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氷像のバジリスク  作者: 栗木下


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第171話「肉の迷宮-4」

「『我は氷鱗の巫女アキラ・ホワイトアイス。宙漂う水たちよ、我が身を守る氷壁と成れ。巫術・トウノミヤ!』」

「皆、下がって!ぐっ……」

「補助します!!」

『ミイィガァ!?』

 大きく口を開いて突撃してきたソレの攻撃を、俺のトウノミヤが一瞬受け止めて粉砕される代わりに勢いを殺し、続けてトキさんの盾が直接的に攻撃を防ぎ、余波として撒き散らされた衝撃波を布縫さんの障壁が防ぐ。

 やはり大きいだけあって、一撃がかなり重そうだな。


「サーベイラオリ様!」

『ミィ……グゥ……』

 だが動きは止まった。

 なので、少し離れた場所に立っていたソラさんがハンマーを振り上げ、その動きに合わせる様にソレが開いていた口が勢いよく閉ざされ、勢いそのままに上半身を大きく仰け反る。

 恐らくはサーベイラオリ様の力を使ってソレの顎を遠くから叩いたのだろう。


「カグツチ様!」

「シナツヒコ様!」

『!?』

 そして、仰け反ったソレに向かって穂乃さんと風見さんの攻撃が向かい、空気を供給された事によって火勢を大きく増した炎はソレの上半身を一瞬にして包み込む。

 さて、普通のモンスターならこれで終わりだが……。


『ミ゛イ゛イ゛イ゛イ゛ィ゛ィ゛ィ゛ィ゛ト゛オ゛オ゛オ゛ォ゛ォ゛ォ゛!!』

「「「っつ!?」」」

 ソレはおぞましい雄叫びを上げながら、床の上を滑るように後退。

 俺たちがソレの雄叫びに思わず身を竦め、耳を塞いでいる内に、周囲に肉と変なものを混ぜた物が焼ける臭いをバラ撒きながら、そのまま壁の中へとソレは消え去っていく。

 だが、ソレの戦意は衰えていないらしく、何処かからかこちらを窺っているような気配が漂ってくる。

 しかし、俺には相手の戦意が衰えていない事以上に気になる事があった。


「ソラさん。それに皆。一つ聞くけど、さっきの奴の体の何処かに核みたいなものは見た?」

「いえ、見ていません」

「同じくですわ」

「穂乃お嬢様と同じです」

「私も同じです」

「アキラお姉様ごめん。アタシの見間違いじゃなければ、アレの身体には何処にも核は無かったと思う」

「やっぱりか……」

『拙いな……』

 そして皆の言葉は、俺が気になっていた事が正しかった事を証明してしまった。

 俺たちを攻撃してきているソレには核が無い。

 その言葉が指し示す可能性としては一応三つ挙げられる。

 一つ目はただ単に誰も核を見つけられなかったと言う楽観的とも言える可能性。

 二つ目は核を持たない、モンスターとも『マリス』とも異なる敵性存在であると言う可能性。

 三つ目は……この『迷宮』自体がモンスターではないかと言う、ある意味絶望を具現してしまったとも言える可能性。


「普通の目しか持たない私たちならともかく、ソラさんが核を見逃すと言うのは考えづらいですわね」

「そして、新種だとするのは、今までを考えるとどこか違和感があります」

「実際、核の無いモンスターを作れるのなら、どうして今まで作らなかったと言う話だしね」

「だとしたら、核は何処に……ああ、そう言う事ですか」

「ははは、だとしたら手の打ち様が無いですね……」

 俺たちはお互いに背中合わせになって周囲を警戒しながら、ソレがどういう存在であるのかについて手早く意見を交わしていくが、その結果として行き付いた結論はやはり三つ目の可能性である、この『迷宮』自体がモンスターであると言う可能性だった。

