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第5話「始まりの迷宮-4」

「……」

 血まみれの鉈を持った女は俯いた状態のまま最初に居た場所から微動だにしていなかった。


『イカン!アキラ!今直ぐ元の世界に逃げろ!』

「何を言って……」

『いいから早くしろ!』

 にも関わらず、イースはまるで怯える様に……いや、まるででは無く実際明らかに怯え、震えた声で俺に逃げる様に指示をする。


「分かっ……」

 その声に只ならぬものを感じた俺はイースの言葉に従って後ずさりをするように開いている扉に向かってすり足で移動を始めようとする。

 けれどその直前に女が顔を上げ、俺はそれを見てしまう。


「ミョンナ リアクト ガアルカ ラゴーミ レバアラ ンビット ゴトント」

 俺が見たそれとは女の瞳。


「あ……」

 女の瞳は黄金の様に輝いていた。

 けれど、その輝きから感じたのはまかり間違っても黄金特有の神々しさや煌びやかさなどでは無かった。

 その瞳に在るのはただ禍々しく、この世の全てを歪めて狂わせる事を至上命題としているかのような気配。

 そして理解させられる。


「マンカラ フィメイ ルヘトラ ンスシタ カコレデ ハマイン ドソウサ フキョカ」

「あっ、あ……」

『何をしている!?早く動くのだ!奴が動き出す前に!早く!』

 こいつこそが『迷宮(メイズ)』とそこに居る『モンスター』たちを生み出した神々の怨敵であると。

 こいつこそが俺にイースが倒すように求めた相手なのだと。


「ダンガソ レヨリモ」

「くっ……」

『分かっているだろう!今の貴様では何かが間違っても勝てん!』

 けれど同時に理解させられる。

 今の俺では例え天地がひっくり返ろうと奴に勝つ事は出来ないと。

 それどころか今の俺ではただ近づいただけでもその存在を溶かされ、その力を増すための贄にさせられるだけだと。


「脚が……動かない……」

『くそっ!?そう言う事か!』

「ソノドー ルノゴン トキスキ ンニモデ ルノヨウ ナタイケ」

 だが逃げられない。逃がして貰えない。

 まるで脚がそのまま鉛になったかのように重く、一歩後ずされば元の世界に戻れるはずなのに、その一歩を出す事すら叶わない。

 そんな中で肉食獣のような歯を見せながら、俺の耳では単語として理解できない言葉を喋りながら女がゆっくりと動き出す。


「ナンヨリ モソノバ ストガワ ガレイジ ヲカウン」

『我も送れるだけの力を送る!だから動け!動くのだアキラよ!でなければここで全てが終わるぞ!』

 頭の中でイースが俺を叱咤する中、女が懐から何かの紋章を象った薄い金属を数枚取り出し、取り出した金属一枚一枚へと明らかに先程俺が蛙に放ったのよりも遥かに多い力が込められていく。


「ぐっ……がああぁぁぁ!!」

 そして俺は込められるだけの力を込めて足を地面から離し、女の攻撃に備えるために腕を頭の前に持っていきつつ、半ば倒れ込むような形で後ろに向かって飛ぶ。

 加えて俺が飛ぶのに合わせてイースも何かをしてくれたのか、俺の表皮に何か見えない膜のような物が張られていくのを俺は感じ取る。


「キョンニ ユウダイ スベシジ ヒハナン シングダ」

「ぐっ!?」

 だが、俺が後ろに向かって飛んだ瞬間、女の手が一瞬掻き消えると、蛙の銛が止まって見えるほどになっていたはずの俺の動体視力でも見えない程のスピードで何かが飛ばされ、イースが張ってくれたはずの膜などまるで最初から存在しなかったかのように膜を突き破り、膜を突き破ったそれ……さっきまで女が持っていた金属が俺の身体へと突き刺さっていく。

 そして体の各部に金属が突き刺さっていく中で俺の身体は『迷宮』と元の世界を隔てる一線を越え、越えた所で全身が光に包まれていく。



-----------



「がはっ……」

『おい!しっかりしろ!しっかりするんだ!いし……』

 やがて光が止んだ時、俺の視界には灰色の雲に覆われた空が映り込み、俺は傷ついた全身に向かって降り注ぐ冷たい雨を感じ取る。

 そして俺は頭の中でイースの声を聴きくと共に耳で水音をたてながら誰かが近づいてくるのを感じつつ痛みによって意識を失った。




■■■■■



「仕留め損ねたか……まあいい、あの傷なら助かるどうかは半々だろう」

 『迷宮』の中でその女は血まみれの鉈を片手に、先程手傷を負わせた相手に関しての呟きを口にする。


「それよりもこの『迷宮』は位置がバレたな。殆ど成長もしていないし廃棄の検討をした方が良さそうだ」

 女は懐からマーカーのような物を取り出すと、それを使って空中に複雑な文様を描いてく。


「ーーー」

 そして数分で一辺が数mは有ろうかと言う紋様を描ききると、人の耳では聞き取れない異様に甲高い音を口から発しながら紋様に触れてそれを空中に溶かし込む。


「それで何の用だ?」

「あ、気づいていましたか」

 紋様が完全に溶けきると、それに合わせるかのように『迷宮』内に存在しているものが二つの例外を除いて原型を無くし、融けていく。

 二つの例外……それは蘇芳色の軍服を着た女と、黒い球体に赤と青の光源と三日月状の口を付けた何かだった。


「用件は何だと聞いている」

「ちょっと睨まれちゃったんで、さっきのを最後にこれから先の協力については情報提供より上は難しそうですとだけ。ま、手切れ金も送りますし大丈夫ですよね」

「そんな事か。下らん。元々貴様は戦力としては期待していない」

「ですよねー、じゃあ失礼しますねー」

 やがて空間そのものが融け落ち、女と球体だけが何も無い虚無の場に取り残されると球体の方も用件は済んだと言わんばかりにその姿が霞んでいき、最後には最初から居なかったかのように消え去る。


「さて、次の『迷宮』はと……」

 そしてそれを追う様に女も一切の前ぶれなくその姿をこの場から掻き消した。

プロローグ終了


07/03誤字訂正

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― 新着の感想 ―
[一言] ここまで大仰な人が出て来といて殺されかけた理由が巨乳死すべしは草w
[一言] 途中から胸の格差社会にキレてて笑った
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