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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第83話「氷柩解凍作業」

 ジャポテラスの神々が住まうタカマガハラの一室。

 そこにはハンマーやペンチと言った見た目から用途が分かる物品から、クレーンやプレス機と言った大型の機材に、札や葉付きの枝などの魔法・魔術的物品に加え、幾つもの金属製の輪を組み合わせた何に使うのか分からない物体や、ダブルバイセプスのポーズを取った水晶製の人形の様にもはやどういう意味があるかも分からない物まで置かれていた。

 そんな部屋の中心部に置かれているのは中に一人の女性が収められた巨大な氷の結晶。

 そしてその周囲には人の形をした何モノかを中心として何柱もの神がゴソゴソと何かの作業を行っていた。


「ふうむ……」

 作業をしていた神の一柱から一枚の紙を受け取った狐耳付きのカチューシャを身に付け、稲荷ずし柄の着物を着た女性型の神はその内容に目を通すと唸るような声を上げる。


「ウカノミタマちゃん調子はどう?」

「ああ、アマテラス様。まあ、あまり調子が良いとは言えませんわ」

 アマテラスに声を掛けられた女性……ウカノミタマが振り返ると、そこにはアマテラスだけでは無くツクヨミとスサノオの二柱も立っており、珍しい事に普段別々に行動することが多い『三貴子』が三人とも揃っていた。


「状況を詳しく伺ってもいいか?」

「とりあえず分かった事を上げていくとですね。術式名は『停まる世界』。多次元間貿易会社コンプレックス基準で第三級氷結系封印術式になります」

「第三級?ああごめん。気にしないで話を進めて」

 ウカノミタマの言葉にツクヨミが思わず反応するが、その言葉に従ってウカノミタマは話を続ける。


「ん。じゃあ続けさせてもらいますけど、効果としては指定範囲に存在している対象を極低温の氷中に収めた後に時間停止させることによって物理的に対象を封印するという方式の術式ですわ。なので今彼女の周囲を覆ってる氷は内と外を分ける境界であり、コイツを物理的に破壊するのは人間にはまず無理ですし、それでも無理に破壊してしまうと中に収められている物体ごと破壊してまう可能性が高いです。そんで安全な解除方法としては内部にいる封印対象は精神・魂魄的には時間停止を掛けられていないんで、その封印対象自身が事前に設定された解除キーを使う事によって解除されるんですけど……」

「何か問題が……ああそう言う事か」

「まあ、スサノオ様の考えている通りですわ。この封印術式はグレイシアン形式を基本として外部からの干渉者によって即興的なアレンジを加えられた術式であり、結果として本来の術式なら第五級程度の効力しかないはずなのに第三級にまで格が上がり、おまけに元々ジャポテラスとグレイシアンの形式差だけでも難しかった解除キーの外部からの解析が著しく難しくなってます。はっきり言ってお手上げですわ」

「うーん。それは厳しいねぇ」

 これはパソコンに例えて言うならOS部分から違うプログラムを解析して、中のデータを傷つけずに何重にも施されたプロテクトを解除しろと言われているようなようなものである。

 余談ではあるが、術の効力が大きく上がっていることから、アキラが術を発動した時にその干渉者から大量の力を供与されている事も間違いない。

 それは第三級と言うのが本来のイースとアキラの力ではどれだけのブーストを掛けても到達しえない力の量だからであるが。


「本当に無理なのか?必要ならば私も術式解析や解除に手を貸すが」

「アマテラス様がシリアスになってもらえるのはありがたいですけど、相手が悪すぎますわ。干渉に使われている術の癖からして相手は『塔』の主なんです。そんなわけで外部からウチらがあの子の精神や魂に干渉して解除の手伝いをしようとしても、それこそ仲が良かった頃のイザナミ様、イザナギ様のお二方に出張ってもらっても厳しいくらいですわ」

「力押しでどうこう出来る相手じゃないと言う事か……」

「正直な所、元々あっち側であるサーベイラオリにでも頼んで本人と交渉してもろうた方がまだ外部から解除できる目がありますわ」

「むう……」

「なるほどね」

 ウカノミタマの言葉にアマテラスは大きな溜め息を吐き、スサノオは唸り、ツクヨミはどこからか取り出した薄い直方体の物体を弄り始める。

 その姿を見てアマテラスが問いかける。


「ツクヨミ。何か手が?」

「『塔』の主が使う術の形式に詳しくて、しかも『塔』の主の配下じゃない子に一人知り合いがいるからその子を呼ぼうかと思ってね。まあ、正確に言えば彼が詳しいのは『塔』の主が使う術の形式によく似た形式の魔術なんだけどさ」

「兄貴、一体どこでそんな繋がりを……」

「ちょっと前に教官として参加したコンプレックス社主催の新神研修会でたまたま担当になったんだよ。その時は僕は『ルナリード』って名乗っていて、彼も僕に合わせたのか『ミスターブラック』とか名乗ってたかな」

「「!?」」

 ツクヨミが出したその名にその場に居る大半の神が驚きの意を露わにする。

 その偽名を名乗る神を知らなかったからではない。偽名から直ぐに正体が分かり、その神を知っているが故にだ。


「おい兄貴、ソイツは……」

「心配しなくても彼にとっては既に僕らはどうでもいい存在だよ。敬いもしないが敵対もしない。精々が多少縁の深い隣人か前の家主ぐらいの扱いと言ったところさ。まあ、多少の事情を聞くぐらいは自分の治める世界の過去を知るためにしてくるかもしれないけどね」

「分かった。そう言う事なら交渉の際には私も同席しよう。タカマガハラの長としてそれぐらいの誠意は示すべきだろうしな」

「矢表には僕が立たせてもらうけどね。じゃ、彼との連絡を付けるから後はよろしく」

 そしてツクヨミはこの場を去り、長方形の物体から発せられる若い男の声に耳を傾け始め、ウカノミタマ達もそれぞれの作業に戻る。


「姉貴。俺も同席はさせてもらうぞ」

「ええ、よろしくね。それにしても何時か来るとは思っていたけどこんなに早く来るとは……ね」

「まあ、兄貴の口ぶりからしてそこまでの問題は起きないと思うが一応な」

 その後、アマテラスとスサノオの二人も部屋を後にするのであった。

ウカノミタマ様は所謂稲荷神ですね。

狐耳のカチューシャを付けているのは、使いの方が有名になり過ぎて付けていないと稲荷神と認識してもらえないからです……哀れな。

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