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2話:『14番目』

「いってぇ…!」


 進は両手を後ろで縛られ、『勇者』と名乗る青年に無理矢理王城に通された。



 一際立派な扉を開けると、青年は進を後ろから蹴飛ばして強引にその中へと入れる。


「な、何するんだ…!」


 進の声は掠れている。


 ブロンドのオールバックを纏めたその顔を改めてよく見ると、その姿は進のよく知る『いじめっ子』と呼ばれる男たちのそれによく似ている。

 進はその姿に、無意識に恐怖を覚えていた。




「王よ、この者が『14番目の勇者』です。あろうことか商店街の一角で拳を振り下ろしながら、我々の国を破壊する準備をしていたようです」


「はぁ!?」


 突然の言い掛かりに、進は驚きを隠せず大声を出す。


「動くな化け物!!」

「貴様は『世界反逆罪』なのだぞ!!」


「『世界反逆罪』って…!何だよそれ…!」




「―この者を匿っていた者の所在は分かるか?」


 玉座に座る老年の男が初めて口を開く。

 その声には逆らえぬ何かが含まれており、進もその声には竦むしかなかった。


「はっ。183区の62番地で宿屋を営業する『リムナ・バーン』という女性です」


「その者を国家反逆罪で捕えよ。後日処断を決定する」


「はっ!」


 王に寄る兵士は、王の命令を聞き入れるとすぐさまその場を離れる。



(まさか、あの女の人か…!?)


 進はその後ろ姿を見つめることしか出来ない。

 複数の兵士に槍を突きつけられ、身動きを取る事が出来なかったからだ。


「…その、女の人が一体、何をしたって言うんだ…!」

「カスが喋るんじゃねぇっ!!」




 勇者を名乗る青年が進の右太腿を、その鋭利な剣で躊躇い無く突き刺した。








「―あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!????????」



 今までに経験した事の無い痛みに、進はその場で大声を上げることしか出来なかった。




「ヒデヨシ、やり過ぎだ。それでは尋問をする前に死んでしまうではないか」


「失礼しました。

 しかし、このような奴が王に口を聞くことそのものが罪なのです」


 ヒデヨシと呼ばれた青年が進の太腿から剣を抜く。

 その傷口からは、大量の血が流れていく。



「…せめてもの情けだ。意識を失う前に1つだけ話しておこう」




「―」


 進の耳にはその言葉は入ってこない。

 最早彼の意識は、生死をさ迷っている最中だ。




 そんな彼に構わず、王は語り始めた。




 ―――――




 ―この世界は、遥か昔に一度『魔神』によって滅びを迎えた。


 それから二万年後、人類はようやく滅びを迎える前の世界を取り戻すことが出来た。

 この世を支配する『魔神』を退け、世界に光をもたらした13人の勇者の手によって、世界は再び安寧を取り戻したのだ。




 しかし、それから5000年後の今。


 世界は再び魔神の手によって滅ぼされようとしていた。

 その予兆として、世界各地に魔物が再び出現し始めた。




 これを重く見た世界は、各国で(いにして) の伝承通りに『勇者』を召喚する事になった。


 世界に存在する大国は7ヶ国。

 6ヶ国がそれぞれ2人の勇者を召喚し、残りの1ヶ国が1人を召喚する手筈となった。




 結果として、勇者の召喚は成功した。

 それぞれの国が各自のタイミングで勇者を呼び出し、13人の勇者は無事にこの世界に降り立った。




 ―――――




「それから1ヶ月経った」


 王は声を震わせる。

 憤怒のようにも畏怖のようにも取れるその震えは、やがて王の怒声と変わり昇華されていく。




「―何故貴様のような『魔神の遣い』が、我が国に召喚されねばならんのだっ!!

 我が国が召喚した勇者が1人だけだったのがいけぬのか!!?“数合わせ”などという下らぬ理由で貴様は我が国に召喚されたのか!!?」



 王の憤りに任せた罵声に答える者はいない。


 進は既に意識を途絶えさせていた。




「…聞かぬか。


 その者を磔にし、目が覚めたら尋問を開始せよ」


「はっ!」


 進は兵士によって何処かへと連れていかれた。





 ―――――





 うっすらと目を開ける。


「…」


 僅かな意識の中で理解出来るのは、ここが薄暗く冷たい部屋だということだけだった。



(ここは何処だ?

 …というか、何で拘束されているんだ?)


