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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第64話「特務班の訓練風景」

『イチ、ニ、サン、シー』

 一定のリズムを刻むイースの声に合わせて俺は手足を動かす。


『ニイ、ニ、サン、シー』

 時には足を前に出し、時にはその場で回り、時には大きく腕を動かす。


『サン、ニイ、サン、シー』

 また、俺の動きに合わせて手に持ったつい先日完成した特製の楽器は独特の音を鳴らし、


『ヨン、ニイ、サン、シー』

 楽器の柄に付けられたこちらも特製である羽衣が俺の腕の動きに合わせて空中で揺らめく。


『最後にターンからギャラリーに向かって笑顔でポーズ!』

「ニコッ」

 そして俺は最後にイースの指示に合わせてその場で一回転してから演習室の周りを覆う金網の外に居る穂乃さんたちに向かって微笑みながら決めポーズを取る。


「「「キャアアアァァァ!アキラ様あああぁぁぁ!!」」」

「(っておい、イース!お前俺に何をさせてるんだよ!!)」

『いや、折角集まってくれているわけだし、多少のサービスぐらいはするべきだと思ってな』

「(サービスって……今は修行中だろうが……)」

 俺は仕事が休みである穂乃さんたちを筆頭とするアキラ様ファンクラブの盛り上がり様に多少頬を引き攣らせつつも、頭の中でイースに非難の言葉をぶつける。


『いやいや、最後のポーズも含めて一連の動作全てでアキラたち全員の強化につながるように出来ているのだぞ。笑顔に関しては必要ないが』

「……」

「アキラさんお疲れ様です」

「ん。ありがとう。ソラさんは?」

「アッチで悶絶中です」

 イースの言葉に多少イラッときつつも、俺は近づいてきたトキさんから飲み物を受け取り、近くに在る適当な椅子に座る。

 で、トキさんが指さした演習室の隅ではソラさんがビクンビクンと震えていた。一体何をやっているんだか……。


「それにしても諜報班に情報提供をしてから二週間。未だに動きが無いそうですね」

「ああ、中々連中の尻尾がつかめないらしい」

 さて、実を言えば諜報班に俺がツクヨミ様の情報を渡してから既に二週間が経過している。

 が、トキさんの言うとおり金本バンドに関する諸々は一向に進展する気配を見せていない。こちらから仕掛ける事も、あちら側から仕掛けてくる事も無くだ。

 いや、もしかしたら俺たち身内にすら気取られないように進めている最中なのかもしれないが。

 諜報班の特性上それは十二分にあり得るからな。


「まあ、俺たちの力が必要になるなら声が掛けられるそうだし、例え声が掛けられなくてもこうして修行する時間が取れているんだから修行は進めるべきだろうさ」

「それは確かにそうですね。では、ちょっとソラを叩き起こして私も訓練してきます」

「まだ病み上がりに近いんだから気を付けろよー」

「分かっています」

 俺の傍からトキさんが離れ、ソラさんの近くにまで行ったところでその肩を軽くゆすって起こそうとする。

 さて、二人が実戦訓練をしている間にイースにさっきの動きはどうだったのかと、次は何をやるかを聞いておかないとな。


「(それでイース?エンハンサーとしての修行も含めて俺の修行は進んでいるのか?)」

『ああ、最初のころに比べればだいぶ良くなった。まだまだツツタクトや羽衣の振りも拙いし、決まったステップを踏むことに集中しすぎて詠唱をする余裕もないだろうがな』

「(う……)」

 今の俺がやっている修行、それは特務班の中で唯一やれる人間が居ないエンハンサーとしての能力を開花させるのと同時に、触れたものの熱を急激に奪う血の力や氷化能力を持つ右目などの能力の効率化や底上げ、それに実戦でどう運用するのかを学ぶための修行である。

 ちなみにツツタクトと言うのは俺が今持っている金属製の筒を何本も組み合わせることによって振りの速さや方向に応じて音を出すようにした楽器で、俺の持っている物は通常の物と違って柄の部分に長さ2m程の羽衣が付けられている。

 勿論、特務班としてかさばるほどの荷物を持つわけにはいかないので、どちらもモンスターの素材に俺の爪や髪の毛を合わせて作成し、その結果としてツツタクトは棍棒のように、羽衣はスリングやちょっとした盾代わりに使えるようになっている。

 いや本当に開発班には頭が下がるな。


「(と、質問だけどイースの力を支援に使った場合はどうなるんだっけ?)」

『我の力を支援に使うなら、武器に氷の力を乗せたり、僅かながらではあるが傷の自然治癒を早めたりだろうな。まあ、それほど有用とは言えん。が、グレイシアン式の支援と言うのは舞踏と詠唱が中心になっているから支援をしつつ右目の力を使ったり、スリングや血の力を使っての攻撃する事も可能だ』

「(了解。となると最終目標は自然な動きのレベルで支援を行いつつ、攻撃や妨害を行えるようになるって事ね)」

『そうなるな。尤もその段階に至れるのは当分先……少なくとも今回の件が片付くよりも後だろうな。それでも十分早い方だが』

「(先は長いって事か)」

『そう言う事だ』

 俺とイースは以前よりも動きの切れが増したトキさんと経験を積んだためにか動きの効率化が為されたソラさんが行っている実戦訓練を眺めながら会話を重ねていく。

 まあ、一日で完成される技術なんてものが無いのは当然の話ではあるし、イースの言うとおり先は長そうではあるが。


『目下最大の問題点にして最優先で改善すべき点はアキラの音感の無さだがな』

「(それは言わないでくれ……)」

 ただうん。踊りながら詠唱に正しい音程を付けろと言われても無理です。普通に立って歌う時でも苦手だってのにさ……ふふ、ふふふふふ。本当に先は長いなぁ……。

 俺はイースの力を使って良く冷やした飲み物を飲みながら思わず遠い目で太陽を眺めてしまっていた。

ツツタクトは振って鳴らす楽器でございます。


09/01誤字訂正

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