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夢から覚める
「夢であって欲しかったなぁ」
ため息をついてしまう。
窓の外を見るともう夜になっていた。
今日は1日寝て過ごした事になる。
前世の記憶と擦り合わせるとここは、地球ではない。
魔法があり、魔物がいて、更に文明レベルが低い。
地球のしかも日本という先進国にいた私が耐えられるだろうか?
前世の私を思い出したとしても私はシエラの筈なのだけれど僅か3年程度の記憶等前世の私には全くといって良いほど影響を与えていない。
もう一度なら死んでもいいのだけど…
前世の記憶。
死の瞬間、肉体の苦痛等、児戯であるというかのようなあらゆる不快を凝縮したようなあの数瞬。
耐えようのない不快。
制御のきかない感情の奔流。
もう二度と味わいたくないが人は生まれたら死ぬしかない。
あれが死だというなら避けようがないだろう。
だからもう二度と転生などしないように考えてしななければいけない。
案外、今度死ねば転生などしないかもしれないがあの不快を思うと無闇に試したくはない。
魔法があるのなら魂その物を消し去る魔法があるかも知れない。
それを当面の目標にしよう。
そう考えてるとドアがノックされる。
朝とは、別の侍女が起きられましたらお食事をお持ちしますと言ってきた。
そうだった。
私になる前にシエラが癇癪を起こして侍女に二度と近づくなと言ったのだった。
この世界は身分社会で私は、何の因果か王女に転生している。
つまり、言いがかりでも罰せられかねないのだ。
まぁ私もあの侍女は、黒だと思うが直接私に何かしたわけでもなければ私に聞こえるように陰口を言ったわけでもない。
これで罰せられたら私の目覚めが悪い。
「あの侍女は?」
「恐らく今日中に荷物を纏めて城を出るでしょう。ご安心下さいませ。」
侍女は、ひきつった笑いを浮かべ直ぐに返事を返してきた。
「辞めさせる必要はないはどうやら私の勘違いだったみたい。」
私がそう言うと侍女は、驚きと、暫くして小さな喜びの笑みを浮かべていた。
侍女は、私の食事を素早く用意すると慌ただしくどこかへ向かった。
あの侍女は、ノーラの知り合いなのかも知れない。
ノーラとは、私が癇癪を起こした侍女である。
食事を食べ進めるが記憶通り不味い。
それを私は、美味しいと食べていたのだから知らぬとは幸せな事だと思う。
どうせ暫く生きていないといけないのなら食事改善も急務かも。
食事を下げに来たのは、恐らく侍従長で先ほどの私の発言の真偽を確かめに来たようだ。
次は、侍女達にお風呂に入れられる。
この世界は、お風呂はあるが石鹸がない。
侍女達に全身を手で洗われるが泡立たない滑りのある謎の液体を塗りたくられるのは、何かのプレイにしか思えない。
部屋に一人になりため息をつく。
私はこの世界で生きていかなくてはいけないのだろうか?
王族でこの程度の暮らし私は、耐えられるのだろうか?
私は、何故転生してしまったのだろうか?
その日は、そんな思いを胸に秘めて固いベッドで眠りついた。
翌日、シエラの記憶だけでは穴だらけの城の地図を完成させようと侍女を連れ散策して中庭を通り過ぎようとすると何かに抱きつかれた。
未熟で屈託のない笑顔。
整っているのに冷たさを感じさせない奇跡的なバランスを保った表情。
3歳の私を持ってしてもまだ小さいといえる小さな手。
太陽のようにひかる金色の髪。
空のように青い瞳。
前世でいればCMにひっぱりだこであろう幼児に抱きつかれていた。
「お姉しゃま」
弟のレオンだ。
シエラは、弟のレオンを嫌っていなかった。
でも好いてもいなかった。
ここの兄弟は、関わり合うこと自体が少ない。
前世の記憶からいうと教育にはよくはないのだと思う。
兄は私を嫌ってるし、シエラは、兄弟に興味を持っていない。
恐らく兄は王子として教育漬けで甘やかされいる私が許せないのだろう。そしてシエラは親に見てもらおうと必死で兄弟に興味を持っていない。
そして弟レオンは、これから愛に飢え愛されようと努力し、民や使用人に好かれる事はなく心に傷を負う。
そうこれから。
レオン。
シエラ。
国名アイゼンフェルト。
能力支配。
疑問だったのだ。
昨日の侍女は自身の進退が決まるかも知れないあの場面で何故追いかけなかったのか。
明らかに追いかけようとして私の言葉で止まった。
王族の言葉に逆らえないから?
王城で王女である私が陰口聞くレベル、感情すら隠せない教育しかされてないのに命運を握るあの場面でそれを考えられるのか。
そして許された後、私にけして近づかない事を。
私を恐れるのは分かるが許された感謝を伝えに来ることすらなかった。
私的には構わないのだがこの国の考え方的には明らかにおかしい。
fate
ルナティックムーンの外伝から発生した乙女ゲーム。
魔法学園に入学する主人公に嫌がらせをする隣国の王女。
所謂悪役令嬢の名前はシエラアイゼンフェルト。
攻略キャラでその悪役令嬢の弟、レオンアイゼンフェルト。
悪役令嬢は、中ボス、もしくはラスボス扱いで現れ、たまに行使する能力が意のままに従わせる支配の能力。
ここは、乙女ゲームの世界?
そう考えた瞬間思わず弟を抱き締めるた。
私は歓喜に震えた。
何故ならfateのレオンルートには、悪役令嬢が魂ごと消滅させられるエンドがあるのだ。
ならば私は、悪役令嬢でなければならない。
高飛車、我が儘悪役令嬢等ガラではないし、これから私が傷つけなくてはいけない人達には罪悪感を抱くし、同情もするが私は私が一番大切だ。私は悪役令嬢であることを決意した。
まぁ人知れずフォローするつもりだけど。
出来るだけ全てが丸く収まるよう私は頭の中で計画をたて始めた。