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夜の帳が落ち月が己の存在を主張し始める頃。

月明かりの中、影が舞い踊り。

風と木の打ち合う音が戦慄を奏でる。

風を切る音はより鋭く、打ち合う音はより大きく、舞い踊る影はより激しく時が立つほどにそのボルテージを上げていく。

カーン。

一際大きな音をフィナーレに夜は静寂を取り戻した。

「だぁー、また負けた。」

打ち飛ばされた木刀を見送った俺は、そのまま寝っ転がり、荒い息を整えていく。

「これでも僕は、この城でも強い部類だよ。まだまだ君には負けないさ。」

笑ながらそう言うのはトレイン。

最初にクロエに俺を引き渡した男だ。

「俺は強くなれているのかな?」

何度やっても縮まる気のしない差に思わず呟いてしまう。

「強くはなってるさ。君は意外とナイーブだよね、精神の修行でもしてみたらどうだい。」

とトレインに笑われた。

世界を変えると誓ったのに何一つ変えられてないし、変える方法の思いつかない。

今出来るのは、ただ鍛えるだけしかも強くなってる気もしない。

そりゃナイーブにもなるさ。

ため息をつきそうになるが、またからかわれ兼ねないのね無理やりため息を飲み込む。

「そういえば、君の剣筋物どんどん無駄が無くなっていってるけど何を手本にしてるの?」

手本ね~、そういや最近反射的に動いてるな。

手本という意味だと剣を振るおうとすると浮かんでくる、誰とも知れない鋭く美しいとも思える剣筋。

「いや、妙に頭に残ってる剣筋を追ってる。何となくその方がいい気がして。」

「その妙に頭に残った剣筋って誰の剣筋か覚えてる?」

「いや、思いだせないんだよなこれが」

頭をかき、トレインにこぼす様に応える。

「ならその誰かに感謝しないとね。その誰かは多分僕より強いんじゃないかな?」

「親父の剣筋とも違うし、剣筋を見たなら今まで闘って来た奴だろ。お前より強いなんて有り得ねよ。」

笑いながら言うトレインにそう返す。

「そうかな?」

そう言ってまた笑った。

本当によく笑う奴だ。

そういや、始めてあった時もニヤケ面だったな。

そういや、俺は剣闘士し出した時追ってた剣筋は、親父の剣筋だったはず、いつからこの剣筋を追いかけてた?

誰の剣筋だ?

どうしても思い出せない。

思考に沈む俺を黙って無表情で見てるトレインに気づき思考を止める。

それに気づいたのかトレインはまた笑顔で返りを促してきた。

「疲れもある程度取れたなら部屋に帰った方がいいんじゃないかな?またクロエに怒られるよ。もう二時間過ぎてるからね。」

「なっお前気づいてたなら教えろよ。」

慌てて片付ける俺に

「だってそっちの方が面白そうだからね」

トレインは、自分が面白いと思えば何だってする、俺がこう訓練出きるのも、ため口を聞けるのもトレインが面白いと許しているからだ。これだけその性格で利益を受けておいて不利益を受けると面白くないと思うのはよくないとは分かっているがこれから受ける不利益を思うとやっぱり面白くない。

