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短編集(詩やSSなど含む)

秋雨に照らされて

 それは歩いている時に気付いた事――


 都会という世界に生活するようになって周りの風景を気にしなくなった。それは何処に行っても例外ではなく、完全に視界から消えてしまっているといってもいい。ただの無関心。感動もない感情もない……ただの一つの風景画のようなモノ。何処に行っても変わる事の無いどこから見ても変わらない世界……それがこの世界だと思うようになっていた。


「イツキ君疲れてるのか?」

「え!?」

 仕事中に上司から声をかけられた。

「どこか悪いのか?」

「あ、いえ……そう見えますか?」

「あぁ……うん。気のせいならいいんだが……」

「ありがとうございます」

 どこか私の心は渇いていた――

 感じていた心の渇望が何なんかわからないまま時だけが過ぎて行った。仕事もうまく行っている。恋人だってちゃんといる。お金だってある。

 なのに生まれてしまった違和感が消えることが無い。打ち消そうとしてもまとわりついてくる。

 ビルの中から見える代わり映えのない景色。鉛色に近い青い空は私をどこに連れて行こうというのだろうか……

 ――ここが私のいる場所なの?

 何処からともなく沸き上がってくる疑問。見上げた空からは明確な答えは返ってこない。そしてまたいつもと同じ机に向かい、同じように淡々と仕事をこなしていく。


「……おい………のか?」

「……え? あ、ごめん。聞いてなかった」

 週末に恋人のケンジと会っていた時もこんな調子。満たされているはずの時間でさえ今の自分にはただただ[重い]そう感じるだけだ。

「そろそろ……うちの両親に会ってみなか?」

「え!? な、何よいきなり……」

「いきなりじゃねぇよ。もう……五年も待ってるだろ?」

「そう……だっけ?」

 朝からケンジと一緒に車に乗って出かけている。何処に行くかなんて興味が湧かない。

 ――何処に行っても同じ。同じ景色ばっかり……

 窓の外を見ながら心の中でつぶやく。


 一時間後――

 とある街についた。自分の住むマンションを出た時はいつもと同じような重たい雲が立ち込めていたけど、そこはすでに雨が降っていた。

「後ろに傘あるから」

「え!? あ、うん。降りるの?」

 聞き返したときにはすでに運転席を降りたケンジは後部座席に用意してあった傘を出して指していた。遅れては何か言われる。今の自分にはそれもなんだか癪に障る。助手席からすぐに降りて後部座席にまわり、そこにあった赤い傘を取り出した。そのまま開いて車の横に立つ。

 そして……鳥肌が腕から拡がり背中を駆け抜けていった……


 目の前に広がる紅――

 周り一面がまるで燃えているような艶やかな紅色に彩られている。ところどころに混じる黄色や緑もまたその紅を際立させるアクセント。

「ここは……?」

「ん? あぁ……ここは俺の実家のすぐ近くさ……。昔からここの紅葉がキレイで……一度お前にも見せてやりたかったんだ……」

 いつの間にか隣に立っていたケンジがつぶやく。後半は照れていたのか聞き取りづらかったけど、顔を見なくてもどんな顔をして言ったのか想像がつく。

「少し歩こうか……」

「うん……」

 そのまま二人で紅に染まる並木道を歩いて行く。

 サクサク……さくさく……

 道に落ちている紅葉の葉を何枚も踏んでしまう。音が気になって足元を確認すると、そこにも紅い絨毯のような一面の紅葉の葉が重なるように落ちている。そのまま視線を上に移動するとそこに見えるのもまた紅葉の葉で……でも紅い葉が雨粒の光で照らされて輝いて見えた。

「っ!!」

 何かが頭から通って体を突き抜けていく。何かは分からないけど自分の琴線に触れたような感じ。

 ――何だろうこの気持ち……

 胸の前で交差された腕が肩に触れ……そのまま自分で自分を抱きしめる。


「ど、どうした?」

「え!?」

「泣いてる……のか?」

 ケンジが驚くのも無理はない。私自身、自分で頬に手を当てて初めて気づいたのだから。

「泣いてる……私が……」

 隣でオロオロするケンジを見るのは少し可笑しかったけど、何故か……本当にどうしてかわからないけど気持ちが晴れたような気がする。

 私は視線をもう一度上へと向ける。

「うん。決めた!!」

「え!? 何を?」

「私、ここに……この町に住む事にするよ」

「そ、それって……」

「う~ん……どうかなぁ……?」


 見渡す限りに広がる山も川も紅い景色。

 それは私の世界に色が戻った瞬間だった――


お読み頂いてる皆様に感謝を。


またまた遥彼方様企画に参加してしまった頼庵です。

前回は「詩」という事で今回はSSです。

貴重なお時間をしお付き合いくださいましてありがとうございましたm(__)m


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― 新着の感想 ―
[一言] 人間たるもの、生きていると、たまに無力感に襲われますよね。 でも、その時に頼れる人が横にいて、そして鮮やかな何かが琴線に触れると、あっさり回復したりするのも、人間ですよね。 爽やかな感じが良…
[良い点] とても鮮やかな秋の景色が見えました。 鬱蒼としていた彼女の心の中を晴らしてくれる主人公の何気ない仕草が心に「ぐっ」と刺さりました。 [一言] こういう然り気無いやり取りって実に良いもので…
[一言] 変わり映えのしない日常に無気力、無感動、はたまた鬱か?と思わせる心境がよく表現されています。 彼氏との間柄も流されるままのマリッジブルーを感じていたのかも知れません。 しかし、自然の美麗さ…
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