 同時に、そう考えた場合の話になるが、ソレの核が有る場所にも簡単に思い至ることが出来た。


「まったく……この広大かつ複雑な『迷宮』を駆け廻って、全ての核を破壊しろと言うのは流石に無理があるだろ」

 つまり、ソレの核は乱暴に表してしまえば先程の広間に在った赤い結晶の柱を含めたこの『迷宮』中に在る全てのモンスターの核がソレの核になっているのだと言う事実に。


「はぁ……あの赤い液体を送り出している場所を探り出して潰したとしても、個人でどうこう出来る相手ではありませんね」

「ですわね。流石に都市一つ丸ごとモンスターだと言うのは、私たちが相手に出来る次元ではありませんわ」

「じゃあ、どうするのさ……?」

「俺たちの目的は……」

 そして今後の方針を決めるべく話をしていた時だった。

 気づけたのは殆ど偶然のようなものだった。

 いや、あの精神世界で積んだ膨大な量の戦闘経験のおかげで、導き出せた勘のようなものだったのかもしれない。

 いずれにしても確かなのは、俺たちがソレの正体に気づいた事にソレの側が気づき、俺たちが今立っている場所も含めて周囲に在るすべてのソレの肉体が攻撃を仕掛けようと動き出している事実であり、ソレの動きに対応できるのが俺以外にいないと言う事実だった。


「時間停止!」

 だから俺は咄嗟の判断で周囲の時間を止める。


「『我は氷鱗の巫女アキラ・ホワイトアイス。大地よ!長き永き冬の訪れを告げる風とともに、遠き遠き春に至るまで冷たき眠りに就くがいい!巫術・ウィトウノカゼ!』」

 そして続けざまに巫術の詠唱を行い、詠唱終了と同時に黒凍姫の銃口を足元に向け、その引き金を引く。


「くっ……これ以上は無理か……」

 すると黒凍姫の弾丸が当たった場所を始点として俺たち六人が立っている場所の下も含めてソレの肉体が凍りついていく……が、布縫さんの張り巡らしている障壁の辺りを境目としてそれ以上に氷の領域を広げる事は出来ず、時間停止が終わると共に俺の身体に強い負荷がかかってくる。


「これは……」

「ぐうっ……」

「すみませんアキラ様。それに布縫さんも」

「考えてみれば床まで敵だもんね……」

『アキラよ。我も協力するぞ』

 皆は周囲の変化に一瞬驚くが、直ぐに何があったのかを理解して、この場をどう切り抜けるかを考え始め、俺もイースの補助が入る事によって氷の領域を僅かではあるが広げることに成功する。

 それでも布縫さん共々、領域の維持にて一杯になっているわけだが。


「で、本当にこれからどうしますか?」

「相手の核が『迷宮』中に在るのなら、私たちだけで倒すのはまず無理です」

「となれば、残る選択肢は一つですわね」

「だね。それしかないと思う」

 そして、そんな俺と布縫さんの状態を察してか、トキさんたちの意見も直ぐにまとまりを見せる。

 実際問題、この状況で俺たちが取れる選択肢何てそれしかないわけだが。


「では風見さん。ソラさん」

「分かっています穂乃お嬢様」

「うん。時間稼ぎにはなるはずだから安心して」

 数秒間だけ三人がそれぞれの得物に神力を集め、呼吸を合わせるべく息を整えていく。

 そして呼吸が合ったところで……


「「「行きます!」」」

 穂乃さんと風見さんの合わせ技による炎の竜巻がソレの身体を焼き払い、隙間を埋めるべく伸びるソレの身体は布縫さんの障壁と俺のウィトウノカゼだけでなく、ソラさんの空間を引き延ばす力によって抑え込む。

 そして出来上がった間隙に向けて俺たち全員(布縫さんはトキさんに担がれてだが)は走り出し、その先に在るこの場からの脱出口……つまりは鏡石の柱に向かって俺たちは飛びこんだのだった。

肉の『迷宮』=『迷宮』の主

うん。何時かは出すべきだと思っていた。

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