「地獄に落ちろ。」

俺の返答にトレインは大声で笑っていた。

部屋に帰ると鬼がいた。

その日の勉強会は、説教で終わる事になった。


もし妹の事がなければ。

もし約束がなければ。

もし気高い親父の生き方を知らなければ。

きっと俺はここで幸せに生きれたと思う。

トレインは、人をからかうのが趣味みたいな変人だけど気のいいやつで。

クロエは、口うるさく奴隷として扱おうとするが奴隷扱いしきれない優しい奴だ。

飯も美味いし、命の危険もない。

トレインが言うなら強くもなってるのだろう。

それでも

俺には救いたい妹がいる。

交わした約束がある。

尊敬出きるの親父の生きざまを知っている。

だから俺は、俺一人ここで幸せに生きられない。


学んで分かった事がある。

何の知識も特別な力もない奴隷が王に示せる得なんてそうそうない。

王城の兵、全てを敵に回して勝つなんてできっこない。

それでも王に大きな損を提示することは出来る。


この国の王族は腐っている。

噂通り我が儘な王女。

傲慢で無慈悲な王子。

王家の発展しか考えない王に。

着飾る事しか頭のない王妃。

そして最近分かった事が2つある。

王女と王子の仲は悪い。

そして奴隷は主人の家族を傷つけられないがおそらく家族の定義は、主人が家族だと認識し、傷つけさせないよう思う事。

何故ならこの間、王子の奴隷の娘が王女を罵倒し、あまつさえ、暴行に及んだ。

その後、王女により罰せられたが奴隷刻印は発動しなかった。

王女と反目しあっている王子なら俺でも傷つける事が出来る。

そして先の一件で皆がその事を予想出来る。

王子の命を盾に変えさせる。

親父の生き方とは似ても似つかない卑怯な交渉。

それでも憧れの生き方を捨てたとしても変えたい世界があるし、救いたい人もいる。

ただ俺が行動を起こせば俺に勉強を教えているクロエや訓練を手伝ってくれているトレインにも共犯の疑いが掛かるかも知れない。

トレインは、あの強さだ俺を止める為に動くだろうが非戦闘員のクロエは明確に俺と敵対する事が出来ない。

恩を仇で返す事になってももう止められない。

これ以上耐えられない。



何時もと変わらない日。

いつもと変わらない自分を演じる。

クロエはいつもと変わらず真面目に俺に勉強を教えてくれる。

罪悪感が胸を襲う。

もう止めろ。

恩を仇で返してまでする事か。

もっといい方法があるんじゃないのか。

様々な否定的な感情が胸を満たす。

それでも無理やり躊躇いを振り払う。

「そういえば、初めて会った時、俺を変態と言ったよな。生理反応って言ったけどずっと犯してやりたいと思ってたんだよ。」

俺はクロエに飛び掛かり腕を拘束する。

……何の反応も示さないクロエ。

もしかして冗談だと思っているのか?

一瞬躊躇ったが無理やりクロエの胸元を破いた。

……まだ何の反応も示さない。

見るわけにもいかず目を逸らす。

「…変態。」

なんで抵抗しない。もしかして

「私を襲って抵抗され、自棄になり王子を人質に王と端からの目的を交渉?」

違う。そうですか。っていやなんでばれた。

「王女と奴隷の事件の後でこんなことされれば誰でも分かると思うけど。襲う振りは最低限迷惑はかけないようにって?絶対失敗しますよ。そもそも王女様に命令された時点で終了でしょ」

ジト目でいうクロエの耳元で

「王女様は、今夜はよく眠りたいから藥でぐっすり寝てるよ。今日ぐっすり寝てると嫌い王子が不幸な目に会うと言ったら侍女に藥を頼んでいたからな。」

クロエをベッドの方へ突飛ばし王子の部屋を目指してかけていく。

王子の部屋の前に護衛はいるだろうと思ってはいたけど王子の護衛はよりにもよってトレインともう一人一番始めに威圧だけで俺が手も足も出せなかった騎士までいた。

それでも別に闘って倒す必要はないんだ、二人を掻い潜り、王子を人質にすればいいだけ。

そう自分を鼓舞するがそれがどれ程難しい事か理解している。

「いい夜だね。散歩かい?ジャック。」

トレインはいつもと同じ笑顔で軽口を叩いてくるが、それを無視して走り抜けようとした瞬間、初めて会った時の威圧と比べ物にならないほど

威圧が動きを鈍らせるが地に伏すこともなく走れている。

「まだまだ君には負けないと言ったよね。それは、王子を守りながらという状況でも変わらないよ。例え僕らがどちらか一人でも結果は変わりはしなかっただろうね。」

目の前にいたトレインの姿がかき消えたと思った瞬間俺の意識は暗転した。



走り去っていったジャックを追って王子の部屋を目指すがスピードが違いすぎて、追いつけない。

このままだとジャックは、無意味に殺される。

王女様の一件以来、王子の護衛にネルク様とトレイン様にこの城でも一二を争う実力者が二人もついているのだ。

勝てるはずがない。

いくら奴隷だといっても親しくしている人が死ぬのは辛い。

死なせたくない。

そう思い角を曲がると倒れているジャックと今にも剣を降り下ろそうとするネルク様の姿が見えた。

いや、いや。

やめて。

それを声にする前に別の声が割って入った。

「あら、ネルク、私の奴隷に何をするのかしら?」

王女様?

寝てるんじゃ?

もしかしてジャックは助かるの?

「この者が王子に危害を加えようとしていたため処分しようとしていました。」

「あら、何故王子に危害を加える前に処分するの?」

「危害を加えようとしただけでも重罪ですゆえ」

「不公平じゃない私は叩かれたというのにお兄様は叩かれない等と」

「シエラ様に傷を負わせたのは我らの不徳の致すところです。ですがその事で王子を危険に晒すわけにはいけませんゆえ。」

王女様とネルク様の会話が続いてそのなりゆきを見守っていると唐突に

「お兄様は叩かれないその事に納得しろと?そう。その剣を貸して下さる?」

そう言い剣を借り受けると、

「お兄様に傷をつける前に倒されるなんて役に立たない奴隷ね。」

そう言うと自らの鬱憤を晴らすよう何度も何度も何度もジャックの身体に剣を突き刺していく。

余り突然で凄惨な光景に悲鳴をあげる事も目を反らす事も出来ない。

「シエラ様お戯れも程ほどになさいませ。」

詰まらなそうにそう言い捨てるネルク様に。

「私に本気になれと?本気で全てを壊せとでも?」

恐ろしくも美しい笑みを浮かべる王女様。

ようやく戻ってきた思考能力は、理解したくもない今の状況を理解させた。

「いやー、ジャック。」

ジャックの元に駆け寄り何度も揺するが、ジャックは返事を返さない。

いや、いやと今の状況を必死に否定する。

それでも何も変わらない。

王女様の視線がこちらに向く。

「あら、恋人がいたの?それでは一人で死なすのも可哀想ね。一緒に死んであげなさい。」

王女様は笑いながらそう言うと私に剣を降り下ろした。

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