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「必ずこの国を変えてみせる。誰もが笑って暮らせる国に変えてみせる。だから…」

少年は襤褸を纏い、鎖に手足を繋がれ。その背中には反逆を赦す事の無い奴隷刻印が紅く輝いている。

その姿を見れば愚かな奴隷が、身の程を考えず、若しくは現実を認めず吐いた妄言にしか思えないであろう。

それでも。

それでも少女は、泣きそうな笑顔で応える。

「うん、お兄ちゃんを信じてる。私も負けない。皆が笑える世界になったらまた逢いましょう。そしたらお父様達が居たときみたいにもう一度抱き締めてね。」

負けない。

その言葉は重かった。

少女も少年と同じく襤褸を纏い、手足を繋がれ、奴隷刻印を刻まれている。

その事から奴隷であることは簡単に分かる。

少女は、お兄ちゃんと呼ばれた少年によく似て美しく、これからの運命は分かりきっていた。

この国では奴隷は、人間として扱われない。

家畜。金持ちの玩具でしかないのだ。

それでも負けない。

皆が笑える世界になったらという言葉に絶望の中でさえ必死に生きると意志が感じられた。


売り出される少年を連れた兵士は、その光景を見ても何も感じないのか退屈そうに少年を急かす。

それでも兵士は少しばかりの敬意ともいえぬ、家畜にしては骨があったと。

人知れず兵士の心を微かに揺すっていた。

少年の名はジャック。

貴族ながら変わりものという名なラッセル家の長男であり。

民の為に生き、恨みを買い騙されてラッセル家を没落させられ奴隷に落とされたというのに没落の原因となった父親を恨む所か尊敬しているどうしようの無い馬鹿ではあるが。

この兄妹は決して折れず穢れなかった。

少年は剣闘士として多くの勝利を重ねた。

その高潔な闘い方がいつまで続くか観客は楽しみ。

その人気により少年を闘わせる為。

美しくとも妹を売り出す事は出来なかった。

正に自らの力で望みを叶え続けたともいえる。


まぁそのせいで王城に買われて行く事になるのだから所詮身分の高い者の気紛れで叶えられていただけだがな。

いくら人気があろうと白金貨を出されれば簡単に売り出す。

所詮、剣闘で白金貨は稼げない。勝ち続ければ別だがまず死ぬし、まぁ売り出すよな。

売り出されるのは、王城だからもし王族の誰かに気に入られればなんてな。

自分の妄想に苦笑いしつつ、職務を果たすため兵士は少年を連行する事にした。


少女は、恐らく二度と逢えないであろう兄を何時までも見送っていた。


この時点で本当に世界を変えられると信じていた者は…まだ…いない。



豪奢な馬車に入れられ、王城に着いたと思えば、裏口から地下に連れて行かれた。

奴隷部屋として与えられていた牢の10倍はあろうかという地下室で少年の前に身なりのいい男が歩いて来る。

男は、少年を値踏みするかのように感情の籠らぬ物を見るかの様な眼差しを向ける。

いや、様なではなく、実際物を見ているつもりなのだろう。

「お前が王か?」

不快感を隠さず、男に聞く。

すると強烈な威圧を放たれ、立つことすら出来なくなる。

「王が貴様程度の者に会う筈がなかろう。貴様も元は貴族だったのならば家畜に成り下がったとはいえ、言葉使いくらい気をつけろ。」

これだけの威圧を放ちながら何の感情も籠らぬ目に薄気味悪さを感じる。

自分は強いつもりだった。けれど今の自分ではこの男に敵わない。

それどころか威圧のせいで声すら出せない。

それでも俺は強くなろうと思った。

正しい事を正しく貫ける様にだからこんな所で転がってられない。

想いを燃やす。

それでも威圧を跳ね退ける事は出来なかった。

歯を食い縛り威圧を感じながらも己の足で立つ。

「王に伝えたい事がある。」

掠れながらも言葉を紡ぐ。

しかし返ってくる答えに感情の色はなかった。

「お前ごときの言葉は王に届かない。いつまで人間のつもりでいるんだ?お前は王女様が奴隷の使い方を覚える為の使い捨て教材でしかない。」

教材?

使い捨て?

奴隷の使い方を覚えさせる為?

そんな事の為に妹と別れさせられた。

俺が剣闘士としてそばにいれば俺が負けるまでは妹は無事でいられたのに?

