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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第238話「最終決戦-13」

「行きます!」

 サーベイラオリの能力によって地上に降りたところで、真旗カッコウに向けて田鹿ソラは倒木の上を真っ直ぐに駆けて行く。


「来る?来ちゃう?ソラんてば来ちゃうのかな!?いいよ!足掻けるだけ足掻いて見せてよ!!」

「やっ!」

 そして笑い声を上げるだけで反撃のそぶりも見せない真旗カッコウに向けて儀礼剣を振り抜き、周囲に漂う水銀の泡ごと真旗カッコウの身体を切り裂く。


「くす、やっちゃったねぇ……」

「!?」

 だが、身体を切り裂かれたはずの真旗カッコウは妖し気な笑みを浮かべ、その笑みに田鹿ソラは嫌な物を感じ取る。


「ぐっ!?」

「ほら、きたぁ……」

 直後、田鹿ソラの身体に、切り裂かれた水銀の泡から潰れる勢いを利用して放たれた無数の水銀の礫が殺到し、田鹿ソラの周囲に在る障壁を叩いて、田鹿ソラごと吹き飛ばす。


「どんどん行っちゃうよー!」

「まずっ……サーベイラオリ様!?」

「いえい!」

 真旗カッコウの顔を見て、吹き飛ばされた田鹿ソラは慌ててサーベイラオリの神力によって転移するが、その直後に倒木の下から水銀の刃が先程まで田鹿ソラが居た場所に向けて何本も突き出される。


「ごう、ごう!ごおおぉぉ!!」

「っつ!くっ!?やっ!!(出来る限りサーベイラオリ様の力無しで逃げないと……)」

 しかし、真旗カッコウの攻撃はまだ終わっていなかった。

 真旗カッコウを攪乱するべく数度行われた田鹿ソラの転移と全力疾走した先に合わせるように、次々に水銀の刃が突き出され、その攻撃を避けるために田鹿ソラは逃げることに専念する事を余儀なくされる。

 だが、無数の倒木が転がった結果として、激しい凹凸が生じているこの場で全力の逃走をし続けることは転移能力を保有している者にも難しい事であった。

 故に真旗カッコウの攻撃から逃げ続けた結果として。


「ぐっ……!?(拙い……茉波さんの話が確かなら……)」

「あはは!遂にその服にも限界が来たみたいだねぇ!!」

 茉波ヤツメの作った服が限界を迎えて、真旗カッコウの攻撃を通し、田鹿ソラの脇腹に微かではあるが切り傷が生じる。

 そして、その僅かな切り傷に真旗カッコウは笑みを浮かべ、田鹿ソラは若干顔を青ざめる。


「やっちゃ……」

「規定転移!!」

「え!」

 直後、田鹿ソラの姿が転移によって別な場所に飛び、先程まで田鹿ソラの身体が有った場所を始点として巨大な水銀の球体が生じる。

 それは、仮に田鹿ソラが事前に自分の身体として定めたものだけを飛ばすと言う特殊な転移を行っていなければ、膨らんだ水銀の球体によって身体の内側から引き裂かれていたに違いない動きだった。


「っつ、はぁはぁ……(危なかった。茉波さんから話を聞いていなかったら、今ので確実に死んでた)」

「ふうん。あの腐れ巫女の死体から気づいていたのかな?」

「そうですよ(好機。今の内に……)」

 急な転移に転びはしたものの、自分の攻撃に対して田鹿ソラが的確な対応をした事に興味を示したのか、真旗カッコウの攻撃が止まり、質問が投げかけられる。

 その質問を聞いた田鹿ソラは立ち上がると、少しでも儀礼剣にサーベイラオリの神力を貯める時間を稼ぐべく、真旗カッコウの声に応じようとする。


「茉波さんは言っていました。満月さんの身体に刻まれた文字は、身体の“内側”から皮膚を割くことによって書かれていたと。おまけに満月さんの体内の一部には水銀がそこを通ったようにこびり付いていた場所もあったそうです」

「ふむふむ。それで?」

「そこから茉波さんは、真旗さんにはどういう形にしろ、相手の体内に入った水銀も自在に操る事が出来る事を教えてくれました。その対策についても」

「ふうん。それが今の変な転移ってわけ……か」

 田鹿ソラの言葉に、真旗カッコウは納得がいったと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 実際、この真旗カッコウの相手体内に入った水銀を操って攻撃すると言うのは、使い方次第ではかなり凶悪な攻撃になるものであった。

 なにせ、人間が相手の場合、たった一滴でも血管中に水銀が入り込めば、後は内側から心臓を撃ち抜くなり、脳を侵すなりと、殺害も脅しも真旗カッコウの意思一つで行えるようになるのだから。


「なるほどねぇ。でもそうなると、カッコウ様のこれを防げるのはソラんだけって事になりそうだね。あんな変な転移を他人に使えるとは思えないし」

「…………」

 真旗カッコウの言葉に田鹿ソラは応えない。

 だがその沈黙が示すように、今の回避方法は田鹿ソラ以外には決して行えないものだった。

 なにせ、先程の規定転移と言うのは、事前に自分の身体として定めておいたものだけを転移させる……つまりは真旗カッコウの水銀を異物として認識し、その場に置き去りにする事によって追撃を防ぐものであり、自分の正常な状態の身体と言うものを正確に認識しておかなければならないからである。

 そんな特殊な転移を他人に対して施そうと言うのならば、間違いなく準備をしている間に真旗カッコウはその人物の命を奪っているだろう。


「理解理解。だったら、ソラんは普通の方法でもって殺せば良さそうだねー。ところでソラん?」

「何?(よし。力は十分に貯まった。後はどうやって十分に接近するかだけど……)」

 真旗カッコウは薄ら笑いを浮かべながら、旗付きの杖を地面と水平になるように構える。

 それに対して、田鹿ソラは真旗カッコウの顔に怪訝な顔をしつつも、その隙を窺っていた。

 だが、この時田鹿ソラは完全に失念していた。


「カッコウ様にこんな沢山の時間を与えてよかったの?」

「っつ!?」

 次の攻撃を準備する時間が有ったのは自分だけではないと言う事に。


「しまっ……」

「いっえーい!」

 そして、田鹿ソラがその事を後悔する暇もなく、二人が戦場としている場所を取り囲むように水銀の壁が生じ、崩れ……二人に向かって津波のように押し寄せ始めた。

カッコウさんはエロイ(えげつない、ろくでもない、いやらしい)ですよ

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