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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第229話「最終決戦-4」

「この間女があぁ!」

「っと」

 移動研究室から落ちた田鹿トキと黒土ベイタの二人は、『軍』の『広がる(マキシマ)灼熱の(マグニフ)世界(イマグマ)』による溶岩の津波を防ぐべくアキラが巫術・オクツラナルトウノミヤによって作り出した氷河の壁の上で戦っていた。

 だが、二人が戦っている場所ははっきり言って、とても戦場に適しているような場所では無かった。

 と言うのも氷河の下では『軍』が居る方は今も溶岩が煮えたぎっており、アキラの力による強化が無ければ今すぐにでも流れ出て、『ミラスト』中を飲み込んでいく事は想像に難くなく、『軍』が居ない方にしても、ただ落ちてしまえば確実に致命傷になるだけの高さが有ったからである。

 しかし、そんな危険な場所であることなど気にするそぶりも見せずに二人の戦いは何の問題も無く行われていく。


「この前も!その前も!俺とアキラの殺し愛を邪魔しやがって!何様のつもりだ!ああん!!」

「ふっ、とっ、流石の速さですね」

 ベイタは全身から光を放ちながら両手を握りしめると、筋肉を張り上げ、筋肉の発熱と空気との摩擦によって高熱を纏った拳を田鹿トキに向かって繰り出す。

 それは本来ならば、常人には視認するどころか知覚する事も出来ないはずの連撃だった。

 だが、田鹿トキはそんなベイタの攻撃を『神喰らい』に授かっている力の内では未来視の力のみを用いり、後は自身の身体能力と茉波ヤツメの作った大盾を分割した二個の小盾のみでもってベイタの連撃を凌いでいた。


「ですが、まだまだ本気には程遠い。そうですよね。この変態『マリス』」

「ちっ、バレてんのか。本当にテメエは面倒だな。この間女」

 田鹿トキの小盾とベイタの拳が正面からぶつかり合った結果として生じた衝撃波を利用する形で、二人は距離を取り、それぞれにしっかりと足の裏で足場を抑える。

 それは大量の熱源によって表面が僅かに濡れている氷と言う環境にもかかわらず、異常にしっかりとしたものだった。


「『祈りの塔』の時の動きに比べれば、明らかに悪くなっていますから。まあ、それでも私とアキラさん以外で対応するのは難しいでしょうけど」

 田鹿トキは懐から『魂定丸』を取り出すと、副作用の事を思い出したために若干手を震わせながらではあるが、『魂定丸』を口の中に放り込み、何時でも砕ける様にと奥歯で抑え込む。


「ふん。全力はアキラの為にとっておきたかったんだが、計画変更だな。アキラとの殺し愛をこれ以上邪魔されないためにも、テメエだけは此処できっちり仕留めておくのが良さそうだ」

 対するベイタは片腕ずつ軽く回すと、田鹿トキを睨んだまま首や膝の調子を確かめるように軽く動かし、納得がいったところで改めて構えを取る。


「私を殺れるとでも?『祈りの塔』では私の力を前に、尻尾を巻いて逃げるしかなかったのに」

「殺れるさ。お前を殺せば、アキラと俺の殺し愛を邪魔出来る奴は一人も居なくなる事が分かっているんだからな」

 アキラと『軍』の戦いの余波なのか、それとも純粋な自然現象なのか、はたまた誰にも理由が分からない未知の現象なのかは分からないが、『軍』が居る溶岩の池の方から二人の間を突き抜けるように生暖かい風が吹き抜けていく。


「…………」

「…………」

 二人は睨み合ったまま、身じろぎ一つせずに機を窺い続ける。

 この先は先程の小競り合いとは違って、僅かな油断、微かな隙、ほんの少しの差によって勝敗が決する領域である事を理解していた為に。


 そして、田鹿トキの背後の氷河から地平線の向こう側に至るまで、溶岩の刃が天高く噴き上がった時だった。


「『神喰らい』!」

 田鹿トキは口の中の『魂定丸』を噛み砕くと、全身に『神喰らい』の力を纏う。


「行くぜええぇぇ!」

 ベイタは足元の氷河をヒビが入り、氷の欠片が宙に浮かび上がるほどの勢いで蹴ると、右腕を振り上げて田鹿トキに向かう。


「潰れなさい!!」

「消し飛びやがれ!!」

 田鹿トキが左手に持った小盾と、ベイタの右拳が正面から撃ち合せられる。

 ただそれだけで、周囲に熱風を伴った衝撃波が放たれ、足元の氷河が嫌な音を立てる。


 この時ベイタの身体は空中に在った。

 空中に在ったと言っても、勢いよく駆けるために離れただけであり、ベイタの足が次に地面へ着くまでの時間は一秒も無かっただろう。 

 だがしかし、この一秒にも満たない時間の間に……


「はああぁぁ!」

「おらああぁぁ!」

 田鹿トキの小盾とベイタの拳が数百度と交わされた。

 そのために、本来ならば不連続な音として放たれるはずだった二人の攻撃による音は、たった一つの音……否、衝撃波に統合され、二人が足場としていた氷河に大きな損傷を与える。


「ちっ、流石は『三貴子』以上の化け物を降ろしてるだけの事はあんな」

「くっ、流石はここまで生き残ってきた『マリス』と言うだけの事は有りますね」

 このまま戦いを続ければ、自分たちが足場としている氷河が破壊されるかもしれない。

 だが、その事を理解した上で、それでも二人は攻撃の手を緩めなかった。


「(今の私には時間が無い……アキラさんの手助けをする事を考えれば、少しでも早くこの変態を倒す必要がある)」

 ベイタが裏拳を放てば、田鹿トキは片方の盾でそれを防ぎ、もう片方の盾でベイタの身体を殴りつける。

 田鹿トキの攻撃をベイタがその身体で受け止めれば、ベイタはお返しだと言わんばかりに蹴りを放ち、田鹿トキはその蹴りをすんでのところで回避する。

 そして、二人の戦いが進むのに比例して、足場としている氷河も破壊されていく。

 それでもなお、二人の攻撃の手は微かに緩む事も無かった。


「(いえ、それ以前に……それ以上に……この『マリス』が相手では、ほんの少しでも攻撃の手を緩めたら、そのまま押し切られる!)」

 勝つためには決して退いてはならないと分かっていた為に。


 やがて……


「「っつ!?」」

 二人が足場としていた部分の氷河が崩れ始めた。

中央の戦いの余波がかなり来ていますが、そこの描写は最後になります。

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