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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第214話「ツクヨミ-3」

「さて、まずはよく辿り着いたと言っておくべきかな?」

「…………」

 ツクヨミは両腕を大きく広げ、まるで演説か何かでもするように口を開く。

 俺はその動作に警戒感を抱き、白湧騎から降りると、右手で黒凍姫を左手で白湧騎のハンドルを握っていつでも動けるように備えておく。


「それで一つ訊きたい。これは他の神はもちろん、その神々に仕える者も居ないこの場だからこそ、君に聞けることだ」

「何が聞きたいんだ?」

 俺としては直ぐにでもツクヨミの話を遮り、攻撃を仕掛けても良かった。

 が、敢えて仕掛ける事は止めておく事にした。

 ツクヨミの意図は分からないが、その方が最終的にツクヨミに与える傷が大きくなると判断したためである。


「なに、今の君は彼女ら(人間)よりも僕ら()に近い存在であるわけだが……そんな人間たちの祈りを聞く側の存在になった気分はどうだと言う話さ」

「……」

 俺は敢えてツクヨミの質問に対して肯定も否定もせず、沈黙を答えとした。

 そんな俺の姿を見てどう思ったのかは分からないが、とにかくツクヨミは話を続ける。


「人間たちの祈りと言うのは実に自分勝手な物だ。頭が良くなりたい。速く走れるようになりたい。力が強くなりたい。願いの形は様々だけれども、どれもこれもその祈りを受け取る僕ら神の側の事は考えていない事には変わりの無い物だ」

「…………」

 俺はツクヨミに気づかれないように黒凍姫を強く握りしめる。

 が、それでも周囲への警戒と、ツクヨミの挙動には細心の注意を払い続けておく。


「そうさ!神だって万能じゃあない。叶えてやれる願いも有れば、叶えられない願いだってある。だから僕ら神々は自分が叶えてやろうと思った願いだけは叶えて、大した対価も用意しないで乞われた願いや、分不相応な願いなんかは叶えないようにしたのさ」

「……」

「だが人間たちは底抜けに愚かだ。愚かだから、そんな僕らの思慮深い考えを理解する事が出来ず、自分たちに原因があると言うのに神に責任を押し付けた挙句、上手く行った時だけは自分たちの実力だと驕り高ぶるのさ。それは実に身勝手で、度し難い事だと君は思わないか!?」

「…………」

「そして恐らくは、君が今一緒に居る人間たちもそう言う点では一緒じゃあないのかな?君の前では見せていないだけで、影では君の功績を妬んだり、自分の功績だと嘯いているんじゃあないかな?」

「………………」

「さて、その上で聞かせてもらおうじゃないか」

 ツクヨミはゆっくりと俺の方に向かって右手を差し出す。

 その表情は今までのものとは違い、神の名に相応しい真摯なものであるように見えた。


「アキラ・ホワイトアイス君。イース君。君ら二人の力を僕に貸してくれ。そして、アマテラスのような愚物まで救い上げようとする愚かな神々とは縁を切り、ここではない別の世界に君らの為の世界を築き上げるんだ。大丈夫。君たち二人なら、世界の一つや二つぐらい簡単に作り上げられるし、分からない事があっても僕が優しく教えてあげるからさ」

 そして、その口から出てきたのは、一見すれば求婚の言葉とも取れるような甘美な言葉だった。

 ああなるほど。

 確かに今のイースの力なら別の世界に行っても通用するだろうし、そこで自分の望む世界を作り上げる事ぐらいは訳ないだろう。

 内容を額面通りに受け取るのなら、実に素敵なお誘いではある。


「くくっ……ぷくくくく……」

「ん?どうしたんだい?何も迷う事なんて無いだろ?さあ、僕の手を……」

 ただ幾つか言っておかないといけない事があるな。


「戯言も大概にしろよ。ツクヨミ」

「なっ!?」

 俺は巫術・マキュリシアンノツルギを発動すると、俺に向かって伸ばされていたツクヨミの右手を手首の辺りから黒凍姫の先に生じた氷の刃で切り飛ばす。

 ツクヨミの甘言を拒絶する言葉と共に。


「ぐっ……何を!?」

「まず一つ。ツクヨミ。お前は仲間に誘っている相手に幻術を掛けるのか?だとしたら、お前はアマテラス様とは比べ物にならない程に愚かな存在だよ」

 俺の言葉にツクヨミが眉根を顰める。

 だが俺はそんなツクヨミの行動は無視して、白湧騎の動力炉に大量の力を注ぎ込む。


「二つ。他の言葉はともかく、大した付き合いも無い貴様如きがトキさんたちを侮辱するとはどういう了見だ?」

「ごがっ!?」

「なっ!?」

 そして、白湧騎を後ろに向かって急加速。

 幻術で姿を隠し、俺の後ろに立っていたツクヨミの分体を撥ね飛ばした上に、発動したままだったマキュリアンノツルギの刃を腹の辺りに向かって飛ばし、その身体を雪原に縫い止めてやる。


「ちっ、所詮は人間上がりの上に、未だに畜生の領域に片足を置いているような存在だったか!もういい!そう言う事なら……」

「三つ……」

 ツクヨミが切り飛ばされた右手を再生しながら腰に佩いていた剣を抜き、同時に俺の事を罵り吐き捨てる。

 ただ正直に言わせてもらおうか。

 俺が一番怒っているのは、俺に対して幻術を仕掛けた事でも、トキさんたちを侮辱したことでもない。

 俺が一番怒っているのは……


「始末……」

「お前如きに俺に対して祈りを捧げてくれた者たちを決めつける権利なんざねえんだよ!!」

「「!?」」

 俺はイースとの融合率を高めると、それに合わせる形で背中に生じた氷の茨で、天井裏に潜んでいたツクヨミの分体を串刺しにする。

 と、同時に右脚へ力を集めながら振り上げ、集まり切ったところで床に右足を叩きつける形で巫術・フロスェンリルズノキバを発動。

 俺を中心として、今居る神社どころか周囲数十mの範囲内に在るすべての物を巻き込み、吹き飛ばすような勢いで無数の氷の刃が発生する。

 普通の相手なら、間違いなく仕留めただろう。


「…………」

 だが俺は雪煙の向こうで動く気配を感じ、注意を払いながら移動を始める。


「ちっ、流石にこの程度じゃマトモな手傷も負わないか」

 そして、無数に存在する刃の内の一本の上で、俺は予想通りの光景が見えたために至極残念そうに呟く。


「全く。畜生の分際で良くもやってくれたね。この借りは高くつくよ」

「黙れツクヨミ。それは俺の台詞だ」

 俺の目の前には、支えもなく宙に浮いた、青年の姿を取っているツクヨミが居た。

流石のアキラちゃんもブチ切れました


01/23誤字訂正

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