第181話「崩壊-1」
「はぁはぁ……何とか……」
「何とか上手くいきましたね……」
「もうこんなのはやりたくないよ……」
『祈りの塔』の中層部が崩壊し、下層部に向かって落下する事になった田鹿トキを除く特務班の四人は自分たちの能力を組み合わせ、活用する事によって何とか新たな傷を負わずに軟着陸することに成功し、瓦礫の間で一息吐いていた。
「ゲホゲホッ……三人ともお疲れ様ですわ。それと、こんな状況で手伝えなくてすみません」
「別に構いません。穂乃お嬢様にはアキラ様の身体を支えると言う役目も有りましたし」
「それに本音を言わせてもらうのなら、今の穂乃さんはアキラお姉様並の怪我人なんだから、むしろこっちが申し訳ないぐらいだよ」
「とりあえず、周囲に空気を動かすような存在は居ませんし、鏡石も有りませんから少し落ち着きましょうか」
「そう……ですわね」
ちなみに、軟着陸の方法としては田鹿ソラが下層部との距離を近くする事によって重力による加速が行われる時間を短くし、布縫ユイが障壁によって全員の身体を保護、風見ツツジが強力な上昇気流を発生させることによって減速すると言う自然法則に真っ向から抗う方法であったため、咄嗟の事であったことも含めて三人全員の消費が重いのは当然と言えた。
「っつ!?誰かが……」
「大丈夫だよ」
「アキラさ……っつ!?」
そうして周囲への最低限の警戒はしつつも、ほぼ完全に崩れ落ちた『祈りの塔』の中で特務班が休憩をしていると、未だ瞳の色が元に戻っていない田鹿トキが瓦礫の影から現れ……、
「ソラ!?」
「今のを避けられるのなら本物のトキ姉ちゃんだから」
「ですわね」
それを事前に知っていた田鹿ソラは本物の田鹿トキでなければ避けられない瞬間を狙って小石を投げつけて彼女が本物であることを確かめてから、近づいても構わない事を態度と仕草で示す。
「それでアキラさんの状態は?」
「傷口そのものはイース様の自己再生能力で塞がっています。ですが……」
「トキ姉ちゃんも分かってるでしょ?あの時の一撃からして、内臓のいくつかと重要な血管、それに背骨を丸ごと抉られてるのは間違いないんだよ。だから表面上は大丈夫に見えても、中身はボロボロかもしれない」
「…………」
田鹿トキの問いに対して穂乃オオリは俯くと共に心配そうな顔を浮かべて、田鹿ソラは明らかに怒りの感情を浮かべるも、此処が敵地であることに配慮してか小声で静かに話す。
会話に加わっていない風見ツツジと布縫ユイも悔しそうで、かつ憤っているような顔をしているのは同じだった。
「それでトキ姉ちゃん?特務班総班長代理としてこれからどうするの?」
「……。敵に見つかる前にアキラさんを連れて撤退する他ないと思います。悔しいですが私たちだけでは真旗カッコウと黒土ベイタの二人は勿論、ノーフェたちにも抗い切れる可能性は低いですし、アキラさんが求めていた物がグレイシアンの何処にあるかも私たちだけでは分かりませんから……っつ……(これは先程の力の反動ですね……身の丈に合わない力の代償と言ったところですか……)」
気が付けば、そう告げる田鹿トキの瞳は元の色に戻っており、油断すれば今すぐにでも気絶してしまいそうな程の疲労が襲い掛かって来ていた。
ただそれでもこれ以上の行動不能者を出してしまえば逃げ出す事も叶わなくなると分かっていたために、田鹿トキは必死に自分の意識を繋いでおり、他の面々も田鹿トキが無茶をしている事はその立ち振る舞いから察したが、口には出さず行動で支える事を視線だけで打ち合せていた。
「ふぅ、やっぱり特務班だったでやんすか……」
「「「っつ!?」」」
そんな中で、突如として第三者の言葉がこの場に響き、特務班の面々は一斉に言葉がした方に向かって得物を構えた状態で向く。
「ちょっ!?待つでやんすよ!?あっしでやんす、三理マコトでやんすよ!?」
特務班のその機敏な対応に驚いた第三者……三理マコトは両手を上に上げて敵でない事を示しながらその姿を特務班の前に表す。
「三理君!?その傷は……」
「ん?ああ、気にしなくていいでやんすよ。自分の力に見合わない力を求め、使ったツケでやんすから」
「ツケって……」
だがしかし、その姿は特務班の面々が知るものとは大きく異なっており、その姿を見た五人は思わず声を上げる。
と言うのも今の三理マコトは、顔の半分と皮膚の大半は焼け爛れ、服の端々には炎で激しく炙られたような跡が残っており、同じ火傷であっても明らかに穂乃オオリ以上の重傷を負っていて、その足取りも何処かふらついたものであったためであり、はっきり言ってしまえば、今立って話していられるのもおかしいような傷だった。
「さて、落ち着いて話す暇も、治療を受ける余裕も無いんで、とっとと道具と情報の提供をしてやるでやんすよ」
「「「…………」」」
「まっず穂乃オオリにはこれを渡しておくでやんす」
だが三理マコトは応急手当すら手を前に出して断ると、自身の腰に付けていた一本の筒を穂乃オオリに向けて投げ渡す。
「これは?」
「火之迦具土神……カグツチ様が所有する『シンなる火』っすよ。使った人間がどうなるかはともかく、後一回ぐらいは多分使えるでやんすよ」
「…………」
三理マコトはそう言うと自分の焼けた顔を見せつけるような仕草を一瞬だけし、その仕草に『シンなる火』が収められた筒を受け取った穂乃オオリは筒の中身がどういうものであるかを理解する。
「で、情報でやんすけど、あっしが戦って仕留めた相手が向こうの方に転がっているでやんすから、その腹を掻っ捌くと良いでやんす。勘っすけど、そこにホワイトアイスさんが求めていたものが有るはずっすから」
「分かりました。それで……」
「ん?」
「それで三理君はこれからどうするんですか?その傷は今すぐにでも治療をしなければ……」
そして、穂乃オオリが理解したのを察した所で三理マコトは瓦礫の向こう側を指差して情報を伝えると、今すぐ命が尽きてもおかしくないはずの身を翻してこの場から去ろうとし、当然のことながら田鹿トキたちは三理マコトをこの場に留めようとする。
「必要ないっすよ。あっしにはあっしなりの伝手と方法があるでやんすから。それよりも早くこの場を去る事を勧めるっす。これだけ派手にやったのなら、何時『軍』の奴が帰って来てもおかしくないはずでやんすから」
だが、三理マコトは田鹿トキの申し出を断ると、その身を何処かに眩ませてこの場から消え去り、後には焼けた服の切れ端がいくつか残るだけだった。
「……。私たちも急ぎましょう」
「「「……」」」
そして、特務班の面々は三理マコトの言葉に従うべく、未だに目を覚まさないアキラの身体を田鹿トキが抱えると、この場から離れるべく動き出した。
見事に『祈りの塔』は崩れました。
さりげなく、腹を貫かれた程度では死なないアキラちゃん。
12/22誤字訂正




