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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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215/245

第215話「ツクヨミ-4」

「一応聞いておくけど、満月さんがあの人たちを操っているって事で良いんだよね?」

「その通りですよぉ。私がツクヨミ様より授かった秘術『満月の狂戦士』で、彼らの思考能力の低下と引き換えに身体能力と再生能力を極限にまで引き上げているんです」

 先程吹き飛ばしたツクヨミの信者たちが戻ってくる中で発せられた田鹿ソラの質問に対して、左手に鏡のようなものを持った満月ミコトは、もう片方の手を上げる事によって信者たちの動きを止め、自分が彼らの指揮官であることを示す。

 しかし、布縫ユイが障壁を張り巡らし、信者たちは障壁に向けて視線を巡らすと言う状況からして、満月ミコトの行動はお互いにゆっくり話し合うためでなく、自分の隙を消し、相手の隙を見つけ出す為に動きを止めさせたと言う方が正しかったが。


「では、単刀直入にこちらの用件を言わせてもらいます。即刻、術を止め、武装を解除し、全員、私たちに投降しなさい」

 そんな不穏な空気が流れる中、風見ツツジが手に持った槍の穂先を満月ミコトに向けながら、降伏の勧告を行う。

 だが、風見ツツジの勧告を受けた満月ミコトと言えば……、


「くすっ、くすくすくす」

 口元に手を当てて、上品な笑い声をあげていた。


「何がおかしい?」

「すみません。くすっ、でも、何もかもがおかしくてつい」

 だが、その目は口の形と声に反して全く笑っていなかった。

 その光景に風見ツツジだけでなく、横に控えていた田鹿ソラも、布縫ユイも怪訝な顔をすると同時に、何が起きてもいいようにと身構える。


「だってそうでしょう?ツクヨミ様が人間上がりの半神如きに負けるはずもないし、私個人にしたって貴方たちに負けるとも思えないもの~。なのにどうして投降をしなくちゃいけないの?冗談にしても、もっと面白い冗談を言ってほしいかな?」

 手の裏に隠された禍々しい笑みを露わにした満月ミコトが発した言葉は、明確な拒絶の言葉であり、己の仕える神であるツクヨミの勝ちを一切疑っていない狂信の言葉であった。


「それはつまり、徹底的に争うと言う事でいいんですね」

「別に貴方たちがツクヨミ様に忠誠を誓って、あの半神に向けて先陣を切って戦ってくれると言うのなら、ここで戦いを終わりにしてあげても……」

 そして、続けて田鹿ソラたちに裏切りを唆す言葉を満月ミコトが発したところで状況は動いた。


「絶対にお断り!」

「おっと~」

 満月ミコトの言葉に耐え切れなくなった田鹿ソラがサーベイラオリの力を利用して、満月ミコトとの間に存在していた空間を縮めると、その左手に向けて剣を振るう。

 が、満月ミコトはその雰囲気に反した速さで飛び退くと、宙で信者たちの動きを抑えるべく上げていた右手を静かに降ろす。


「「「ごろぜえええぇぇぇ!」」」

「ソラさん!」

「分かってる!」

 ただそれだけの動作で、静かに田鹿ソラたちを観察しているだけだった信者たちが一斉に動き出し、障壁の外に出た田鹿ソラに向けて得物を振り上げながら殺到する。

 だが、男たちが辿り着く前に、田鹿ソラは再びサーベイラオリの力を発動する事によって、布縫ユイが張った障壁の内側に退避する事に成功する。


「これは……やられましたね」

「ごめん。アタシのせいだね」

「いいえ。あれ以上の会話は私たちの戦意を削ぐ事にはなっても、益にはならなかったと思いますから、ソラさんは間違っていないと思います」

「ありがと」

 しかし、田鹿ソラが安全圏に退避する為に生じたほんの僅かな間に満月ミコトは姿を消し、代わりに先程までと同じようにツクヨミの信者たちが周囲を取り囲んでいた。


「「「くすくすくす……さあて、私は何処に行ったでしょうかー?」」」

「「「…………」」」

 周囲の木々の隙間から、不思議な響きを伴った……恐らくは居所を掴まれないようにするための技術が施された満月ミコトの声が聞こえてくる。


「とりあえず声の出所には居ないでしょうね」

「幻術も使ってるね。サーベイラオリ様の力で周囲を見てみてるけど、さっきと同じで姿が見えないから」

「こちらも反応がありません。どうやってかは分かりませんが、空気の振動も止めているようですね」

 田鹿ソラたちはお互いに背中合わせになると周囲を探り始める。

 三人の周りには現在布縫ユイの張った障壁があり、その障壁の外ではツクヨミの信者たちが三人を殺すべく、障壁に向けて得物を激しく叩きつけ続けていた。

 そして、信者たちの居る先となると、後はひたすらに雪が積もった針葉樹の林が広がっているだけであり、誰か人が隠れているような場所は見当たらなかった。


「どうする?むやみやたらに攻めてどうにかなる相手じゃないよね?」

「ええ、先程満月さんが見せた身体能力を考えると、居場所を見つけて先制攻撃を仕掛ける程度ではまた逃げられてしまいますね」

「ただあの脚力……何の補助も無しに発揮できるものだと思う?」

「思わない。たぶんだけど、今アタシたちの周りに居る奴らにかけている術よりも効果が低い代わりに、副作用も少ない術を掛けているんだと思う」

「私もソラさんの考えで合っていると思う。普段通りの満月さんなら、さっきみたいな私たちを簡単に怒らせて会話が終わってしまう様な言葉は避けていたと思うから」

「つまり今の満月さんはツクヨミの指令を忠実に実行するための道具に近いのかもね。となると、直接的な手段よりも搦め手を考えた方が良いかな」

 三人は周囲の索敵を続けながら、どうやって満月ミコトを無力化するかについて意見を交わしていく。

 その時だった。


「「「っつ!?」」」

 田鹿ソラたちは生存本能に端を発する嫌な予感とでも言うべきものを感じとり、一斉に姿勢を低くして身を寄せ合う。

 そして、布縫ユイは大きさを小さくする代わりに強固にした障壁を自分たちの周囲に張り直し、その障壁に沿うように田鹿ソラと風見ツツジも、自身が契約している神によって行える防御行動を即座に実行する。


「来ます!」

「「「ぎゃっ!?」」」

 次の瞬間。

 アキラの向かった方向の地面から順に巨大な氷の刃が飛び出していき、田鹿ソラたちの周囲に居たツクヨミの信者たちの全身を凍結させながら切り刻んでいく。

 そして、田鹿ソラたちの身を守る障壁にも氷の刃が衝突し、三人は障壁に包まれた状態のまま上空に向かって弾き飛ばされた。

誰がやったのかすら簡単に分かりますね。


01/24誤字訂正

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