8.合コン
この辺りから奈緒と翔の関係が変化していきます。
よかったら読んでください☆
8.合コン
「奈緒その髪型超カワイイ」
夜の七時。
加奈がお化粧バッチリの顔で微笑みかける。
「奈緒、今日はタカシに頼んでイイ男を集めてもらったから。N高だよ?!頭良し、顔良しって、もう言うことないし!しっかり彼氏ゲットしなきゃね」
「うん、ありがと」
興奮気味の小百合。今日は三対三のコンパなのだ。
「でもさ、奈緒から合コンしたいなんて初めてじゃない?」
「そ、そうかな?」
なんだかもう、ちょっぴり疲れちゃったんだよね。翔ちゃんを想い続けるのが。
私も彼氏とか作ったら、忘れられるかなって思ってさ。
「あ、来た。あれじゃない?あの三人組。」
手を振る小百合に向こうも気がついたみたいで、爽やかに笑いながらこちらへやって来る。
三人とも、育ちの良さそうな、エリート王子様。
出会えたところで、近くのイタリアンレストランへ。
通されたテーブルに適当に向かい合って座る。少し賑やかな、でも煩すぎない、感じのいい店内だった。
まず、自己紹介を軽くして、運ばれてきた料理を食べながらお互いの学校のことなどを喋る。
相手の子たちは、頭も良くてお金持ちで、その上かっこいいのに、そんなこと全く鼻にかけることなんてなくて、本当に好感の持てる人たちばかりだった。
「ぺペロンチーノお持ちしましたあ」
ん?どこかで聞いた声。
ふと顔を上げるとそこにはウエイター姿の翔ちゃんが。
「あ」
「あ」
こういう場では会いたくなかった。
「中村くんじゃん。なに?ここでバイトしてんの?」
「違う違う。今日はちょっとダチに頼まれて代理」
「そっかあ。おつかれえ」
少し長めの茶色い前髪が、ピシッとした制服とはちょっぴりミスマッチで、なんだか翔ちゃんらしいなって思った。
「てか桜井も藤井も超キレイ。合コン中?」
「そうだよ。中村くんだってその制服かなりイケてるよお」
「さんきゅー」
やっぱり女の子の扱いに慣れてるなあとか思って、ため息を小さく吐いたとき、ふと翔ちゃんがこっちを向いて目が合った。
「てか奈緒が合コンとか。普段色気ねえからなんかおかしいかも」
ふっと鼻で笑うように、翔ちゃんは言った。
「髪型とか、かなり気合入ってんじゃん?」
面白がる口調とは反対に、細められた目はなんだかすごく冷たくて。
なんで、そんなこと言うの?
恥ずかしくて、なんだか居た堪れなくて、思わず目を瞑り下を向く。
ああ、もう最悪。
翔ちゃんに言われたことで、更にキツい。
「僕は、普段からお洒落に気をつかってる子も良いと思うけど、特別な日にだけ頑張る子も可愛いと思うな」
その言葉にぱっと顔を上げる。
目の前に座ってるN高の王子様。西田くんっていったっけ。
「それに、相模さんはすごく魅力的だと思うけど」
優しく微笑む西田君に、思わず赤面してしまう。
「ご注文は以上でお揃いですか。では、ごゆっくりどうぞ」
いきなり翔ちゃんは営業の顔に戻って、伝票だけ置いてさっさと厨房の方へともどっていってしまった。
それから皆でまた色々喋って、十時くらいに今日はこれでオヒラキにしようかってなった。
店を出て、それぞれ帰り道に別れる。私は西田くんと同じ方向だった。
夜の道で二人並んで歩く。
「相模さんって、彼氏とかいないの?」
「いないよ。いたら合コンとかしないって」
「え〜こんなに可愛いのに」
「もお。何にも出ないよ?」
「今日さ、もうどっかに泊まってかない?」
「え?」
泊まるって?え?
