6.パラソル
6.パラソル
七月に入った。
なかなか梅雨が明け切らず、どんよりとした雨降りが続く。
放課後、靴を履き替えていると翔ちゃんに会った。
「あ、翔ちゃん」
「よう。帰んの?」
「うん。翔ちゃんは?」
「俺も」
もうすぐ期末テストが始まるから、図書室で勉強してから帰る人も結構多い。
でも、私も翔ちゃんも、家以外で勉強するのはあまり好きじゃない(というか、勉強が好きじゃない)。
お互い一人だったから、一緒に帰ることにした。
サアサアと、細かいミストのような雨が降っている。
「雨、止まねえな」
「そうだねえ」
言いながら傘を広げる。
私の傘はパステルピンクで、翔ちゃんのは飾りっ気の無い紺色だった。
並んで歩くと、いかにも女の子と男の子という感じになるんだろうなと思い、ちょっぴり嬉しくなる。
雨が、二つの傘を優しく叩く。
「翔ちゃんテスト勉強してる?」
「当たり前」
「えーしないでよ」
「嫌だね」
「ま、翔ちゃん、今度赤点取ったら古典ヤバいもんね」
「・・・」
翔ちゃんは古典が大の苦手なのだ。
「でも、テスト終ったら夏休みだ」
「・・・そうだな」
「翔ちゃん、夏休みどっか行ったりするの?」
「んー、ばあちゃん家くらいかなあ。お盆にな。奈緒は?」
「わかんない。でもたぶんどっか行くと思う」
「そっか」
「うん」
少しの間会話が途切れる。
でも、この何も話していない時間も結構好きで。
翔ちゃんの方をちらりと見ると、紺色の傘だけしか見えなかった。
「祭り、一緒に行くか?」
「え?」
いきなりで、少しびっくりする。
「テスト終った日の夜に花火大会あるだろ」
「そうなの?」
「なに、お前知らないのかよ」
おくれてんな〜と得意げに笑う翔ちゃん。
軽く馬鹿にされているけれど、やっぱりすごく嬉しくて。
「で、どうすんだよ」
「行く!」
「よし」
テスト、がんばらなきゃな。
早く終ってくれないかな。
急に楽しくなって、少しだけ翔ちゃんに近づいた。
すると、ポンと傘同士が当たって。
「ごめん」と言って、またもとの場所に戻った。
一定の距離をはさんで歩く、私と翔ちゃん。
雨、早くやまないかな。