ、呼び出したところで使い物にならぬでは魔力の無駄ではないか」


「ちちち違うデビ! そういうのに長けた人間がいるはずデビ! 今ちょっと話題のチューカンカンリショクって奴デビ!」


 慌てて取り繕うチビデビ。

 そそくさと水晶のようなものをどこからともなく取り出した。


「どこから出したのじゃ」


「気にしちゃダメデビ。こういうのはテンポが大事デビ。いつまでも導入でグダ付いていると飽きられるデビ」


「誰にじゃ」


 チビデビはバエルの言葉を無視して話を進める。


「はい! ちゅうも~くデビ! 今からなんとこの水晶に! 我々が一番求めているスキルを持った人間が映し出されるデビ! バエル様はその人間を召喚するデビ! そうすればどんな問題もササっと解決してくれるデビ!」


「ほう。よく分からんが、問題を解決してくれるというなら有り難い。早速やるのじゃチビデビよ!」


「了解デビ!」


 無造作に床に置かれた水晶に、チビデビがムニャムニャと何かを唱え始める。

 すると水晶が輝きを放っていくではないか。


「うおお! 眩しいぞ!」


 光は徐々に収束し、透き通っていただけの水晶に人の顔が浮かび上がった。


「適性診断結果が出ましたデビ!」


「おお! して、どんな奴だ!」


 水晶に映し出されたのは、ピシッとしたスーツに身を包む黒髪短髪の男。

 顔立ちは可もなく不可もなくといった感じでメガネをかけている。

 そして男性のステータスヴィジョンが唐突に表示された。

 

品質(しなたち) 管理(くだまさ) 種族:人間 年齢:32 ≫


「すごいデビ……。なんだかやってくれそうな名前デビ……」


「そ、そうだな……。まぁ適性で選ばれたのだ! こいつにしよう!」


「賛成ですデビ!」


「で、どうすればいいのじゃ?」


「簡単デビ! 水晶に魔力を注ぎ込んで、あのトラックとかいう四角い物をぶつけて殺せばいいデビ!」


「ほう! 簡単じゃな! では早速」


 バエルが水晶に手をかざし、なにやらムニャムニャと唱え始めた。

 すると、水晶に映る彼の周辺で異変が起き始めた。

 

 ターゲットの周辺でトラックが暴走を開始。

 不自然な形で男へと向かっていき、猛スピードで激突した。

 

「ふふ、これで後はこの人間がここに出てくるのを待つだけだな。初めてだが上手くいって良かったってあれぇええええ!?」


 ご満悦の様子で水晶を眺めていたら、片手でトラックを受け止め無傷でそこに立っている男が見える。

 トラックは衝突した部分がグッチャグチャだ。

 

「おいチビデビ! 殺せなかったぞ!?」


「お、おかしいデビ……。そんなに頑丈じゃないはずデビ……」


「ええい! もう1度だ!」


 再度ムニャムニャ。

 今度は周囲にある四角い物を片っ端から飛ばしていく。

 だが男は無傷で出てくる。


「うぎいいいいい! なんか悔しい! こうなったら何がなんでも殺してやる! 何がなんでもこっちに来てもらう!」


 バエルの暗殺は3日ほど続いた。

 殴殺、刺殺、撲殺、惨殺、毒殺、圧殺、焼殺、落雷、水攻めなんでもやった。

 あらゆる方法で殺害を試みた。

 

 でもダメだった。

 悉くを弾き返され、何をやっても傷ひとつ付かない。 

 水晶に映し出される彼は、特に変わった様子もなく毎日を平穏に過ごしている。

 

「なんだこいつぁあああああああ! 英雄か何かか!? それもとんでもないレベルの奴か!?」


「おおおおちついてください! バエルさま!」


「うるさい! もうこうなったら最終手段じゃ!」


 バエルはまたムニャムニャ言い出した。

 そして詠唱らしいそれを終えると、大声を張り上げる。

 

「我が名のもとに顕現し、彼の地を焦土と化せ……! 魔星アクマズ!」


 凄まじいまでの魔力の波動が、あらゆる世界を突き抜けて空間を歪めていく。

 そして突如、地球を周回する月よりも数倍デカイ石の塊が、地球の衛星軌道上に現れた。

 

「バ、バエル様……これ、どうするデビか……」


「ふふふ、決まっておろう! 落とすのだよ! 品質(しなたち)管理(くだまさ)を亡き者にするためになぁ!」


 明らかにやりすぎである。

 

「だ、ダメデビー!」


「ふははは! 落ちろぉ! この3日間の忌まわしき記憶と共にぃッ!」


 アクマズは徐々に動き出した。

 衛星軌道上を外れ、地球へと真っ直ぐに。

 

「こんなの落としちゃったら! あの人間どころか全部死んじゃうデビー!」


「ええい煩い! 私が持たん(慢性疲労)時が来ているのだ!」

 

 必死に上司の凶行を止めようとするチビデビだったが、話が通じる雰囲気ではない。

 仕方なく、実力行使に出る。

 

