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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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222/245

第222話「ツクヨミ-11」

「風見さん」

「風見さん大丈夫?」

「アキラ様。ソラさん……」

 ソラさんの案内の元、風見さんの元に俺は辿り着いた。

 俺たちの前に広がっている光景の為なのか、風見さんの顔色はあまり良くない。


「すみません。折角二人に来ていただいたのですが……」

「分かってる。一足遅かったみたいだな」

 だがそれも当然だろう。

 この場に広がっているのは惨状と言う他ない光景だったのだから。


「それで詳しい状況について聞いても?」

「はい。と言っても私が来た時にはもうこの状態でしたが」

 風見さんがゆっくりとそれに近づいていく。

 それは布縫さんの張った障壁によってその場から動けないように拘束されていた。

 当然ではあるが、布縫さんの障壁に綻びは見えず、一見すれば外側から内側に干渉する事は不可能であるように見えた。


「見ての通り、布縫さんの障壁は何の問題も無く機能しています。ですが、その中に居た満月さんは……見ての通りです」

 だが、その中に居た人間……風見さんの言葉に従えば、奉納の舞の時に出会った満月さんは……全ての衣服を剥ぎ取られ、全身の皮膚に無数の文章が刻み込まれた首無しの死体へとその姿を変えていた。

 ……。

 これはただの勘でしかなく、詳しくは茉波さん辺りに調べて貰わないと分からないが、何となく俺には満月さんの身体に文章が刻み込まれたのは、満月さんが生きていた時ではないかと思う。

 それぐらいの狂気や禍々しさを俺は満月さんの死体から感じていた。


「文章の内容は?」

「アキラ様たちが来るまでに私が確認した限りになりますが、満月さんが下手人に対して何を行ったについて書かれているようです」

「具体的には?」

 風見さんは俺の質問に表情を淀ませ、口を濁らす。

 どうやら聞いていてあまり気持ちのいい部類の話ではないらしい。

 ただそれでも、風見さんは文章の内容を掻い摘んで話してくれた。


「それは……」

 で、風見さんの話によれば、満月さんを殺した下手人は人間だった頃に満月さんの策謀によって重傷を負わされた上で『迷宮』に叩き落され、そこで『軍』によって解放(・・)されたのだと言う。

 そして全ての文章の末尾には、俺たち特務班に向けたと思しき文章が存在していた。


「貴方たちのせいで『軍』様はおかしくなってしまわれた。だから私はこの女以上に貴方たちの事が許せない。絶対に絶対に許せない。私たちの全力をもって、必ず貴方たちを殺して上げます。だそうです」

「それって……」

「となるとやっぱり下手人は……」

「はい。真旗カッコウで間違いないと思います」

 やはりと言うべきか、満月さんを殺したのは行方が分からなくなっていた『マリス』の一体、真旗カッコウだったらしい。


「まあ、真旗カッコウなら出来るか」

「そうですね。『祈りの塔』の戦いで見せた転移の力。あれなら満月さんの周囲に有った布縫さんの障壁を無視する事も出来ると思います」

「文字を体に刻み込む事も、あの銀色の液体を操れば出来る……か」

 俺たちは全員揃って納得をすると共に溜め息を吐く。

 本音を言えば生きたまま捕えて、ツクヨミに関する物も含めて色々な情報を得たい所だったんだけどな。

 だが、満月さんは既に殺されてしまった。

 ツクヨミも俺が封印をしてしまったし、こうなるとツクヨミが何を狙っていたのか、今までに何をしていたのかについての情報を得るのは難しいだろうな……。


「しょうがない。満月さんの死体だけでも持ち帰っておこう。詳しく調べれば何か別な事が分かるかもしれない」

「そうですね。ツクヨミの所業についてはともかく、真旗カッコウの能力についても分かることが有るかもしれません」

 俺は背中の蔓を使って布縫さんの張った障壁ごと満月さんの死体を担ぎ上げると、茉波さんの移動研究室が有る方向に足先を向ける。

 白湧騎については消しておこう。

 押して歩くのは邪魔だしな。


「あの、アキラお姉様……真旗カッコウたちはアタシたちの事を狙っているんですよね」

「そうみたいだな。まあ、今『軍』を封印しているのは俺だし、アイツ等の気持ちだって分からなくも無いけどな」

 歩き始めた所でソラさんが俺に話しかけてくる。


「その……今すぐに来たりは……」

「無いと思う。今の俺たちはツクヨミたちとの戦いでそれなりに弱っているが、それでも今の俺とトキさんは迂闊に手を出せるような相手じゃないからな。本気で俺たちを殺すつもりなら万全を期してくるはずだ」

「ほっ」

「逆に言えば、『マリス』たちが来る時は私たちを仕留められるだけの何かが確保できた時と言うわけですか」

「まあそうなるな」

「だよねー……」

 その内容は当然のように『マリス』たちについてだが、ベイタに真旗カッコウの性格や、俺たちに向けられたあの文章の内容からして今すぐ襲ってくることは無いと言う確信が俺には有った。

 まあ、風見さんの言うとおり、準備さえ整えばいつ襲ってきてもおかしくは無いわけだが。


「とりあえず茉波さんの移動研究室に戻ろう。この後の事はそれからだ」

「はい。アキラお姉様」

「そうですね」

 そして俺たちは茉波さんたちが待っている移動研究室に戻っていった。

ひとまず決着ではあります。

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