第二章1 『戦前の平和1』
日付:5月1日
時刻:午前8時13分
「ふぁ〜ぁ」
今日も安定して眠い……
半開きの目をこすりながら速くもなく、遅くもないペースで歩を進める。
今は学校へ登校している最中だ。
寮から学校までの約200メートルの道のりを登校中の他生徒に紛れて1人で淡々と歩いている。
今は5月、この学校に入学したあの日から約ひと月が経過した。
未だに学校側からの試験は開始されておらず、基本的には普通に高校生活を送っている。
だが、このひと月で電子マネーを増やすことが出来ず、残金が0円になった生徒が16名出た。
その16名の生徒達はこの学校のルールに則り残念ながら退学となった。
もちろん、オレはその16名の中には含まれていない。
オレはカジノ『ビリオネア』、水無月と阿良木は街でのバイトで電子マネーを増やすのに成功し、生き延びている。
水無月と阿良木の2人にはオレがカジノで電子マネーを増やしているとは言えず、効率のいいバイトを見つけたと言って隠すことにした。
あの日、オレは金田とのポーカー勝負で、50万もの大金を一夜で手にいれた。
今はその金を少しずつ使ってひっそりと生活をしている。
学生の1人暮らしなら普通に暮らしても4ヶ月以上は余裕でもつ。
この先何があるか分からない現状、むやみに金を消費するのはいい選択とは言えない。
貯金しておいて損は無いだろう。
それにしても、電子マネーの増やし方を見つけるのは案外簡単だった。
入学式当日に3人で街を歩いた時にも気づいたが、街中にはバイト募集の張り紙がたくさん張り出されており、中にはビラを配って勧誘している人なんかもいた。
どこの張り紙やビラを見ても
時給:電子マネー□□□□円分
先着〇名まで
のように時給と人数制限が必ず記載されている。
時給が電子マネー単位で書かれているし、生徒が学校生活を送りながら不自由なく生活できるように時給がありえないほど高い。
バイトは一番見つけやすい稼ぎ場だ。
それもあり、現在、大半の生徒はバイトをして電子マネーを稼いでいる。
だが、どのバイト先も人数制限を記載しているところを見ると、何人かは分からないがバイトが出来る生徒の数にも上限があるのだろう。
バイト以外にも稼ぐ方法はある。
カジノ『ビリオネア』がその1つだ。
オレのようにバイト以外の何らかの方法で電子マネーを稼ぐのに成功している生徒もいるはずだ。
バイトの人数上限から溢れ、その他の稼ぎ方を見つけられなかった者。
それが今回の脱落者16名ということだろう。
どの道、こんな序盤で脱落するということは、これまで脱落した64名の生徒はその程度の人間だ。
日本代表になる器じゃない。
これで初め200名だったはずの新入生は、このひと月で136名まで減った。
約3分の1の生徒が消えた事になる。
学校側が1年かけてふるい落としを行うと言っていたところから察するに、これから先は少しずつ人数を削っていくのだろう。
入学式の日のように1度に40名以上が脱落する可能性は低い。
ここからが本番だ。
これから1年間、生徒同士の代表をかけた蹴落とし合いが始まる……
「長谷川君おはよー!」
人が心の中で決心を新たにしているというのに後ろから全く空気の読めない明るい声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、阿良木がこちらに向かって右手を挙げながら走ってきている。
やめてくれ。
周りの視線が痛い……(特に男からの)
「あぁ、おはよう。朝から元気だなお前は」
少しして阿良木がオレに追いつき、横並びになって歩きながら会話を始めた。
「逆に長谷川君は暗いね!」
「……お前、暗いとか直接本人に笑顔を向けてよく言えるな。人間性を疑うぞ」
「本当のこと言っただけじゃん」
「真実は人を傷つけるって知らないのか?」
「で、どうかしたの?暗いけど」
ガン無視かよ……
「だって今日は月曜日だろ?これから今日も合わせて5日間もまた学校に通ってどうでもいい授業を受けるのかと思うと気が重くなるだろ普通」
「そんなこと毎週考えてるの?根暗だなぁ」
「いい加減しつこいから暗いと言うのをやめろ。お前はそういうの思わないのか?」
「だって、学校楽しくない?友達とおしゃべりしたり出来るじゃん」
「よくそんなこと言えるな。このひと月で64人が退学になったんだぞ?」
「確かに同じ学校の人がいなくなるのは悲しいけど、その退学になった64人の中に私が仲良くなった子は1人も入ってなかったからかな。普通に今の所は学校生活が楽しいよ」
「それはよかったな。まぁ、オレはお前と違って今のところ友達がいなくて、いつも学校でボッチだから学校が楽しい所だとは思えないな。家にいた方が遥かに楽しい」
これは本心だ。
学校に通い始めて約ひと月、オレには友人と言える人間が1人もできなかった。
友達作りに失敗し、只今ボッチルート独走中。
てか、元引きこもりが友達作る難易度はなかなか高いと思うんだけどな……
そんなことを話しながら思っていたが、会話が突然そこで終わった。
阿良木が立ち止まって何も話さなくなったのだ。
オレも足を止め、阿良木の方へ視線を向けるとこちらを睨んでいた。
「な、なんだ?」
「今言ったこと本気?」
「今言ったこと?」
「『友達がいないボッチ』ってところ」
「……」
オレは何も答えることが出来ず、阿良木から目を背けようとするが、阿良木はそれを逃がすまいとして詰め寄ってくる。
今まで見たことないほど真剣な目をしていた。
軽く怒っているようにも見える。
こんな阿良木は初めて見た。
「いい?前にも言ったけど、少なくとも私は長谷川君を友達だと思ってる。だから、こうやって今も話してる。私だけじゃなくて水無月さんもそう思ってるはずだよ。だから、長谷川君は友達がいないボッチなんかじゃない。分かった?」
「……なんかすまん」
「分かってくれたならいいよ!」
先程とは態度が一転し、曇りのないとても明るく優しい笑顔を向けてきた。
オレはその笑顔を見て、改めて阿良木はとても優しい人間なんだと実感した。