「こうなったら! 僕が止めるデビ!」


 チビデビは持てる魔力を水晶へ注ぎ込み、魔星アクマズに対して干渉。地球に落ちる前にこれを破壊するつもりだ。

 

「なん……! よせチビデビ! お前の魔力では逆に摩擦アチチがオーバーリミットで限界が関数電卓だぞ!?」


 ちょっと熱いノリになってきたので、それらしいセリフになるよう単語を選ばずにバエルは喋っている。


「いや! いけるデビ! ここデビィイイイイ!」


 チビデビから流れる魔力が、魔星アクマズの中枢に届いた。

 星の弱点を発見し、すぐさま大量の魔力を注入していく。

 突貫工事で作成された星だったため、その構造は非常にもろい。

 流れ込んだ別種の魔力がぶつかり、巨大な爆発が発生。地球へは磁気嵐が衝撃波として飛んでいった。

 そして魔星アクマズは中央から割れ、ふたつになって衛星軌道上を離れていく。

 

「やった! やったデビ!」


 喜ぶチビデビの横で、不敵に笑い始めるバエル。

 

「ククク、馬鹿め。私の勝ちだな。今計算してみたが、アクマズの後部は地球の引力に引かれて落ちる。貴様の頑張りすぎだ」


「そ、そんなはずないデビ! 軽くなって落ちないはずデビ!」


「爆発の勢いが強すぎたのさ」


「クソがぁッ! デビ」


 一瞬死ぬほど野太い声に変わったチビデビはその場に崩れ落ちた。

 高笑いし、勝利を確信した魔帝バエルだったが、チビデビのひと言に仰天することになる。

 

「うぅ……。あの次元の人間はむやみに殺すなってサタン様に言われてたのに……どうしようデビ……」


「え……? チビデビ? 今なんと言った?」


「だ、だから……あの次元はここと表裏一体の次元デビ。だから向こうでたくさん死ねば、それだけこっちにも影響が出るデビ。だからサタン様が、殺しても年にひとりかふたりくらいにしなさいって言ってたデビ」


 バエルの顔から血の気が引いていく。

 だがそれは、多くが死んだ場合の影響について驚愕したのではない。

 

 魔王サタンとは、バエルに魔界を統治するよう命令した存在。

 バエルが社長なら、サタンはCEOである。 

 

 そんな魔王サタンの意図を無視したバエルの行動はどう映るだろうか。知らなかったという話が通じる相手でもない。

 一瞬で保身スイッチが入ったバエルは咆哮した。


「う、うおおおおおおおおおおおお!」


 地球に落下を始めたアクマズを、バエルは魔力投影した自身をそこに実体化させ受け止めたのだ。

 

「こ、こんなぁ……! たかが石ころひとつ! このバエルが押し返してみせる……!」


「頑張ってバエル様ぁー!」


 切替の早いチビデビはバエルを早速応援し始める。


「ぐ、うぐおおおお!」


 自ら作った星だ。更にそれは半分になっている。

 普段のバエルなら小指一本で弾くことが可能だったが、魔星を作り出すのに魔力を大きく使ってしまって今は残りカスだ。

 それでも、この星を落とすわけにはいかない。

 青く美しいこの星に、こんな穢れた悪意の塊のようなものを落としてはならない(使命感)。 

 

「すごいデビ! 押し返してるデビ! バエル様頑張ってデビー!」


「任せるがよい! フハハハ! 絶好調である! なんとぉおおおおおおおお!!」


 火事場の馬鹿力とでも言うべきだろうか。

 巨大すぎる質量を、バエルはその膂力だけで持ち上げていく。

 遂に魔星アクマズは押し返され、地球から徐々に離れていっていた。

  

 が、その瞬間だった。

 無理な体制が祟ったのだろう。

 地球を踏みつけないように気を遣っていたせいもあるだろう。

 

 ペキっという音と共にバエルの背骨が逝ってしまったのだ。

 

「あっ……(エコー)」


 自らを支えられなくなったバエルの投影体は、まだ引力圏内にあった魔星アクマズに押され、地球へと巨体のまま落下していく。

 魔星アクマズはその見た目に反して実は中身がスカスカだ。

 仮にアクマズだけが落下したのなら、日本は消滅しても地球はまだ大丈夫だったかもしれない。


 そして不幸なことにバエルは仮にも魔帝。

 残魔力量は残りカスとは言ってもそれは割合の話。未だ保有する魔力は天地を裂き次元を割る事が出来る。


 誠に遺憾ながら、膨大な魔力質量を持つバエルが先に地上に落下。

 次いで落ちてきたアクマズがバエルの魔力構造体を破壊。

 

 新たな地球を作ることが可能なほどのエネルギーが、地球の中枢へ到達し駆け巡る。

 

 その瞬間、地球は瞬間的に膨張し、ビッグバンを巻き起こして消え去った。 

40周年おめでとうございます。

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