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主人公になりたかったキミへ  作者: 夕町 迅夜
第一章 最悪最高の学校生活の幕開け
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第一章7 『二人と一人』

「すまん!遅くなった!」


「遅いわよ。時間までには集合場所に来なさい」


 オレは走って集合場所の寮前にある道へと到着した。

 久々に全力疾走したせいで多少だが息が切れる。


「悪い。思ったよりもエレベーターが混んでてな」


「まぁ、今回は許してあげる。次回からは5分前…いや、10分前行動を心がけなさい。そうすれば、遅刻することはないでしょうし」


「あぁ、今度からそうするよ。待たせるのは悪いからな」


「ちょっと待ってってば〜!」


 背後から女声が聞こえてくる。

 振り向くと阿良木がゼィゼィ言いながら、ふらふらとこちらに向かって走ってきていた。


 少し速すぎたか。


 阿良木はオレと水無月の前に来るなり、膝に両手をついて息を整え始めた。


「長谷川君速すぎ!ちょっとくらい待っててよ!」


「すまんな。完全に存在を忘れてた」


「流石に酷くない!?」


 ここまで息が切れているところを見ると、運動は得意じゃないんだろうな。


「長谷川君、彼女は?」


「さっき部屋を出る時に知り合った阿良木 葵さんだ。『街を歩く』って言ったら、『私も行きたい』と言ってきたから連れてきた」


「私、帰るわ」


「は?何言ってるんだお前」


「アナタはいいかもしれないけれど、私は出会ったばかりの人と出掛けるなんて気まずくなるから嫌よ」


「それはオレと水無月も大して変わらんだろ……」


「アナタは小学生の頃見ているもの。とにかく、私は帰る」


「ちょっと待てって」


 寮の方へ帰っていこうとする水無月を引き止め、阿良木には聞こえないように声を小さくして話す。


「阿良木を連れてきたのは協力者になれるかもしれないと思ったからだ。協力者はできるだけ多いに越したことはないだろ?」


「確かにそうだけど……彼女使えるの?とてもそうは見えないけれど」


 未だに膝に手をついて息を整えている阿良木を見ながら言ってくる。


「まだ分からない。だが、候補には入れておくべきだ。お前曰く、この学校に通う権利を得ている時点で同等のレベルなんだろ?」


「そうだったわね……分かったわ。だけど、使えないと思ったらすぐに切り捨てるから」


「あぁ、それでいい。だから、今はそれを見極める為にも一緒に行動するべきだ。いいな?」


 水無月は少しだけ迷ってから黙って渋々頷いてくれた。


「あのー、ごめん。邪魔しちゃったなら私帰るから喧嘩しないで」


 阿良木はこちらが揉めているのを気にしたのか、自分が帰ると言い出した。

 露骨に落ち込んでいる。


「いや、大丈夫だ。水無月は説得したから帰らなくていいぞ」


「えーと、阿良木さんだったかしら。ごめんなさい。良かったら一緒に回りましょ」


「え?いいの!?ありがとう!」


 阿良木は物凄く明るい笑顔になった。


 なんというか、いちいち大袈裟だな。

 小さい子供みたいだぞ。


「じゃあ、行きましょうか」


「うん!」


 右からオレ、水無月、阿良木の順で3人並んで街がある方向へと歩き出した。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「すげぇ…」


 改めてそう思った。

 デパートやスーパー、高層ビルにタワー。

 東京の都市部と何ら変わらないレベルの街並みが目の前に広がっていた。


 入学式の説明の時、校長が言っていたが、この小島には日本代表選抜高等学校に通っているオレ達新入生と、既に代表になった2,3年生と、この島で働いている人達しかいないそうだ。

 だが、周囲には多くの人々が街を歩いている。

 おそらく、この街で働いている人達も仕事が休日の時はこの街で普通に生活をしているのだろう。

 そのおかげで、だだっ広い立派な街中に数人の生徒しか居ないなんていう、おかしな状況にはなっていない。

 普通の街とほとんど同じだ。


 改めて言うが

 一体どれだけの金がかかってるんだよ……

 本当に今日1日で何回思ったか分からないな。

 凄いと思うのと同時に金のことを考えてしまって絶句してしまう。


「とりあえず、どうする?」


「私、買い物したーい!」


 そんなことを思っているオレをよそに水無月と阿良木は勝手に盛り上がっていた。


「買い物もいいが、先に飯食わないか?」


 2日間寝っぱなしで起きて腹に入れたのが、固形のバランス栄養食と缶コーヒーとジュースだけ。

 昼にはまだ早いが、流石に限界だ。

 しっかりとしたご飯が食いたい。


「そうね。私もお腹が空いたわ」


「そういえば、私も〜。じゃあ、どこで食べる?」


 同意を得れたところで、周りを見渡して店を探す。


「あそこの、牛丼屋で良くないか?早く食えるし」


 それを口に出した瞬間、2人の気分が明らかに下がったのが分かった。

 ミスったな……


「それはちょっと……ね?」


「だねー……」


 2人とも辞めて!

 そんなゴミを見るような目でオレを見ないで!


 2つの冷たい視線に冷や汗を流しながら、急いで別の店を探す。


「す……すまん。じゃあ、そこのお好み焼き屋はどうだ?」


「うん!それならいいよ!」


「私もそれでいいわ」


 訳が分からん……

 お好み焼き屋と牛丼屋でなんの違いがあるんだ?

 どちらともファストフードだろうが。


 納得いかなかったが2人の言う通りお好み焼き屋に入ることにした。

 席に座り、注文を済ませる。


 正直、お好み焼きは出来上がるのに時間がかかるし、1つが余り大きくないから今は少し気分では無い。


 でも……


 正面にいる水無月と阿良木に目を向けると、2人とも笑い合って会話をしている。


 まぁ、2人が楽しそうならそれでいいか……


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