頭が沸騰しそうな怒りに支配される。

「ふざけるな!」

怒りで威圧を押し退け動こうとした瞬間先程を倍する威圧に地面に押し付けられる。

手加減されていたのだ。

どうしようも無く手加減されてなお届かない。

奴隷に落とされた時、感じ妹と共に乗り越えた筈の無力感、絶望が鎌首をもたげる。

「連れていけ。」

男が言うと、この威圧の中、飄々と執事らしき男が歩いて来て、軽々と俺を持ち上げ部屋から連れ出した。

「あの程度の力では王女の前では役に立たんな。端からの予定通り教材としてしか使えんか。」

部屋を出る間際男が何かを呟いていた。

部屋を出ると執事らしき男が喋り掛けてきた。

「やるねー、奴隷が王に話があるか。世界を変えたいなら王より別の誰かの心を動かすべきだと思うけどね。」

笑いながらそういうと俺を侍女に預け去っていく。

世界を変えたいなんてまだここで言っちゃいない。

元貴族だって事もあの兵士か?

いったいどこまで伝わってんだ?

どうせなら王にまで伝わりやがれ。

王より別の誰かって誰だよ?

王女の教材って事は王女か?

あのコロッセオまで悪名の響いている。

これからの事を考え気を重くしていると、侍女がいきなり衣服を脱ぎ出した。

裸になった訳では無く、薄着に。

それでも男に見せる格好ではない。

侍女は気にせず俺の纏っていた襤褸を引き裂き俺を全裸にした。

「おい、何すんだよ!」

「入浴ですが、あの格好で王女様に会えると思っていたのですか?」

心底不思議そうに侍女が問う。

「一人で入れるだろ。そもそもその格好恥ずかしくないのかよ。」

心底呆れた視線を向けられた。

「鎖をつけたままですか?そもそもまだ王女様に血の登録されてない奴隷を一人にするとでも?鎖に繋がれた奴隷に見られたからどうなるというのですか?」

あー、本当に奴隷は、人間として扱われないのだと実感するセリフだな。

「分かったようで何よりです。」

侍女はそういうと俺を風呂に連れて行く。

そして侍女に布で身体を洗われる。

自分でも驚く程の垢が落とされる。

「変態。」

侍女がボソッと呟いた。

「生理現象だ。」

身体中を洗われた。

もちろんあれもしかも布で。

反応しないほうがおかしい。

「一応言っておきますが、血の登録をした時点で主人を傷つける事はできません。王女は、五歳で勿論処女でございます。意味は分かりますね。」

ジト目で言われた。

「生理現象だ!」

うん?でも男娼として買われる奴隷も居たような気がする。

「ちなみに処女が男娼を買う場合は登録時に例外で設定するか、奴隷商に契約の変更を願います。王女は勿論そんな事は知りませんから例外を設定しないでしょうし、王が奴隷商を城に呼ぶ事はありません。だから貴方は王女に手を出すことは出来ませんよ。」

「聞いてねーし、しねーよ!」

信じてねーし、

生理現象だ、その辺の男に聞いてみろ。

「まぁ口でとかさせようと思えばさせれますがまぁ嫁ぐとき処女であればいいので問題ないですが、まずあの王女が口でするはずないですし、させようとすれば殺されますね。」

まぁ私達は王女様が無理矢理されれば気がはれますけど

と呟いた気がした。

嫌われてんな王女。

噂は、やっぱり本当かー。

まぁ俺はこの侍女にめでたく変態認定された訳だ。

広めやがらないだろうな?

更にこれからの生活に不安要素が増えるとか勘弁してくれ。




「ここです。」

騎士が合流し、先程の侍女に連れられ王女の部屋に連れられる。

豪奢な扉を開けるとそこには…


人形染みた美しくさを持つ少女がいた。

海の波を思わせる緩やかにウェーブの掛かった黄金色の髪。

深海を思わせる深い蒼を写す瞳。

雪のように透き通った白い肌。

妹と同じくらいの年頃だろうか?

しかしやはりその瞳は、自分に対して何の感情も映していなかった。

騎士や侍女に押さえられ契約が始まる。



前はそんな事はなかったのだが契約は、やはり身体に負担があるのか軽く記憶が曖昧になっている。

こうしてうやむやの内に俺は正式に王女の奴隷となった。


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