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12.モモちゃん


12.モモちゃん


シャカシャカシャカシャカ



今さっきの部活で使ったお鍋を洗う。



菊池くんが少し焦がしてしまって。


なかなか落ちないじゃない。



「奈緒先輩!」


「わっ!」



背後からいきなり、にゅっと後輩のモモちゃんが現れて、びっくりして思わずスポンジを落としそうになる。



「どうしたんですか〜?そんなコワイ顔しちゃって」



「え?コワイ顔してた?私」



「はい。ものすご〜く」



金井桃香。

モモちゃん。


一つ年下の料理部の後輩。



モモちゃんはいっつも明るくて。


そんなモモちゃんを見ていると、少しだけ元気になる。



「先輩最近元気ないから・・・モモ心配だなあ」



「大丈夫だよ。何にもないから」



「悩みとかあったら、絶対モモに相談してくださいね!」



「はあい。ありがとね、モモちゃん」



「いいえ!モモは奈緒先輩大好きですから!」



ああ、もう!モモちゃんは可愛いなあ!



「私も大好きよ、モモちゃん」



「ほんとですか?じゃあ、ちょっと先輩に頼みたいことあるんですけど〜」



いきなり上目遣いになるモモちゃん。



調子がいいとはこういうことを言うのね。



「なあに?モモちゃん」



「奈緒先輩って、中村先輩と幼馴染ですよね?」



「え・・・」



中村。中村翔。翔ちゃん。



その名前を聞いて、思わず表情が曇る。



あれから、一度も翔ちゃんとは喋っていない。



たまに見掛けることはあっても、どうしても呼びかけることができなかった。



だから、今はあんまり翔ちゃんのことを思い出さないようにしていたのに。



「そこで、コレ!中村先輩に渡して欲しいんです!」



モモちゃんは、ポケットから一枚の手紙を取り出して私に差し出した。



「これは・・・」



「いわゆるラブレターってやつです」



照れる様に笑うモモちゃんは、女の私からみてもすごく可愛くて。



だから尚更、複雑な気持ちになる。



「モモは実は、中村先輩に一目惚れしちゃいました!」



そう言うモモちゃんはひどく幸せそうで。



恋してますってかんじで。



私も、翔ちゃんのことが好きなんだよ。



だから、ごめんって。



そう言いたいのに。



言えない。



言えないよ。



断る理由なんて、私には無いんだから。



「私・・・」



「先輩?渡してくれないんですか?」



急に悲しそうな目で私を見てくる。



まるで子犬のように。



私が到底敵いっこないくらい、大きな可愛らしい瞳をしていて。



「・・・わかった。いつになるか、わからないけど・・・」



「わ〜!ありがと、先輩!やっぱり奈緒先輩って超優しい!」



言いながら、ギュッと抱きついてくるモモちゃん。



「中村先輩、OKしてくれるといいな」



モモちゃん、ごめんね。



やっぱり応援はできないけど。



でももしかしたら、翔ちゃんはモモちゃんを好きになって、二人が付き合うことになるかもしれない。



そしたら、その時はちゃんと、おめでとって言ってあげなきゃ。



それまでに、少し時間がかかるかもしれないけれど。



また、前みたいに『翔ちゃん』って呼べる日がきたら。



笑顔で、おめでとうって。




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