「シたい。相模さんと」
・・・。
するって何を、なんて聞かない。こんな展開でやることって言ったら、一つしかないじゃん。
「え。ごめん。今日はもう帰らなきゃ」
「いいじゃん。金ならあるからさ」
「ごめん、ほんと無理・・・」
なんか怖くなって離れようとしたら、腕をぐいと掴れた。
「嫌な思いとかさせないからさあ」
「やだってば、」
「なあにやってんの?」
ばっと声のほうを向く。
「翔・・・ちゃん・・・」
「なんだよ。邪魔すんなよ」
「そいつはやめといたほうがいいって。しっかり見てみ?胸とかまったくないじゃん。絶対満足できないって」
・・・ちょっと傷つくんですけど。
「は?おまえには関係ないだろ。どっか行けよ。」
そう言って、私の腕を掴む西田君の腕が更に強くなる。
はあー、とため息を一回。
その後翔ちゃんはズカズカとこちらへ歩いてきて、
がつん。
西田君が顎を押さえてしゃがみこむ。
「やめろっつってんだから、一回ではなせや、このヤロオ」
西田君がギッと睨んだが、翔ちゃんの方が強かったみたいで、目が合うなりぱっと向こうを向いてしまった。
「ほら、帰るぞ、奈緒」
ぎゅっと手を握られて、思わずドキリとする。
ごめんね、と小さく呟いて、私も西田君に背を向けた。
「お前、馬鹿か。夜道で男と二人きりになって何考えてんだよ」
「だって・・・」
「それとも、ほんとは襲って欲しかったとか?」
「な・・・!そんなわけないでしょ!すっごく、怖かったんだから・・・」
思わず涙が溢れて、足を止めてしまった。翔ちゃんも、ぴたりと進むのを止める。
手は、つないだまま。
「ごめん。悪かったよ」
「・・・ううん。助けてくれて、ありがと」
そして再び歩き出す。
「もう合コンなんてすんなよ。男なんてみんなあんなんだから」
自分だって、何回もしてるくせに。
「合コンなんかじゃなくて、もっと自然に好きな奴ができるの待てよ」
「・・・好きな人くらい、もういるもん」
そう言ったとたん、今度は翔ちゃんが足を止める。後ろを歩いていた私は、思わず翔ちゃんの背中にぶつかってしまった。
「いた・・・」
「・・・だれ、それ」
「え?」
「お前が好きなのって、誰だよ」
「い、いえるわけないじゃん!そんなの、翔ちゃんには言えないよ」
言ったら翔ちゃん、私のこと嫌いになっちゃうでしょ?
「・・・こっから、一人で帰れるだろ」
するりと離れていく翔ちゃんの手。ばっと踵を返して、再び街の方へと歩いていく翔ちゃん。
「え?ちょっと!翔ちゃん?!」
私、何か変なこと言った?
私の声に振り向くことなく、そのまま遠くへと消えてしまった。
今までつないでいた右手を見る。そこだけ、ぼうっと熱をもっているみたいに熱い。
でも今は夜の空気に晒されて、すうっと冷たくなっていく。
涼しい夏だなって思う。
翔ちゃん、好きな人は、翔ちゃんだよ。
ちょっと優しくされて、ずっと手をつないでいられるような気がして、だから余計寂しくなるの。
気づかれてないよね?
ちゃんと、ただの幼馴染でいられてるよね?
たまに不安になる。
この気持ちに気づかれてしまったら、きっと翔ちゃんは私から離れて行ってしまうから。
私の右手には、もう翔ちゃんの手の感触はほとんど残っていなかった。
どうも。
木村よしです。
ここまでいくつかの短編の集まりって感じでしたね汗。
でも一応、ここから物語が発展していく予定です!
小説連載続けていけるのは、皆様がよしの作品を読んで下さるからです。
ここまで読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
これからも『翔ちゃんによろしく』をどうぞよろしくお願いいたします。