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13.菊池くん


13.菊池くん


はあ。



これで何回目のため息だろう。


モモちゃんから預かった手紙とにらめっこ。



今日も部活で学校に来ていて。


午後六時をまわった今、校内には、もうほとんど誰もいない。



あれから三日経ったけれど、手紙はまだ渡せていない。


いや、できればこのまま渡したくないんだけど。



最近、翔ちゃんを見かけない。



夏休みの補習にもほとんど顔を出していないらしくて。



どうしたんだろう、とか思ってしまったり。



たとえ姿を見かけたとしても、前みたいに気軽に話しかけることなんてできないのに。



ヒグラシの声だけが、静かに響いている。



私もそろそろ帰ろうかなと、鞄に手紙を閉まったとき、ガラリと教室の扉が開いた。



「あれ、相模先輩まだいたんですか」



そこには、きょとんとした顔で立っている菊池くん。



菊池忠義。


菊池くん。現在一年生の、これまた料理部の後輩。



「菊池くん」



「俺、今から帰るところで、たまたまこの教室の前通りかかったら先輩がいて。勉強ですか?」



菊池くんは、翔ちゃんと違って結構真面目だったりする。



「ううん、ちがうちがう。ちょっとね、忘れ物」



モモちゃんからラブレターを預かっているとは、やっぱり言わないほうがいい。



「もうこんな時間。早く帰んなくちゃ、すぐに暗くなっちゃうね」



言いながら、菊池くんの立っている扉の方へ歩いていくと、ぎゅっと腕を掴まれた。



少し驚いて、菊池くんの顔を見る。



「菊池、くん?」



「相模先輩。少しだけ、いいですか?」



夕焼けに染まる菊池くんの表情が、あまりにも真剣で。



なぜか喉が渇いたように、ごくり、と音がした。



菊池くんは、後輩で。


モモちゃんと同様、私の可愛い後輩で。



ただ、それだけだったのに。



それでも、今はじめて、目線を合わせるには見上げるしかないってことに気がついて。



菊池くんは、私とはちがう、男の子なんだって。



だから、私の腕を掴む手は、こんなにも大きくて。



思わず、下を向いた。



「先輩」



「・・・なに?」



「先輩は、中村翔って人の恋人なんですか?」



モモちゃんも菊池くんも。



私と翔ちゃんって、周りにはそんな風に映っていたのかな。



でもこのことを聞いたら、きっと翔ちゃんは馬鹿にしたように笑うんだろうな。



「そんなわけ、ないじゃん。ただの、幼馴染だから」


「じゃあ」



私の腕を掴む力が、少しだけ強くなる。



「俺と付き合ってください」



ヒグラシの声だけが、ただ、響いていた。



「・・・」



ねえ、私はどうしたらいいの?



「相模先輩、ずっと好きでした」



このまま、菊池くんにすがりついてしまえたら、どんなに楽だろうと。



「・・・ありがとう」



翔ちゃんのことを忘れられたら、もう泣くことなんてないのにと。



「でも・・・ごめん」



もう、翔ちゃんのことを想い続けていても、その先には何もないというのに。



「少し、考えさせてほしい」



そう思っても、それじゃあきっと幸せになれないなんて。



そんなふうに感じるのは、



ねえ、翔ちゃん。




どうして?




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