鼻毛とたかやす
たかやすに鼻毛が出ていること伝えたい。ぼくは、たかやすを見つめる。たかやすも、ぼくを見つめる。ぼくたちは、見つめあった。風の音さえ聞こえない。恥ずかしくなって、ぼくは思わず目をそらした。たかやすは、まだ見ているだろうか。すこし、たかやすを見る。見てる。微動だにせずぼくを見つめている。
「た、たかやす。は、鼻毛でてるぜ。」
気まずさから、つい言葉が、漏れた。そしてまたすこし、たかやすを見る。たかやすは、鼻毛を指摘されたにもかかわらず、微動だにせずぼくを見つめていた。そしてぼくは、気づいた。近づいている。たかやすは、だんだんぼくに近づいてきているのだ。いつの間にか、たかやすの鼻息が聞こえるくらいまでぼくとの距離を縮めてきた。怖くなってきた。鼓動が、早くなるのを感じる。近い、近すぎる。なぜ向こうは、何も言わないのだろうか。怖い。たかやすとは、何者なんだ。そしてもう、まさに目と鼻の先にたかやすがいた。もう、目をあわさないわけにはいかなくなった。ぼくがもう一度、たかやすと向き合ったときたかやすの鼻に鼻毛は、なかった。いつだ。いつとったのだ。怖い。というよりも近い。向き合ったために鼻があたっている。突然、たかやすが口を開いた。ぼくは、怖くなって踵を返し逃げた。少しして振り返るとたかやすは、いなかった。