第一夜 『雪』
しとしとと雪が降る。
音もなく、生命の息吹の欠片すら見つけることができない白銀の森で、その少女は歩いていた。
年の頃は10を越えたあたりだろうか。淡い金の髪は無造作に伸ばされ、足にかかりそうなほどに長い。
顔の造形は人形を思わせるほど整っていて、病弱なまでに肌は白く、美しい。
ただしそれも、この少女がまともな状態であるならば、と理由がつくが。
その身に纏うのはボロボロの服ともいえないような布が一枚。いくら身体全体を覆えるような大きさとはいえ、雪が降るこの場所で幼子が身に付けるものとしては非常識すぎる。
また、少女は何も持っていない。暖をとるものも、水も、食料も、何一つ持たず、ただその身一つで雪が降る森を歩く。
顔をあげる。
その目に感情はなかった。
死んだような目をしていた。
その視界には生命の欠片も見当たず、ただ白纏う木々は風に揺れ、幼き少女の身体を凍えさせる。
既にその吐息すら白さを失い、彼女は倒れた。
歯は震えを止めることを知らず、あまりの寒さによって体全体が激痛を訴える。
最後の力を振り絞り、空を見上げる。
あとしばらくすれば、この少女は死ぬだろう。
凍えるような寒さに体力を奪われ続け、むしろ今まで生きていたことが不思議なくらいだったのだから。
既にその目に光はなく、最期の景色をその目に納めんと最後の力を振り絞って空をあおぐ。
木々に隠れ、それでも雪を降らす雲の隙間から覗く月は。
少女がこのような目に遭っている原因たる瞳と同じ────憎らしいほどの空色だった。