第244話「最終決戦-19」
何とか弾丸は出来た。
だがここで一つの問題が起きた。
『よlsふぃぃms!』
「くそっ、近づけない!」
『くっ、力の密度が高すぎる……』
『軍』の咆哮に合わせるように発せられた目には見えない『森羅狂象』の力を、俺は殆ど勘だけで白湧騎を操ってその範囲外に逃れ、それでも俺の方に向かって来たものはイースの終わらせる力でもって弾く。
しかし、そうやって対応できるのは『軍』から意思を持って放たれる『森羅狂象』のみであり、無意識に放たれている部分については、『軍』に近づけば近づくほどに密度を増し、まるで壁のように俺たちの前に立ち塞がっていたのである。
しかも、その密度は盾として使っているイースの力を抜けてくるほどに濃い。
「だけど近づかないとこれは……」
『そうだな。効果が無い……』
俺は手元の黒凍姫に目をやる。
現在、黒凍姫には巫術・イスバレイトによって形成された氷の弾丸が装填されており、これを『軍』の額か胸に打ち込めば間違いなくこの戦いを終わらせることはできるだろう。
だが、巫術・イスバレイトには一つの欠点がある。
それは射程。
最低でも銃口から着弾点まで5mは切らないと厳しいだろうし、出来れば接射したいところではある。
「イース。これ以上出力を上げることは?」
俺は一応イースに終わらせる力の出力を上げられるかを聞いてみる。
しかし、その反応は芳しくない。
『厳しいな。今でも『森羅狂象』への対策も兼ねて我とアキラの境界をほぼ完全に取り払い、限界まで力を放出しているのだ。この先出力が下がる事は有っても、上げるのは無理だ』
「まあ、そうだよ……」
『lrどypんr!』
「なっ!」
イースの言葉を聞きながら俺は白湧騎を操って『森羅狂象』を回避しようとするが、髪の毛の一部が消し飛ばされる。
しかしそうなると……拙いな。
ただでさえ、『森羅狂象』へ対抗するために消耗が激しい状態なのだ。
このままだとあと数分も保たないかもしれない。
まさかここに来て、俺たちだけでは能力と手数が足りないと言う事実をさらけ出す事になるとは思わなかった。
そんな時だった。
『じょっぃとlsryyr……』
「アキラ!」
『っつ!?』
『軍』を前にそんな事を考えていたのがいけなかったのだろう。
気が付けば俺とイースの精神内での位置が逆転し、俺もイースもその変化に戸惑って一瞬完全に動きを止めてしまう。
『lrどypんr!!』
「『!?』」
そして更に数度精神をかき混ぜられ、俺たちの動きが完全に止まったところに『軍』の『森羅狂象』が今までで一番強く放たれるのを感じた。
勿論、『森羅狂象』は目には見えず、音も聞こえず、匂いも感触も何も無い。
だがそれでも全てが狂った先に有るもの故に俺たちにはその力が……死と言う名の終わりに関わる力が迫ってくるのが分かった。
同時に、この状態からでは逃げる事も防ぐ事も出来ないと言う事実にも。
「皆……ゴメン」
俺は迫りくる力に目を閉じる。
「何をやっているんですか全く。予想通りと言えば予想通りですが」
「へっ?」
しかし、その声が聞こえると同時に俺は思わず目を開け、目の前に広がった光景に思わず間抜けな声を漏らしてしまう。
『ぉdszsつぇs!?』
「全くですわ。まあ、アキラ様らしいと言えばらしいですから、私としては構いませんけど」
「え?」
俺の前には二人分の人影が在った。
片方は大きな盾を構え、全身からは黒い力を噴き上げており、その盾は『軍』の『森羅狂象』を見事に防いで見せていた。
もう片方は半透明な体に、炎で出来た剣を持っており、その炎は盾を迂回する形で俺の身体に飛来しようとしていた『森羅狂象』を焼き払っていた。
「なんで……二人が……いやそれ以前に……」
「アキラさんには悪いですが、アキラさん一人でどうにか出来る相手だとは思っていませんでしたから。なので、手助けに来ました。『神喰らい』の力なら十分に対抗できますからね」
「私はサーベイラオリ様の他、親切な神様何柱かに助けていただく事で帰って来れましたの。道中色々あったおかげでやっとアキラ様に並べるだけの力になりましたわ」
二人は……トキさんに穂乃さんだった。
「さ、アキラさん。アキラさんは『軍』にその弾丸を叩き込む事だけを考えてください。これから先アキラさんに向かってくる力は全て私が防ぎますから。行きますよ……」
『zsypzryr、jptpのtp!』
「『神喰らい』!」
トキさんはそう言うと盾を改めて構え、『神喰らい』の力と思しき真っ黒な色をした力を俺たちの周囲に展開していく。
不思議な事に、距離も何も無視できるはずの『森羅狂象』も、この『神喰らい』の力だけは無視出来ないのか、今までの俺とイースの防御と違って完璧に防いでいく。
「そうですわね。詳しい話はこの戦いが終わってからにしましょう。さあ、アキラ様。道は私が開きます。ですから、安心して……」
『んslsms!?』
「行って来てください!」
穂乃さんはそう言うとトキさんの前に出て、手に持った炎剣を一閃。
剣の軌跡に沿うように『軍』の『森羅狂象』の力場が焼き払われ、消滅し、一本の道のような空間が出来上がると、そこに新たな『森羅狂象』が入り込まないようにトキさんの手によって『神喰らい』の力が展開される。
「二人ともありがとう!」
『感謝する!』
俺とイースはその光景に急いで態勢を整えると、巫術・イスバレイトを維持するのに必要な分以外の力を全て白湧騎に注ぎ込み、白湧騎を『軍』に向かってまっすぐに走らせ始める。
「アキラさん。イース様。感謝するのは」
「私たちだけではありませんわよ」
すれ違いざまに二人からそう声が掛けられる。
だが、その意味は直ぐに分かった。
「これは……力が……」
『流れ込んでくる!?』
此処からではないどこかからか、俺たちに向けて沢山の力が流れ込んで来るのを感じた。
その力に伴っている願いは様々だ。
取るに足らない願いや、自分勝手な願いももちろんあるし、絶対に叶えてあげたいと思わせる願いや、真摯な祈りによって捧げられた願いもあった。
ソラさんの願いもその中には有った。
けれど、一つだけ共通している点がある。
「『軍』……」
『msxrfs!msxれslstsmそ!』
『貴様にも色々と言いたい事は有るのだろう』
『pzsryしょjs、lしょぃypぢtsぞtstryろmそmpfsxp!!』
白湧騎を走らせたまま、俺は『軍』の額に向けて黒凍姫を構える。
『msxrjsjせp!』
「だがその前にまずは俺たちの言葉を聞いて」
『msxrjsjせpぅpxりぃぢちmpfs!』
『我たちの思いを知り』
そして俺たちは叫び声を上げ続ける『軍』の額に黒凍姫の銃口を突き付け、
『msxr……』
「『いったん頭を冷やせ!この大馬鹿親!』」
引き金を引くことによって、『ミラスト』の世界にて積もりに積もった戦いが終わる事を望む願いの弾丸を『軍』の脳天に突き刺し、やがて……
俺たちの周囲は眩い光に呑まれた。
戦闘終了でございます。
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