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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第210話「戦いの日の朝-1」

「おっ、全員揃ってンな」

 翌朝。

 俺とパッツァさんがこしらえた朝食を食べ終えた俺たちの前に、徹夜をしたはずなのに隈の一つどころか疲れた素振りすら無い茉波さんが、俺よりも頭一つ分は大きい縦長の箱のような物と一緒に現れた。


「何と言うか……」

「流石は茉波さんですね……」

「いや、攻め入るのが今日の夜なのを考えれば……」

「だとしても常識外れにも程が……」

「もう茉波さんだからしょうがないと思うべきだとアタシは思う」

 その縦長の箱の中身については、俺も含めた全員が直ぐに分かった。

 分かったからこそ、俺たち五人全員で呆れてしまったのだが。


「さて、とりあえず御姫様たちの要望通りの装備は出来上がったが、細かい調整に関してはまだだ。と言うわけで、俺は朝飯を食ってるから、いろいろ試してみてくれ」

「分かった」

 と言うわけで、厨房と食堂に残っていた朝食を茉波さんが食べ始めた所で、俺たちは茉波さんが持って来ていた縦長の箱を開ける。

 するとどうやら、縦長の箱の中は複数の区画に分けられており、それぞれの区画の中に俺たちが茉波さんに作成を依頼した物が入っているようだった。


「じゃ、一つずつ確認していくか」

「そうですね」

 なので、俺は適当に手近な区画から開けていく。


「えーと、まずは槍か」

「でしたら私ですね」

 一つ目の区画には一本の槍が収納されていた。

 槍の長さは俺の身長より少し長い程度で、俺の目で見る限りは鍔の部分に風車のようなものが付いている以外は普通の金属製の槍に見えた。

 多少、妙な力を纏っている気配もしたが。

 まあ、それはさておいて、俺が風見さんに槍を渡すと、風見さんは周りに物が無い場所に移動してから、調子を確かめるように軽く振ってみせる。


「いい感じですね。多少の調整は必要そうですが、これなら武器としても、神力を扱うための装備としても十全に扱えそうです」

 調子を確かめ終った風見さんは笑顔でそう言う。

 どうやら大きな問題は無いらしい。

 なお、風見さんが今まで使っていた風車から今持っている槍に装備を変えたのは、やはり今回のツクヨミによる契約切りの件で思う所が色々と有ったからのようだ。

 恐らくは契約が切れても最低限の自衛は出来るようにと言ったところだろう。


「次は何ですか?」

「と、ちょっと待ってくれ。次は……糸巻きの棒か?」

「あ、それは私です」

 トキさんに急かされて次の区画を開けた俺の目に、機織り機で使われるような、中心に糸を巻き付けておく場所がある木製の棒が映り込んでくる。

 布縫さんの物らしいが……どう使うんだこれ?

 とりあえず何時までも俺が持っていてもしょうがないので、俺は布縫さんにその棒を渡す。


「ありがとうございます。私もちょっと試してみますね」

 布縫さんはそう言うと、風見さんと同じように出来上がった装備の調子を確かめていく。

 うーん、布縫さんの役割からすると障壁強化とか、そんな感じだと思うんだが……まあ、後で作戦を決める時に詳しい事は聞けばいいか。


「じゃあ、次行くぞ。これは……剣だな」

 俺は次の区画を開ける。

 中に入っていたのは、穂乃さんが使っていた物とよく似た、華美な装飾が施された儀礼剣だった。

 と言うかこれ、穂乃さんが茉波さん製の儀礼剣にする前に使っていた剣そのものじゃないのか?

 何となく見覚えもあるし。


「えーと……」

「アキラお姉様。それはアタシのです」

「ソラさんの?」

「はい。その……風見さんたちと一緒でアタシにもちょっと思う所が有ったので、サーベイラオリ様に頼んで穂乃さんの家から持って来てもらったのを元に、茉波さんにアタシに合わせた改造をして貰ったんです」

「ふうむ……」

 ソラさんが剣かぁ……まあ、本人が納得しているのならいいのかな?

 見た限りでは問題なく扱えているみたいだし。

 それに見た目こそ穂乃さんの儀礼剣だけど、茉波さんが改造したって言うなら中身は全くの別物なっているんだろうな。

 うん、この予想については間違いないと言えるな。


 ちなみに、後で話を聞いたところ。

 流石に黙って穂乃さんの儀礼剣を持っていくのは拙いと判断したサーベイラオリ様が、穂乃さんの家にサーベイラオリ様とアマテラス様の名前で儀礼剣を貰って行く事と、詳しい事情についてはまたいずれ話させてもらう旨を記した手紙を儀礼剣の代わりに置いておいたらしい。

 何と言うか後の事情説明がすごく重くなりそうな気がするなぁ……。


「さて、そうなると残りは……」

「私かアキラさんのですね」

「だな。どうしてか数が合ってないけど」

 俺は残り三つ(・・)ある区画を開けていく。

 一つ目の区画には、トキさんが頼んだ物であろう巨大な盾が入っていた。

 盾を持ったトキさんは、一瞬その軽さに驚いているようだったが、直ぐに茉波さんから今までの盾よりも強度は上がっているし、『神喰らい』の力が有れば必要な時だけ重くすることも出来るから問題ないと言う言葉を受けて納得しているようだった。

 うーん、俺の黒凍姫や白湧騎に使われている霧鋼系列みたいに軽くて丈夫な金属を使っているのか?


「で、こっちは……やっぱり俺のか」

 二つ目の区画には俺の武器である『吟銃・黒凍姫』が入っており、俺は無造作に掴むと、まずは力の通り具合を確かめる。

 うん、明らかに以前のよりも良くなっている。

 イースの力を使う部分もそうだが、巫術を使う際の補助具としての機能も向上しているな。

 これなら調節の必要は無さそうだ。


「茉波さん。白湧騎は?」

「モグモグ……ン?白湧騎か?あっちは俺の研究室に置いてあるから、俺の朝飯と御姫様たちの確認が終わった後だ」

「分かった」

 で、俺のもう一つの武器とも言える『銀獣・白湧騎』についても茉波さんに調節を頼んでいたのだが、流石の茉波さんもこの食堂にバイクを持ち込むのは自重したらしい。

 まあ、当然と言えば当然か。

 さて、そうなると一つ気になる事がある。


「……」

 俺はまだ開けられていない区画に目をやる。

 白湧騎はこの場に無いと言われたし、入るとも思えない。

 皆が頼んだ装備品については、消耗品を除けば既に全部有る。

 だが茉波さんは装備と言ったので、恐らくこの中に有るのは消耗品の類ではない。

 となればこの区画には一体何が入っている?


「茉波さん。開けても?」

「ズズッ……むしろ開けて確かめてくれ。そいつも細かい調整が必要になるものだからな」

「分かった」

 俺は茉波さんの許可を得て、最後の区画を開ける。

 気が付けばトキさんたちも俺の後ろに集まっていた。

 何故かトキさんの盾の後ろに隠れる形ではあったが。


「これは……!?」

 そして俺の目に映り込んだのは……


 凄まじく緻密な構造を持った力を纏う五着の服だった。

布縫さんの新装備である糸巻きの棒ですが、正しくは()もしくはシャトルと呼ばれるアレです。

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