 程なくして、進は自らの両手両足が縛られ十字架に磔にされていることに気付いた。

 手を動かして何かをしようにも、手首に纒わり付く枷が邪魔で全く動かせない。



「っつ…!」


 右太腿の痛みを知覚し、進は先程までの出来事を思い出す。

 首を動かして右太腿を確認すると、止血すらされずに傷口が剥き出しになった脚が目に入ってきた。


(あの『勇者』とか名乗る野郎、一体何を考えてやがる…!人の脚に急に剣を刺しやがって…!)


 何故刺されたのかは全く理解出来なかった進だが、これだけは理解出来た。




(面倒なことに巻き込まれたなぁ)


「まぁ異世界のイベントだからこういうのもあるか」などと軽口を叩いていると、進の横から椅子を引くような音が聞こえてくる。



「起きたな、ではこれより尋問を開始する」


 尋問。

 進はまず、自分が何もしていないことを弁明し始めた。その様子には、ついさっきまでの軽口を口にしていた余裕は消えていた。



「ちょ、ちょっと待って、下さい!

 俺は何も…」


「黙れ俗物。貴様が『14番目の勇者』だということは既に調べがついている」


「俺は勇者なんかじゃ…!」


 と言いかけ、進は思い出す。



 あの時、まだ『勇者』と名乗る彼が優しく頼もしい存在だと思えたあの時。


 進の目に映ったものを。





『Job:Brave』





 直訳すると『職業:勇者』ということになる。


 そう。これは紛れもなく進が『勇者』だということを示していた。



「俺は、勇者なんかじゃ…!」


 認めたくもない現実に、進の語気はだんだん力無くなっていく。

 それは、尋問担当の兵士に「俺は勇者です」と伝えるようなものだった。


「答えろ。『魔神』はいつ復活する」


「…知らない」

「答えろっ!!!」


 脅迫に近い怒号は、進の体を強ばらせる。

 兵士は槍の先端を進の首に押し付け、再び問い掛ける。



「もう一度聞く。

 『魔神』はいつ復活する」


「…3ヶ月後、まずは、あんたらの街を、滅ぼす」


 進は命欲しさに適当な答えを返した。


 本当に魔神が復活する日など、進には知る由もない。

 彼はただ、気付けばこの世界にいただけなのだから。



「…もういい。貴様は明日処刑する。

 この者を牢獄に連れて行け」


「はっ」


 2人の兵士によって進の両足が解放され、両手が解放される。






 瞬間。


 進は兵士に組み付いた。


「な、何をする!!」


 必死に組み付き兜を脱がし、槍を折り、顔面を引っ掻く。


 獣のようなことしか出来ない進は、残った2人の兵士に両手を串刺しにされた。



「がっ…!!」


 声は上げない。


 進は先程、この程度の痛みを超える苦しみを味わった。この程度では声を上げる気にはならなかった。




「…殺せよ」


 ポツリと進は呟く。


「何?」


「…どうせ明日死ぬんだ!だったら今、この場で俺を楽にしてくれよ!!なぁ!!!」



 進は泣いていた。


 何故、自分はこのような苦しみを味わわなければならないのか。

 何故、自分は異世界に来てまで惨めな思いをしないとならないのか。



 何故、自分は『14番目』というだけで殺されないといけないのか。



「『勇者』を殺せるのは同じ『勇者』の武器か魔物だけだ。

 『6番目の勇者』様は現在レベル上げに発っている。本当なら今すぐにでも殺してもらいたいが、明日まで待たねばならん」


 『6番目の勇者』というのは、進をここに連れてきたヒデヨシのことだろう。

 進は彼の名前を知らないが、必然的にそう理解する。


「…だったら、何で俺を刺してんだよ?」


「何故って、それは貴様が暴れるから…」


 と言いかけて、兵士は妙案を思いついたと言わんばかりの満面の笑みを浮かべる。






「―そうだ!折角死なないのだからいくら突き刺しても問題ないという事だな!

 お前ら、思う存分刺しまくれ!」


「なっ…」


 狂気を宿すその笑みに、進はトラウマを再起させる。








 兵士たちが浮かべるその笑顔は、苛めを介して日頃のストレスを発散させる者たちのそれと全く同じだった。








「―ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァああああああぁアアアァァァァァァア!!!!!!!!!!!????????」




 進は兵士たちによって、死よりも苦しい拷問を受けた。

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